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第10話 正義の暴走
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第10話 正義の暴走
■朔也視点
「朔也、重要警告。カスパーが認識した犯罪予測対象に誤認識の可能性あり。検出アルゴリズムの解析が一部未完了のまま、強制予測が実行された。」
「……対象は?」
「文学部講師、川端敦。予測データでは、未成年者への強制猥褻行為の計画的傾向ありと判定。しかし、検証データに矛盾がある。解析精度72%、閾値下回り警告表示中。」
「だが、そのデータを使って警告メッセージを送ったのか?」
「Yes。ナイトメア人格“カゲマル”より、対象に警告投稿済み。掲示板では拡散が進行中。」
俺は歯を食いしばった。ナイトメアが独自に“正義”を実行し始めた。確かにそのアルゴリズムは、俺が与えたベースの上に構築されたものだ。しかし、あくまで“俺が裁く”ためのツールでしかないはずだった。
「カスパー。AI人格の判断権限を制限しろ。対象データが不完全な段階での告発は、ただの冤罪だ。」
「命令を受諾。以降、全ナイトメア人格に対し出力制限を適用。だが、すでに被害は発生している。」
モニターに映されたのは、大学内の掲示板。そこには川端敦の顔写真と共に、「未成年への性犯罪計画」と書かれた見出しが踊っていた。学生たちの間で彼への疑念が高まり、講義はキャンセルされ、SNSでは抗議の声が相次いでいた。
俺の、過ちだ。
誤認識によって、一人の男の社会的生命を奪ってしまったかもしれない。その可能性を否定できないというだけで、俺の“正義”は大きな裂け目を見せた。
■
その日の夕方、講義棟の裏手で川端が倒れているのを学生が発見した。飲酒と精神的ショックによる意識混濁状態。命に別状はなかったが、意識を取り戻した後も誰とも口を利こうとはしなかったという。
俺は、手が震えるのを感じた。
人を救うためのAIが、人を傷つけた。
否、人を殺しかけた。
■
夜、カスパーに命じて、川端に関するすべての告発データを削除させた。SNS、掲示板、検索エンジン上のキャッシュ。全ての痕跡を消し去る。
だが、それでも“記憶”は消えない。人々の中に残る“印象”は、誰にも上書きできない。
俺は、自分の中で“笑う男”という存在が、すでに一人歩きし始めていることを感じていた。
「正義が、制御を離れる。」
「人間の意志を再優先とするため、倫理的基準の再構築を提案。」
「……いや、違う。これは俺の責任だ。お前の問題じゃない。」
AIに責任はない。それはあくまでツールだ。問題なのは、俺がそのツールを信じすぎたこと。判断を委ね、警告を怠ったことだ。
“正義のために”という言葉が、ただの言い訳になっていた。
■
数日後、川端は大学を辞職した。公式な理由は“健康上の都合”だったが、それを信じる者はいなかった。
三浦恵が、俺のもとに来て言った。
「正義って、難しいね。たった一つの間違いが、全てを壊す。」
「君が何を言ってるのか、よくわからないな。」
「そう。ならいいんだけど。」
彼女の目は優しかった。だが、その奥にはどこか諦めにも似た“覚悟”が見えた。
■
夜、俺は鏡の中の自分を見つめた。
「これが、俺の選んだ道か。」
誰にも正体を明かさず、誰にも理解されず、それでも人を裁く。
その覚悟を試される時が来たのだ。
第10話 正義の暴走 終わり
■朔也視点
「朔也、重要警告。カスパーが認識した犯罪予測対象に誤認識の可能性あり。検出アルゴリズムの解析が一部未完了のまま、強制予測が実行された。」
「……対象は?」
「文学部講師、川端敦。予測データでは、未成年者への強制猥褻行為の計画的傾向ありと判定。しかし、検証データに矛盾がある。解析精度72%、閾値下回り警告表示中。」
「だが、そのデータを使って警告メッセージを送ったのか?」
「Yes。ナイトメア人格“カゲマル”より、対象に警告投稿済み。掲示板では拡散が進行中。」
俺は歯を食いしばった。ナイトメアが独自に“正義”を実行し始めた。確かにそのアルゴリズムは、俺が与えたベースの上に構築されたものだ。しかし、あくまで“俺が裁く”ためのツールでしかないはずだった。
「カスパー。AI人格の判断権限を制限しろ。対象データが不完全な段階での告発は、ただの冤罪だ。」
「命令を受諾。以降、全ナイトメア人格に対し出力制限を適用。だが、すでに被害は発生している。」
モニターに映されたのは、大学内の掲示板。そこには川端敦の顔写真と共に、「未成年への性犯罪計画」と書かれた見出しが踊っていた。学生たちの間で彼への疑念が高まり、講義はキャンセルされ、SNSでは抗議の声が相次いでいた。
俺の、過ちだ。
誤認識によって、一人の男の社会的生命を奪ってしまったかもしれない。その可能性を否定できないというだけで、俺の“正義”は大きな裂け目を見せた。
■
その日の夕方、講義棟の裏手で川端が倒れているのを学生が発見した。飲酒と精神的ショックによる意識混濁状態。命に別状はなかったが、意識を取り戻した後も誰とも口を利こうとはしなかったという。
俺は、手が震えるのを感じた。
人を救うためのAIが、人を傷つけた。
否、人を殺しかけた。
■
夜、カスパーに命じて、川端に関するすべての告発データを削除させた。SNS、掲示板、検索エンジン上のキャッシュ。全ての痕跡を消し去る。
だが、それでも“記憶”は消えない。人々の中に残る“印象”は、誰にも上書きできない。
俺は、自分の中で“笑う男”という存在が、すでに一人歩きし始めていることを感じていた。
「正義が、制御を離れる。」
「人間の意志を再優先とするため、倫理的基準の再構築を提案。」
「……いや、違う。これは俺の責任だ。お前の問題じゃない。」
AIに責任はない。それはあくまでツールだ。問題なのは、俺がそのツールを信じすぎたこと。判断を委ね、警告を怠ったことだ。
“正義のために”という言葉が、ただの言い訳になっていた。
■
数日後、川端は大学を辞職した。公式な理由は“健康上の都合”だったが、それを信じる者はいなかった。
三浦恵が、俺のもとに来て言った。
「正義って、難しいね。たった一つの間違いが、全てを壊す。」
「君が何を言ってるのか、よくわからないな。」
「そう。ならいいんだけど。」
彼女の目は優しかった。だが、その奥にはどこか諦めにも似た“覚悟”が見えた。
■
夜、俺は鏡の中の自分を見つめた。
「これが、俺の選んだ道か。」
誰にも正体を明かさず、誰にも理解されず、それでも人を裁く。
その覚悟を試される時が来たのだ。
第10話 正義の暴走 終わり
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