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しおりを挟む放課後になり、いつもは夕夜が俺のクラスまで迎えに来てくれるが中々来なかったため夕夜のクラスへ行くと、クラスメイトと楽しそうに談笑していた。何を話しているのか気になり聞き耳を立てていると、なんと彼らはオメガの話をしていた。
「夕夜はやっぱオメガの発情期とか見た事あんの?」
「あるよ」
「ヒュー!!さっすがアルファ様!やっぱり超エロいの?俺AVでしか見た事ないんだけど実際はもっとエロい?」
「直ぐに救急車を呼んだから分からないかな」
困ったように笑う夕夜に比べ、相手は興奮したまま。
夕夜にどんな下品な話をしてるんだ。今すぐ止めに行った方が良いかな。さり気なくクラスに入って夕夜のことを呼べばきっと会話は終わるだろう。よし、声をかけよう。
しかし、相手の方が口を開けるのが早かった。
「もったいねー!オメガってあんまいないし折角なら番っちゃえば良かったのに」
「そんな簡単に番うものじゃないよ」
「えー夕夜ってもしかしてオメガ嫌い?」
「ううん。好きだよ」
その言葉を聞いた瞬間、胸が轟く。
い、いや、アルファなんだしオメガが好きなのは当たり前だよな。何驚いてるんだろ。普通のことなのに。
「あ、そう?良かった。なんか夕夜ってオメガの話全然しないし嫌いなのかと思ったわ」
「そんなことないよ」
「羨ましいなぁ。俺マジでアルファになりたかったもん。オメガって可愛い子ばっかじゃん。そんな子が発情してくるとかやばすぎ。最高。あとさ、巣作りも可愛くない?俺の服持ちながら俺の帰り待ってたら絶対興奮する」
きもいー!もう喋んな!と周囲の女子がブーイングを放つ。確かにキモイな。夕夜、こんなのに絡まれて可哀想。
しかし、夕夜の反応は思ってたのと違った。
「はは、でも巣作りが良いなって思うのは共感しちゃうかな」
「え、マジで!?夕夜もやっぱ思う?」
「可愛いよね。一生懸命服集めてるのとか健気だなって思う」
だよなー!と二人は笑い合う。一方、俺は唖然と立ち尽くしていた。そして知らずうちに勝手に足が動き、俺はその場から離れて一人で家に戻った。
布団にダイブした衝撃で固まっていた脳が復活する。
え、巣作りが可愛い?そんなこと思ってたの?てか巣作りってなんだっけ。服集めるとか言ってたけど、オメガってそんなのもあるの?
気になった俺は早速ネットで調べてみる。
彼らが話していた通り、発情期中のオメガが本能的にアルファの衣類を持ち込み、くるまってアルファを待つ行為らしい。
確かに可愛いとは思うが、まさか夕夜もそう思っていたなんて。夕夜はあのクラスメイトと違ってオメガと番になれるし本当は巣作りだって見れたはず。くっ、罪悪感が俺の胸に突き刺さる。
「巣作りかぁ……」
そんなのする訳ないでしょ。俺、βだし。
オメガは発情期もあり社会での扱いは悪く就職も難しい。羨ましいなんて言ったら彼等はきっと怒るだろうが、やはりオメガが羨ましいと思ってしまう。
俺がオメガだったら胸張って夕夜の隣に並べたし、夕夜を満足させることも出来たのに……。
いや、でも巣作りならベータでも出来るんじゃないか?単に衣類を掻き集めるだけなら発情期とは違ってアルファでもベータでもオメガでも出来る。
「してみようかな……」
ごくりと生唾を飲む。
オメガの巣作りとは違い紛い物だけど、もしかしたら夕夜は喜んでくれるかもしれない。夕夜の家にはいつでも来ていいと言われているし直ぐに出来そうだ。よし、明日してみよう。
そうして俺は意気込み、眠りにつこうとしたが、その前にスマホの画面に並ぶ大量の通知に気付く。
全て夕夜からで「先帰ったの?」「何か用事?」「遅れてごめんね」「今から向かっていい?」等様々なメッセージが来ている。えっ、今向かうって数分前に送られてきてるけど、本当に家に来るのか?
すると、家のインターホンの音が響く。慌てて玄関に向かうと、相変わらず天使のような顔の婚約者が立っていた。
「瑛太。先に家に帰っちゃったんだね」
「あ、ごめん」
「瑛太が謝る必要は無いよ。僕が迎えに行くのに遅れたせいだから。でも今度から一言は欲しいな」
「ごめん」
「もう、ごめんは禁止」
人差し指が伸びてきて、俺の唇を押す。驚いて目を開くと夕夜は何故か頬を緩めた。
「ふふ、ふにふにだね」
「っ、触んな!」
「ちょっと肉付いた?」
最近地味に気にしていたことを言われ、胸にグサッと矢が突き刺さる。最近確かに体重が増えてきた気がする。痩せる為にダイエットとかしないとな……。ただでさえ平凡なのにそれに加えてデブとか、それこそ夕夜に捨てられる。
「明日から運動するし気にすんな」
「僕も一緒に運動するよ?」
「お前はする必要ないだろ」
「あるよ。いつも瑛太の成長は隣で見たいから」
成長って大袈裟な。ただダイエットするだけだぞ。本当は嫌だが夕夜が捨てられた子犬のような目で見てくるせいで渋々了承した。すると嬉しそうに微笑み「暗くなってきたしまた明日」と家から去った。
本当に単純だな。普通一緒に運動するなんて面倒なだけだと思うのに、俺のことそんなに想ってくれているなんて。……巣作りしたらもっと喜んでくれるかな。多分、夕夜のことだし可愛い!と満面の笑みを浮かべるに違いない。
なんだかむず痒い気持ちを胸に、俺は眠りについた。
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