脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない

綿毛ぽぽ

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 ジェヒョン!?なんでこんな所にいるんだ。ファンの子たちもそりゃあ騒ぐだろう。ライブ終わりの会場内に普通に登場なんて想像もつかない。
 
 驚きのあまりに声が出ず立ち尽くす俺の元へジェヒョンは長い足であっという間に駆け寄り、力強く俺を抱き締めた。
 デ、デジャヴ……。ジェヒョンは周囲の目も気にせず俺よりも大きな体で包み込んだ。ジェヒョンの心臓の音がどくどくと耳朶を撫でる。それがなんだか擽ったくて俺はなんとかジェヒョンの胸から抜け出して見上げた。
 
「あの、目立ってるよ。人が……」

 そう言うとジェヒョンは腕の力を緩めた。ほっと安堵するのも束の間、なんと背中と膝裏に腕を回して抱き上げられた。
 な、なんだこの格好は……!?直ぐに下りようとするが、ジェヒョンはそんな俺を無視して会場の出口とは逆方向へ早足で歩き始めた。
 
「な、何?何があったの?」
「言っとくけど、ニチカのせいだから」
「俺?」
 
 ジェヒョンの言葉の意図がわからず、聞き返すもののジェヒョンは黙ったまま足を進めた。
 
 横抱きにされながらジェヒョンの横顔を眺め、相変わらず綺麗な顔だなんて呑気に考えていると人気の無い廊下の突き当たりでふと体を下ろされた。そして壁に追いやられてジェヒョンと向かい合わせになる。
 
「……ジェヒョン、何?俺何かした?」
「何って、分からない?急に消えて連絡も取れなくなったこっちの気持ち」

 ジェヒョンは眉根に深く皺を刻み、瞳は悲痛な色に染まっていた。その表情を見て溝内を打たれたような衝撃が走る。
 
「ご、ごめん」
「ショックだ。ニチカも、結局デビュー目当てで近寄ってきただけで、俺のこと利用してたと思ったら」
「利用!?」
「今までだってそうだった。顔が良い俺の人気に乗っかろうとして近寄ってくるヤツ。でも、ニチカは違うと思ってたのに」
 
 そ、そんなわけが無い。確かにジェヒョンはビジュアル担当と呼ばれるくらい目を引く容姿だが、俺は容姿を意識してジェヒョンに近づいたわけではない。ただ、日本語が苦手で困っているみたいだから手助けがしたかっただけだし、ジェヒョンは良い子だから仲良くなりたかっただけ。
 
 俺はジェヒョンの手を両手で包み、彼の目を真っ直ぐ見た。
 
「そんなこと考えてないよ!俺はただ、デビュー出来なくてショックで、デビューできたみんなが羨ましくて、見るだけで自分が惨めに思えて関わりを絶ったんだ。ごめん。身勝手だよね」
 
 自分で話していて情けなくて、徐々に言葉尻が小さくなっていく。弁明のつもりで話してしまったが、逆に呆れられたかもしれない。
 そのまま手を離そうとしたが逆に掴まれて、そのままジェヒョンの体へ引き寄せられた。今度は俺がジェヒョンに抱きつくような体勢になった。
 
「ジェ、ジェヒョン?」
「……もう、離れないで」
 
 縋りつくような声。ジェヒョンにそこまで思わせていたなんて、申し訳ない。もう身勝手に離れないぞ。俺は力強く頷いた。
 
「ごめん。そんなジェヒョンが俺に対して信頼してくれてたなんて思ってなくて」
「別に信頼なんてしてない。ニチカはバカだからそんな卑怯な真似考えないと思ってた」
「なっ、口が悪い。ていうかジェヒョンすごい日本語上手くなってない?」
「沢山勉強したから」
「そっかぁ。偉いね、ジェヒョンは頑張り屋だね」
 
 オーディション番組の前は一度も日本を訪れたことがなく、最低限の言葉しか知らなかったジェヒョンの口から卑怯なんて難しい言葉が出てくるとは凄いことだ。微笑んでジェヒョンを褒めると、ジェヒョンは口を尖らせた。
 
「……ニチカに比べたら別に」
「凄いよ。まだ16歳なのに」
「子供扱いすんな。俺だって」
 
 頭の後ろをジェヒョンの大きな手で引き寄せられる。ジェヒョンの綺麗な顔が徐々に近づいていく。え。こ、これくっついちゃうんじゃ……。

 艶のある唇がもう少しで触れそうになった時、突如背後から肩を掴まれて、俺とジェヒョンの間に手が差し込まれた。
 
「何してるの」
 
 地を這うような低い声が耳に入る。冷たい目で俺たちを見下ろす絃がいた。
 こ、こわっ。いつも笑顔の絃がこんな顔をするなんて衝撃的だ。普段優しい人が怒っている時ほど怖いものは無い。全身に力が入り汗が首を伝うが、ジェヒョンは全く素知らぬ顔で絃に言い返す。
 
「何ってこっちのセリフ。邪魔しないでくれない」
「邪魔じゃなくて助けに来たんだ。ジェヒョン、君は自分がアイドルだって自覚はある?こんな大騒ぎを起こして」
「それはイトにも言える。今日のライブ、やけに同じところをチラチラ見てファンサも同じ場所にして」
 
 静かに言い合っているのを二人の間で立ち竦む。お、俺はどうしたらいいんだ。二人ともこんなに仲悪かったっけ。今日のライブでは仲が良さそうだったのに。

 あわあわと戸惑っていると、急に高い声が遠くから聞こえた。Gleamのメンバー達も集まってきたようで、みんな同じ番組の仲間ということもあり声をかけてきた。
 
「いたいたー!うわぁほんとに日翔くんだ!久しぶり」
「日翔さんお久しぶり。ちょっと痩せました?また会えて嬉しいです」
「日翔なついな。おい二人とも落ち着け。次のスケジュールどうすんだよ」
 
 言い争いを止められる絃とジェヒョンだが、全く止まる勢いはなくむしろヒートアップしている。
 二人の言い合いを呆然と眺めていると、他のメンバーに楽屋のお菓子を食べないかと誘われた。そして一緒に向かおうとすると、両肩を掴まれた。
 
「どこ行くの?」
「離れないって言ったよな」
 
 二人の剣呑な顔つきに肌が粟立つ。大人しく俺はその場に留まった。他のメンバー達は俺たちを気にしながらも次のスケジュールが間に合わないからと足速に去っていく。きっと、この二人の喧嘩に巻き込まれたくないのもあるに違いない。俺も早く抜け出したい。
 
 いやぁ、なんかよく分からないけど久々に見たアイドルのライブ最高だったし今度は別のライブも見に行こうかな。
 
 呑気にそんなことを思い浮かべている俺は知らなかった。
 まさか俺とジェヒョンのハグ事件がファンに動画を撮られていて拡散されていたことを。
 SNSで番組中に付けられたジェニカというケミ名がトレンドに乗っていることも、また絃が俺にファンサを異常にしていたエピソードまでバズりとんでもなく話題になっていることも、何も知らず、呑気に考えていた。
 
 
 
 
 
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