勇者様、推しです!〜溺愛されるのは解釈違いです〜

ぽぽ

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4.勇者様、神対応

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 はずだった。

「全治1週間ですね。頭を強く打っていましたが幸い骨には別状がありません。早めに治療魔法を受けたお陰でしょう。家で安静に過ごして下さいね」

 そして治療師から薬を受け取った。

 何故か俺は目覚めたら病室のベッドの上で横たわっていた。頭は包帯でぐるぐる巻きにされていて、動くと痛む。そして部屋に入ってきた女性が俺の姿を見て慌てた様子で他の人を呼んで今に至る。

 正直未だに状況がよく把握出来ていない。否、理解したくないのかもしれない。俺はとんでもない事態があった事を治療師達から聞いてしまったから。

「それにしても、ジェイミー様は治療魔法も出来るなんて本当に偉才の持ち主ね」
「初めて見ましたがミルさんを横抱きにして駆け込んだジェイミー様のお姿、絵物語に出てくる王子様のようでした……」

 嘆声を漏らす二人の治療師を見て俺は胸がキリキリと痛んだ。 
 俺には全く記憶が無いが、どうやら自ら飛び降りた俺に治療を施し、薬のお金まで前払いしてくれたらしい。

 あのジェイミー様が。
 あの、神の化身のようなジェイミー様が。
 
……う、嘘だ。嘘だと言って欲しい。だって、そんな、そんな無礼を働いたとしたら俺はあの魔物以下じゃないか。もし本当だったら俺は自分の首を切るべきである。まさか、そんな事を俺がする訳ない。うんうん。
 だが、そんな俺に容赦なく彼女達は言葉を放った。

「ミルさんも記憶が欠落しているようですが後日ジェイミー様に謝辞を述べた方が宜しいと思いますよ」
「ですです!凄く必死な表情で連れて来ましたからね!」

 そんな彼女達の言葉を聞き、俺はもう気絶してしまいそうだった。愛想笑いどころか相槌も打てないほどの衝撃である。 
 そして俺は生気を奪われた人間のように蹌踉とした足取りで家へ向かった。


 街は魔物が現れたにも関わらず建物に損傷は無く、人々は皆平穏に過ごしていた。暗い顔をしているのは俺一人だけである。
ジェイミー様にもう顔を見せることが出来ない。俺はとんでもない事をさせてしまった。俺に生きる価値なんてない……。

「ミル!」

 俯いて歩いていると、どこからか俺を呼ぶ声がした。見上げると、あの日共に居たクレアが居た。悲痛な顔をしてこちらへ走ってきて強く俺を抱き締めた。
彼女は華奢な見た目をしているが、毎朝街中にパンの配達をしているだけありかなりの腕力である。抱擁の力が強くて思わず内臓が口から飛び出そうだ。

「バカ!心配したのよ!誰もミルの様子を知らないし、もしかしたら死んじゃったのかと……」
「ごめん。クレア」
「貴方ってジェイミー様の事になるとぶっ飛んだ行動に出るから心臓に悪いわ」

 頭が痛いとでも言うようにクレアは額を抑えた。苦笑を浮かべもう一度謝った。

「というか今まで何処へ行っていたの?」
「病院に行ってたんだ」
「え、大丈夫なの?」
「俺の体はピンピンしてるけど……」

 けど?とクレアは首を傾げる。
 その次の言葉を出してしまいそうになったが咄嗟に口を閉じた。
 クレアはジェイミー様のリアコ。俺がもしジェイミー様に横抱きで運ばれたなんて知ったら殴られる事は確実だ。最悪、殺されるかもしれない。

 そして黙ったままでいると、クレアは少し怪訝な顔色を浮かべたが、突然何かを思い出したように顔色を変えて言った。

「そういえばオリヴァーさんが心配してたわよ」

 オリヴァーさんとは、俺が住み込みで働いている本屋の店主だ。穏やかで朗らかな人で身寄りの無い俺を心優しく受け入れてくれた恩人とも呼べる人だ。今まで一度も無断欠勤をした事の無い俺が一日帰ってこないから不安に感じたのだろう。クレアに別れを告げ、急いで本屋へ向かった。


 入口の扉を開くと鈴の音が鳴った。高く積まれた本の奥からひょっこりと眼鏡を掛けたタレ目の男が顔を出す。目が合うと彼は途端に真顔になった。そして、泣きそうな顔をして縋り付いてきた。

「ミルくん!あぁぁ、心配だったんだよぉ……」
「すみません、オリヴァーさん」
「君が何処かで危ない目に遭ってないかと心配で心配で……」

 俺の顔をぺたぺたと触ってくる。擽ったくて笑ってしまいそうだからやめて欲しい。

「何があったの?」
「あー、実はちょっと魔物に襲われて」
「だだだだだだ大丈夫?」
「はい!生きてます!心配かけてすみません」

 小さな力瘤を見せてへらっと笑うと、彼は少し安心したのか溢れかけた涙を引っ込めた。

 オリヴァーさんは本当に心配症だな。棚にあった本が俺の顔面に落ちてきた時も世界の終わりのように泣き叫んだり、オーバーリアクションというか、まあ良い人なんだけど……。

「昨日の分は給料から差し引いて下さい。その代わりまた今日から働きます!」
「駄目だよ!ちゃんと休まないと」
「でも昨日十分寝ましたし平気ですよ?」
「ミルくんは無理し過ぎだよぉ。僕、僕、ほんっとにミルくんが大事なんだよぉ……」

 また涙を薄らと浮かべ悲しげな表情になった彼を前に狼狽する。どう慰めようかと必死に言葉を探すが見付からず困っていると、鈴の音が鳴った。お客さんが来たという事だ。

 レジの方へ行き用意をする。オリヴァーさんは嫌々と首を振っていたが流石に2日連続休む訳にはいかない。安心させる為に笑顔を向け、そして扉の方へ目線を向けたがその途端顔が固まった。

 ジェイミー様がいたのだ。
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