脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない

綿毛ぽぽ

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 そしてライブ当日。大きなドームに人が密集している。ファンの人々は皆メンバーのカラーを意識した服で身を包む。髪型も可愛らしくセットされている人もいたり、みんな気合を入れて観に来ているが、俺はTシャツにズボン、マスクに黒縁メガネというなんだか怪しい格好だ。絃には何故か念入りに身バレしないように変装するように、と言われてこの格好にしたがかえって目立っているような気もする。
 間違ったかな……。不安に思いながらも、自分の座席へ移動した。
 
 チケット情報から事前に分かっていたものの、めちゃくちゃステージが見えない。四階の奥というかなり最悪な位置だが、モニターは見える。うーん、まあそんな顔が見たいわけじゃないしいっか。そう言い聞かせて、ペンライトを手に持ちライブが始まる時を待った。
 
 薄暗い会場に、霧が広がる。ついに始まるんだ。周囲の観客も思わず歓声を漏らす。そして天井から虹色の光が降り注いだ。ステージに立つメンバーにスポットライトが集中する。
 
「みんなー会いたかったよー!」
 
 メンバーの声に甲高い歓声が沸き起こる。早速、曲が流れてメンバー達がマイクを口に近づけた。
 
 流石オーディションで選ばれたメンバーだ。ビジュアル、実力も兼ね備えて圧巻のステージを披露する。「Gleam」というアイドル名を名付けられたのも納得する程、夜空に輝く星のようにキラキラと輝いて見える。久々にアイドルのライブに来たということもあり、興奮が高まる。
 
 そんな彼らのライブに見入ってしまっていると、なんと絃が俺の方に向けて手を振ってくれた。もしかして、俺に気づいたのかな。こんな見えにくい席なのにすごい。視力が良いのかもしれない。そう思っていたが、周囲のファン達がキャー!!と高い悲鳴をあげたため、別に俺に向けてした訳では無いと気づく。
 うわ、恥ずかしい。つい自惚れてしまったが、彼はアイドルだ。知り合いだからとはいえ、ファンに向けてだよな。
 すると、絃は今度は投げキッスまで送ってきた。こんな遠い席にまで凄いファンサだ。プロ意識が高いんだな。
 
 何曲か終わると、なんとオーディション番組中に披露した曲も流れてきた。最終回にだけ歌ったバラード曲だが、歌詞が身に染みる俺のお気に入りの曲だ。
 
 みんなのステージを見ると、あの日々の記憶が脳裏に浮かぶ。脱落したことで絶望していたが、嫌なことばかりではなかった。新しい仲間と出会うことができたおかげで、新しい発見もできて、辛い時もあったけどみんなで支え合った日々。
 曲の終盤に入り、鼻の奥がツンと痛み、目頭に熱が込み上がる。溢れ出た涙が頬を伝い、唇をぎゅっと噛んだ。
 
 曲が終わり、俺は眼鏡を取り涙を拭き取る。はあ、つい感動してしまった。周りのファンも感動して泣いている人が多く会場は静かになっている。そんな会場の雰囲気を和らげようと、メンバー達がMCに入った。
 俺も切り替えて見ようと目を開くと、パチリと目が合う。
 
「ジェヒョン……」
 
 カン・ジェヒョン。最終デビューメンバーに選ばれた最年少の韓国人だ。16歳とまだ高校生に入ったばかりの年齢だが、実力は長年練習生をしてきた人を上回る。センター分けにされた艶のある黒髪の下には切れ長の凛とした顔。スタイルも良くすらりとした手足。将来有望な男の子である。

 ジェヒョンとは、番組中に一番一緒にいた気がする。寮の部屋もペアになることが多く、ミッションでも同じグループで、ご飯やなんでもない時間も隣でいた。それはジェヒョンが日本語が全く詳しくないため、韓国語をそれなりに話せる俺が通訳として付き添っていたからかもしれないけど。
 
 でも、それだけではなくジェヒョンはきっと俺に対して懐いてくれていたなんて勝手に思っている。キリングパートという、曲で一番印象を残すパートを投票式で決めた時も、みんな華やかなメンバーを投票したけどジェヒョンだけは俺に票を入れてくれた。優しい子だ。
 
 そんなジェヒョンがぽかんと口を開けてこちらを見ていた。他のメンバーはMCの立ち位置に移動しているのに、ジェヒョンだけ硬直している。
 もしかして俺に気付いたのかな。いやいや、もう絃の件で俺は自覚した。もう思い上がらないぞ。
 
 ジェヒョンがビクとも動こうとしないため、ファンやメンバーも不審に感じ始めた。「ジェヒョン!疲れたのー?」「まだ終わってねえぞー」とメンバーから茶化されても全く聞こえてない様子だ。
 だ、大丈夫か?心配になってきた。ジェヒョンは弱音を吐かず年齢の割には大人びたクールな子だ。もしかしたら体調が悪いのに言い出せないのかも。
 
 すると、そんな心配を汲み取ったのか、なんと絃がジェヒョンの肩に腕を回して本来の立ち位置へ向かい始めた。その姿にファンから大きな歓声が沸く。流石絃。違和感無く元通りに変えた。

 無事その後もライブは続き、楽しい時間を過ごした。気づけばもう終わり、会場の照明が戻り周囲の観客は席を立って出口へ向かう。俺もその人の波に流れるように移動した。
 
 歩きながらライブの思い出に浸る。アンコールの曲も良かったよなぁ。メンバーみんなが楽しそうに歌っていて、ファンも一つになってペンライトを振っていて、これぞアイドルのライブの醍醐味って感じだ。やっぱりアイドルって良いなぁ。
 
 すると、何故か会場が騒がしくなった。どうしたんだろう。もうライブは終わったのに。立ち止まって周囲を見渡すがファンの子達は口を抑えて何処かを指差している。その方向へ視線を移す前に、空を切り裂く雷鳴のような声が耳を貫いた。
 
「ニチカ!」
 
 声の元を見ると、息を切らして肩で呼吸するジェヒョンがいた。

 
 
 
  
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