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侑生の家は、高級住宅街の白金駅にある邸宅だ。お祖父さんが地元で一番おおきな病院の院長だし、そもそも四、五代前に開業した医者一族だしで、絵に描いたような豪邸だった。
だから玄関も当然のように立派なのだけれど、いつも靴箱の上が妙に殺風景なのが気になっていた。当時は首を傾げるばかりだったけれど、今になって思えば、父子家庭の玄関が華やかに飾られていることのほうが珍しいというだけの話だ。
侑生のご両親は離婚し、お母さんと妹さんは岡山に住んでいて、侑生の家はいつも空っぽだった。
「昼飯食ったの」
「食べてきた。侑生、食べてないの? 何か作る?」
「食べてないけど、朝遅かったから別に要らない。てか作るってなんだよ」
「だって目の前の侑生、高校生だから」
侑生の食事はいつも冷蔵庫に入っている家政婦さんの作り置きだった。当時の私は大したものを作ることができなかったけれど、今の私は一人暮らし歴もそこそこ長い。
夢の中の侑生はやっぱり少し変な顔をする。
「……未来の英凜は、何歳だったの」
「三十歳」
「めちゃくちゃ年上だな」
「年上通り越しておばさんだけど、未来は侑生も三十歳だよ」
「何してたの、三十歳の俺達」
「侑生は多分医者かな、卒業してから連絡取ってないから知らないんだけど。私は弁護士」
「喧嘩別れでもしてんの、俺達」
お湯を沸かして、紅茶を淹れる準備をする。侑生はコーヒーより紅茶派だった。
「……喧嘩したわけじゃないんだけど」
「けど?」
「……高校二年生の夏って、新庄は少年院だよね?」
ティーポットにお湯を注いでいる侑生の横顔が、わずかに強張る。
昴夜と侑生、そして新庄は小学校の同級生だった。新庄は恵まれたお坊ちゃまの侑生が気に食わず、借りるという名目でカツアゲを始め、しかし侑生も黙ってはやられず、やがて喧嘩になったそうだ。そうして、新庄は、妹を誘拐して侑生を甚振り、それを助けにきた昴夜と喧嘩をし……と、三人は犬猿の仲なんて生易しい表現ではおさまらない関係となった。
その新庄は、高校二年生の夏休みに詐欺罪――オレオレ詐欺のバイトの斡旋で逮捕された。その際に余罪も明らかにされ、少年院に入った。だから今は、一色市にいない。
「……そうだけど、新庄に何かされるの」
「……卒業した後、私の、大学の合格発表の後に……」
でも、私達が高校を卒業する頃に、彼は戻ってくる。
「……何から話せばいいんだろう」
“うちの高校に伝説の不良がいてさ、クソ野郎って有名だった不良をぶっ殺したんだよ”――十余年経ったいまでもそう語られるあの事件のことを、どう説明したら。
だから玄関も当然のように立派なのだけれど、いつも靴箱の上が妙に殺風景なのが気になっていた。当時は首を傾げるばかりだったけれど、今になって思えば、父子家庭の玄関が華やかに飾られていることのほうが珍しいというだけの話だ。
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「だって目の前の侑生、高校生だから」
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「三十歳」
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「けど?」
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その新庄は、高校二年生の夏休みに詐欺罪――オレオレ詐欺のバイトの斡旋で逮捕された。その際に余罪も明らかにされ、少年院に入った。だから今は、一色市にいない。
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でも、私達が高校を卒業する頃に、彼は戻ってくる。
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