若き領主に幸福を

薄明 喰

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第一章

魔術師は好奇心に猪突猛進

事件から4か月。

ユゲルド領はソロモン公爵家の援助を受け、領民は今までと変わらない日常を取り戻していた。


ユゲルド領の領主であるノアは最近になってやっとしっかりとした足取りで歩けるようになり、右眼に負った傷もまだ皮膚が引き攣った感じは残るが大分回復した。

痕は残っているし、眼球は失ったままだが、狭くなった視界での生活にも慣れてきた。



「ところでマルセ殿は何時までこちらに?」

マルセはずっとノアの傷を治療魔術で癒してくれている。
しばらくは酷い痛みや熱に魘されていたし、耐え難い痒みに襲われていたが、その度に甲斐甲斐しくマルセが看病してくれたので傷跡も綺麗なものだ。


ノアとしてはマルセが傍にいると色々手助けしてくれるし、魔術のことを教えてくれて面白いし、一緒にいて心地よい人なので何時までもこちらに居てくれて良いのだけれど、マルセにも仕事があったり実家のことで忙しいのでは?と思い質問した。



「国家魔術師は辞めたよ。新たに魔術研究所を設立して私が認めた者しか職員になれないようにするつもり。その研究所をあそこに造りたいんだけど許可してもらえるかい?」

「え…あそこに?なんで?」


「あいつら予想以上に地下空間を広げていたからあの場所に人が住むのは危険だと思う。それに、今回の件で魔術や魔術師に恐怖心を抱いた人は多い。魔術師として魔術を愛する者として名誉挽回の機会が欲しいんだ」


マルセの言葉にノアはんーっと顎に手を添えて考える。

ノアとしてはマルセの言う通りあの地は人が住むには不安の残る地であるから領民には引き続き西には近づかないように言うつもりなので、あの汚れた地を綺麗にしてくれて有効活用してくれると言うのなら問題ないのだが…領民たちの心はどうだろうか。

特に今回の事件で家族を亡くした者たちは?



幼い子供がいる家庭には今も定期的に挨拶に伺って、困ったことがないか等聞いている。
その時に見る残された家族の様子は皆一見穏やかに見えるが、本当のところは分からない。



それにやはり子供は突然父を失って、受け入れられていない子も居る。
「とーちゃんを返して!」と僕に突撃してきた子は数秒後走ってきた母親に頭をどつかれて大きなたんこぶを作っていたが、あの子の主張は当たり前のものだと思う。

受け入れ、受け止めなければと震える体に力を入れるが、最近では少し疲れてきた。



ぼーっとしてしまう時間が増えてきている自覚はあるしサリュにも心配をかけている。
あぁ…今はそんなことではなかったな。


魔術研究所のことだ。


「マルセ。僕個人としては全然構わないけど、その件については領民に聞き取り調査を行いたい」

「あぁ。なら私が直接聞き取り調査してこよう」



マルセはそう言うとシュンっと一瞬にして姿を消してしまった。

聞き取り調査をしてくれるのは有難いんだけどなぁ…




「サリュ。直ぐに書類を作るからそれを持ってマルセを追って」

「かしこまりました」


何の書面もなく聞き取るだけではいけない。

早急に書類を作成し、きちんと確認をサリュと行ってから騎士の1人に書類の束を渡してマルセを追うよう告げた。


「魔術研究所が出来たら必ず事務職の者を所属させよう」

「それが良いと思います」


マルセは良い人なのだけど、自分の好奇心のために猪突猛進で魔術師らしいというか…

しかし、ソロモン公爵家のお陰で国が密かに魔獣の融合など危険度の高い研究を領主に知らせず行っており、今回の事件で国家魔術師3名が証拠消滅の為に領主の腕を切り落としたことが国民に知れ渡り、僕やユゲルド領のもの達は身に覚えのない罪をきせられたり、国から脅されずに済んだ。

本当に感謝してもし足りない。



マルセだけじゃなくソロモン公爵も困ったことはないかとこまめに聞いてきてくれる。
あれやこれややってもらって申し訳ないと思うが、公爵たちは甘えられたりないなどと言うから困ったものだ。




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