勇者様、推しです!〜溺愛されるのは解釈違いです〜

ぽぽ

文字の大きさ
21 / 31

21.勇者様、勘弁して!

しおりを挟む

「おい、着いたぞ。え?まさか気絶してんのか?」
 
 貴方が飛ばし過ぎたからです……。まさか馬がこんなに早く走れるとは思っていなかった。だって大の男二人を乗せているんだぞ。相当な重さのはずなのに当のカツは何かあった?とでもいうようにつぶらな瞳を俺に向ける。

 覚束無い足でカツの上から降りると、目の前には高い塔が崖の上に聳え立っていた。大きな塔なのに全く見覚えが無い。一体カツは何処まで遠くに走ったのだろう。
 
「アレン様、ここは?」
「俺の知り合いがいんだけどさ、ソイツの作る魔法薬が良いんだよ。筋肉に」

 魔法薬で筋肉ができるって、何だか自分が強くなった気がしない。狡をする気分だ。
 そんな得心がいかない俺の様子を読み取ったのか、彼は首を振った。
 
「別に飲んだからって直ぐに筋肉付くわけねえよ。万能薬じゃあるまいから。筋肉付けるためにいつも肉ばっか食っても健康に悪いだろ?それを補う為にあんだよ」
「プロテインみたいな?」
「なんだそれ」
 
 アレン様は目を丸くしたが、俺も自分で言って理解出来なかった。プロテインって脳内にふと出てきたけど一体なんだろ。疑問に思っていたが、アレン様は直ぐに切り替え塔の中へ俺の腕を引っ張って行った。


 塔の中は静寂に包まれていた。まるで闇夜のように暗く壁に掛かる蝋の灯火を頼りに歩く。足音だけが響く。広々とした建物に誰もいないという違和感がより不気味さを増していた。
 
「ここ、お化けとか出ませんよね……」
「ハハッ、やっぱチビは子供だなぁ」
 
 大笑いしながら俺の髪を雑に掻く。お化けが怖い大人だっているだろうと不貞腐れていると彼は突然俺の手を掴んだ。大きな手だ。ゴツゴツとした手から大きな背中に視線を移す。その逞しい背を見ると、もしお化けが出ても瞬殺しそうだな、と思った。流石魔王討伐に参加した戦士というか頼り甲斐のある人だとは思う。

 その後、随分高い塔だから当然上へ向かうのかと思いきや、アレン様は下へ続く階段に踏み入れた。既に暗い視界なのにその階段の向こうは更に真っ暗で何も見えない。踏み外さない為にアレン様の手を離さないように慎重に降りる。

暗闇の中歩いているとふとアレン様の足が止まり、彼の背中に顔がぶつかった。硬い背中に鼻を思いっきりぶつけてしまい俺は蹲って鼻を抑えた。

「なんだ、歩き疲れたのか?」
「いや、そっちじゃない……」
「まあ大丈夫だ。もう着いたからな」
 
 全く俺の言葉を聞いてない様子だ。というか俺が当たったのも気付かなかったのか?
 そんな俺を置いて彼は何か作業を始めた。俺の手を離してガチャガチャと金属が擦るような音が鳴る。

「え、何してるんですか?」
「ちょっと待て。お、開いた開いた」
 
 音が止むと、突如光が見えた。
 暗闇に目が慣れていた為少し目が痛い。恐る恐る目を眇めると液体の入った試験管や何か分からないものが詰まった瓶など如何にも怪しい物が壁に並んでいた。中には爬虫類の死骸のようなものまであり俺の口から思わずひぃ、と弱々しい声が漏れる。
 アレン様は周りを見て誰かに呼び掛けるように大きな声を出した。

「おーい!俺だ!」
「なんだ急に……アッ、アレン氏!?コッチ来るとか拙者聞いてませんが」
「言ってねえからな。いつものやつ頼む」
「ああ……てかアレ最近渡したはずでは?」
「そうなんだけどさ、今日はコイツの分欲しくてよ」
 
