喫茶店、メモリーフラッグの裏メニュー

砂のカモメ

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第2章 「やりたいこと」を探して

第9話 その贈り物を取りこぼさずに

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「あ、あの……明日一緒に買い物に行きませんか?」
家に帰って沙羅ちゃんに言われたのは意外な一言だった。
「いいけど……何買いに行くの?」
「この間お花見、今週の日曜日ならいいよってお母さんが言ってくれたから……お弁当の材料の買い出しに行きたいの」
沙羅ちゃんが言うので私は頷くと、「小学校の正門の前で待ってて」と約束した。

  
 翌日、約束通り正門前に行くとすでに沙羅ちゃんは待っていた。彼女はこちらに気づくと大きく手を振る。
「待たせてごめんね」
私が謝ると
「ううん。今終わったばかりだから……」
と大きく首を振る。私は「行こっか」と声をかけて自転車を降りた。
「何入れるかはだいたい決まってるんだよね?」
私が聞くと沙羅ちゃんはコクリと頷く。
「卵焼きと唐揚げとポテトサラダ、ミートボール。それからね……」
ウキウキしながら話す沙羅ちゃんの言葉に私はただうんうんと頷いていた。

スーパーに入ると「あなーたのちーかくのファミリーファミリー♪みてみてかーって新鮮美味しいファミリーファミリー♪」と言うこのスーパーお馴染みのテーマソングが聞こえてくる。
 音楽になんとなく耳を傾けながらカートを持ってくると、沙羅ちゃんはカゴを持ってきてくれたようでカートの上に乗せた、
 店内をキョロキョロと見回す。手前の野菜コーナーからジャガイモときゅうりをカートに入れる。玉ねぎと人参は家にあったはずなので除外だ。そんなことをしている間に近くの卵コーナーから10個入りの卵を沙羅ちゃんが持ってきてくれたので受け取ってカゴに入れる。鳥もも肉と唐揚げ粉を買う。焼き海苔と昆布、シャケフレーク……それからお菓子を買って終わりだ。

 会計を済ませて外へ出る。荷物は意外に少ないので自転車のカゴに乗せて歩く。気がつけば日はすでに傾いていた。橙色の街には春とはいえ冷たい風が吹く。自転車のカラカラという音とビニール袋の擦れる音がする。驚くほど静かな街は少し寂し気だ。
 沙羅ちゃんが不意に言う。
「一緒に行ってくれてありがとうございます。明日が楽しみだな」
「お弁当美味しくできるといいね」
私がいうと沙羅ちゃんは「うん」と言って小さくうなずいた。料理は一也さんと一緒に作ると聞いたのできっと大丈夫だろう。それに沙羅ちゃんも普段から料理をする子なので、大人に負けず劣らず料理が上手い。

 
  翌日、沙羅ちゃんは朝早くから料理に励んでいた。揚げ物は一也さんにやってもらっていたがそれ以外は全部一人でやっているらしい。小学五年生で3人分のお弁当を作るのは素直にすごいと思う。

 一也さんが運転する車に乗り込み、目的地に行く。
 「どこに花見に行くんですか?」
そもそも目的地を知らない私は聞いてみる。
「海ヶ崎公園。桜と海が一緒に楽しめるって有名な花見スポットだよ」
一也さんが教えてくれた。
「クリスマスシーズンにはイルミネーションもやるの。それも規模が大きくてとっても綺麗なのよ」
雪菜さんは思い出すように言う……以前にもきたことがあるのだろうか?

 公園の広い駐車場には観光地よろしく大きなバスがいくつか止まっていた。車を止めて公園内に入ると、たくさんの屋台と人、そして満開の桜が出迎える。

「綺麗だね」
海風に乗って散る花吹雪のなかをくるくると回りながら沙羅ちゃんははしゃぐ。私はレジャーシートを持って後を追いかける。キョロキョロと辺りを見回しても空いている場所は少ない。
「あそこなんかどう?」
雪菜さんは少し桜の木がまばらになりひらけた場所を指差す。そこは桜の木は少し遠くても海の目の前だった。風が気持ちいい。私はうなずいてレジャーシートを広げる。飛ばされないようにリュックを置いた。一也さんは自分のリュックから大きな重箱と水筒を取り出す。

 沙羅ちゃんお手製のお弁当はかなり一生懸命作ったことがわかる。どのおかずもすごい量だ。しかし当の作った本人は桜に心奪われたようで、ご飯よりも花吹雪の中に飛び込んで行きたそうにしている。そんな様子を見ていた一也さんは「公園の奥まで行ってみるか?たくさん木があるけど」と沙羅ちゃんに提案する。
「ありがとう!お兄ちゃん」
沙羅ちゃんは満面の笑みでいうと桜がたくさんある方に走って行く。
「二人ともお腹減ったら先食べててもいいから……俺沙羅見てるし」
そう言いのこして一也さんは沙羅ちゃんの後をおった。その顔はまさに「おてんばな妹に振り回されるお兄ちゃん」だった。

 二人が去ったあと雪菜さんは
 「ごめんなさいね、騒がしくて……」
と笑いながら言った。
「いえ……そんな……沙羅ちゃんは桜みるのずっと楽しみにしてましたから」
私も微笑みながら返す。

「……沙羅は、きっとお父さんと来たかったのかな」
雪菜さんは少し顔を曇らせた
「お父さん……」
「そう。ここね、沙羅がお父さんと生まれて初めて桜を見にきたところなの」
私は黙って話を聞く。
「そう。それからは毎年ここに花見に来ていたの。でも主人が海外で仕事することが決まってからは来なくなったの。夏には毎年主人帰ってくるんだけれど、春はどうしても忙しくて」
「………」
「最初は行こうって誘ってたんだけど、お父さんがいないから行きたくないって」
雪菜さんは少し悲しそうな顔をした。私がなんと声をかけていいのか分からずオロオロしていると、「でも」と雪菜さんは続ける。
「今年は違った。今年は自分からここに行きたいって言ったの。それはきっと貴方が来たから」
私は大きく目を見開く。
「あの子は照れ屋だけどとっても優しい子だから、きっと貴方に見せたかったんじゃないかしら。私たち家族が知っている景色を」
そう言って散って行く花びらを見据える雪菜さんの横顔は、子どもを見守る母親の顔だった。

「本当に不器用で可愛いわね」
雪菜さんはクスクスと笑う。
「…………はい」
私は目を細めて笑い返事をして、空を舞う花びらたちをじっと見つめた。

────小さな少女がくれた贈り物を取りこぼさないように、この景色を瞳に焼き付けて────
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