95 / 119
嫌われ者の僕が牢屋に入ることになった理由
①
「何故あんなことをしたんだ」
少し前まで僕の婚約者であったノルド様が問うてきた言葉に思わずふっと乾いた笑いが溢れ出た。
それは、ノルド様を馬鹿にしている笑いとかではなく、諦めのような、悲しみのような…マイナスの感情から出た笑いであったのだけど、彼は馬鹿にされたと感じているかもしれない。
僕が何故あんなことをしたのか。
それを知ったところでこの状況は何も変わらないだろうし、今更口に出したくないという気持ちが強かった。
それは部屋の90度の角に溜まったホコリのようにこびりついて取れない僕の小さなプライドなのだと思う。
「分かりません」
だから僕はノルド様の問に対して、ただ首を横に振り、分からないと笑った。
-------------------------
ノルド様と初めて会ったのは婚約が決まった後の顔合わせの場としてワードマン公爵家にお呼ばれした時だった。
当時の僕は8歳で、突然現れた婚約者に酷く緊張していた。
それに格上のワードマン公爵家に伯爵家の子供が一人で向かうの本当に勇気が必要だった。
いざ、案内されて通されたテーブルには婚約者であるノルド様が居て、その横には恐らくノルド様のお母様である公爵夫人が居た。
「貴方がユティ・クルノさん?」
第一声、公爵夫人から掛けられた言葉に体が飛び跳ねるくらいびびったが、何とかはいと返事を返すことが出来た。
「そう…ノルドさん。また後で迎えに来るわね」
僕の返事が気に入らなかったのか、どうでもよかったのか…公爵夫人は素っ気ない言葉の後、こちらを視界に入れることなく屋敷の中へと行かれてしまった。
「従者はどうしたのですか」
「え…ぁ…こ、公爵家であれば危険なこともないですし、家の従者よりも一流の方々が居るだらうと…僕ひとりで」
「貴殿の家は自分に使える従者を他家に劣ると思っているのだな。信頼できる従者を雇うことをおすすめする」
「…はい」
初手から向こうの家に対する評価はマイナスだった。
もともとクルノ伯爵家は多くの貴族や民から嫌われている。
領民でさえも、クルノ伯爵に対して良い感情を持っている者などいないような悪名高い家なのだ。
そんなクルノ家と高名なワードマン家の婚約には絶対に何か裏があるに違いない。
それなのに伯爵はついに自分も王家の血筋の仲間入りだと舞い上がっている。
僕はこの婚約は国がクルノ家の何か悪いことを暴くための策であると思っている。
だって、そうじゃなかったらこんなに僕のことを歓迎してない人が僕と婚約なんてするはずがないのだから。
あなたにおすすめの小説
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
みどりとあおとあお
うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。
ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。
モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。
そんな碧の物語です。
短編。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
たとえば、俺が幸せになってもいいのなら
夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語―――
父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。
弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。
助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。