 アレン様が俺の肩を掴んで前に出した。すると、目の前にいる男の人は凄い勢いで後ろに下がってカーテンの中に身を隠した。
 ローブを被り体を縮こませている。明らかに怪しいが、さっきの二人の会話が本当ならばこの人が魔法薬を売ってくれる人かもしれない。壁に並んでいるものも、もしや魔法薬の類なのか?
 取り敢えず自己紹介くらいはした方が良いだろうと俺は名前を名乗った。
 
「こんにちは。ミルといいます。よろしくお願いします」
「んな怯えなくてもいーだろ?こんな人畜無害な顔した奴にさぁ」
「いやでも外から来た人間ですよね?しかもアレン氏が連れて来たとか尚更駄目駄目。拙者の体が陽のオーラで溶けてしまいますぞ……」
 
 何か小声でボソボソと話している為、全く聞こえない。この人、本当に大丈夫なのかな。
 不安な俺と反対にアレン様はいつもの笑みを浮かべて隠れている魔法士の人を強引に俺の前まで連れて来る。
 
「ひいいいい勘弁して下さい!!痛い!」
「こうでもしねえと出てこないからだろ。ほらほら、ミルはお前のこと馬鹿にしたりするような奴じゃねえだろ?」
 
 そして彼は俺を見る。ローブの中の顔を覗くと俺は一瞬息を飲んだ。透き通るような白い肌に神秘的なプラチナブロンドの髪が繊細で綺麗だ。だが、よく見ると体が異常に細く顔色が悪い。白いを通り越して青いような顔色だ。それはアレン様のせいかもしれないが。
 彼は俺の顔をじっと見る。まるで俺を見定めるような目だ。怖がられないように笑顔を作ると、目を伏せてため息を吐いた。
 
「あーハイもう分かりましたよ。拙者の降参。渡さないとどうせ帰らないんでしょ?ちょっとそこで待って下さい」
「俺も手伝うぜ」
「いやアレン氏はもうほんとに触んないで下さい!この部屋アレン氏みたいな巨人が来る設計じゃないから動いただけで薬品の棚が、あぁぁ既に貴重な薬品が地震並に揺れてるんですけど!?」

 そんな彼の言い分に巨人は気にせずドシドシと彼を追い掛ける。静かな人なのかと思いきや結構元気な所もあるんだなぁ、と考えている時に上から液体の入った瓶が落ちてきた。瓶は落ちた衝撃で割れて液体が飛び散る。
 すると、言い争っていた魔法士さんが俺を見て目を見開いた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています

水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。 そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。 アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。 しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった! リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。 隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか? これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

過労死で異世界転生したら、勇者の魂を持つ僕が魔王の城で目覚めた。なぜか「魂の半身」と呼ばれ異常なまでに溺愛されてる件

水凪しおん
BL
ブラック企業で過労死した俺、雪斗(ユキト)が次に目覚めたのは、なんと異世界の魔王の城だった。 赤ん坊の姿で転生した俺は、自分がこの世界を滅ぼす魔王を討つための「勇者の魂」を持つと知る。 目の前にいるのは、冷酷非情と噂の魔王ゼノン。 「ああ、終わった……食べられるんだ」 絶望する俺を前に、しかし魔王はうっとりと目を細め、こう囁いた。 「ようやく会えた、我が魂の半身よ」 それから始まったのは、地獄のような日々――ではなく、至れり尽くせりの甘やかし生活!? 最高級の食事、ふわふわの寝具、傅役(もりやく)までつけられ、魔王自らが甲斐甲斐しくお菓子を食べさせてくる始末。 この溺愛は、俺を油断させて力を奪うための罠に違いない! そう信じて疑わない俺の勘違いをよそに、魔王の独占欲と愛情はどんどんエスカレートしていき……。 永い孤独を生きてきた最強魔王と、自己肯定感ゼロの元社畜勇者。 敵対するはずの運命が交わる時、世界を揺るがす壮大な愛の物語が始まる。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

処理中です...