22 / 54
ビミョーだった
しおりを挟む
たった一日のために服を新調するのはどうかと思うが、これから先に繋がるのならば組み合わせの利く何かを買ってしまっても良いかと迷う。大体、自分のイメージが自分でわからない。平日に待ち合わせて服を見立ててくれるような友人はいないし、土曜日ならと言ってくれた人は、いつ会っても格安量販店のカットソーを着ている。迷っているうちに金曜日になってしまい、もうどうにでもなーれの心境に落ち着いて、少しだけ由美さんに話す気になった。
「待ち合わせてお茶? やだカワイイ」
「何着てったらいいんでしょう」
「その前に、鳥のカフェってフン大丈夫? 行ったことないから知らないけど」
言われてみれば、確かにそれは気にするポイントかも知れない。誰と会うかばかり気にして、どこに行くかなんて考えてなかった。
「良いところのディナーとかじゃないんだから、頑張らなくていいんじゃない? 知り合いとお茶に行くだけって思えば」
そう言われて、気が楽になる。女の子として誘ってもらったんじゃなくて、鳥の話がしたいだけなんだって思えばいいのか。
「和香ちゃん、いろんなところで緊張しすぎ。固まってると、必要な時に動けないよ。気楽に行こう」
肩をポンと叩いて、由美さんが帰っていく。緊張、しすぎなのかなあ。
そして考えに考えた結果の、綿のシャツにデニムジーンズのシンプルな装いは、鏡の前に立てば正解に見えた。初夏の気候に余計なアクセサリーは暑苦しいし、気合を入れた気恥ずかしさもない。
「あら、またファッションショーしてる。身だしなみが気になることができたの?」
「たまには友達と会うこともあるのっ」
二十四にもなった娘が散歩以外の外出もせずにいることを、母が気にしているのは知っている。ただ、気にされても事態は改善しないのだから、なるたけ静かに触らないでいて欲しい。実家に住ませてもらっていることで、不自由のない生活を送れていることは自覚しているから。
ランチ時間を避けた午後二時に予約だと、駅で待ち合わせたのは一時四十五分だ。早めに到着した和香が待っていると、三分遅れて水木先生があらわれた。
「駅から少しあるんで、急ぎましょう。予約時間になってしまう」
遅れたことを詫びるでもない行動に戸惑いながら、水木先生の横に並んだ。
「猫カフェとかうさぎカフェとかって、行ったことありますか」
早足で歩きながら、水木先生は質問した。
「ないです。水木先生はありますか」
「いや、男が行けるようなところなんですか、ああいうの」
和香が眺めるSNSのタイムラインには、ときどきすっごく可愛い猫の写真が上がっていて、猫カフェに行って仲良しの猫さんと~みたいな言葉が添えられている。プロフィールは男の人みたいだけれど、和香自体は不思議だとも異様だとも思っていなかったから、そこに羞恥心を感じる人もいるんだなって感想しかない。
到着した場所の店構えは、和香が怯むくらいファンシーだった。これは男の人がひとりで入れないのは無理ないなと思いながら、席へ案内された。店の真ん中がガラスのケージになっていて、鳥に触るのはそこに入らなくてはいけないらしい。カフェのメニューが少々高価なのは、鳥の飼育代が乗っているからだろう。
「うわ、ケーキってこんなに高いの」
可愛いケーキの写真をワクワクしながら見ていた和香の耳に、水木先生の呟きが忍び込む。こんなことを聞いて、スイーツを頼めるわけがない。
「僕、アイスコーヒーで」
「じゃ、私はカフェオレで」
「榎本さんは甘いものは食べないんですか」
「いえ、ダイエット中なので」
なんだこの茶番。お茶代は当然払うつもりだから自分の好きなものを頼めばいいのに、つい合わせてしまって若干不服が残る。それでもインコたちが可愛いし、鳥の名前を教えてもらうと賢くなった気がして嬉しいので、良しとする。ガラスケージの中に入れてもらえば、いたずらインコたちにボタンを引っ張られたり頭に乗られたりで、結構楽しめたと思う。
けれど、規定の時間が過ぎたら何もないのである。可愛かったですね、楽しかったですねでオシマイだ。
「どこか行ってみたい場所はありますか」
「いえ、先生が行きたい場所があれば」
ではまた次の機会にと解散したあと、和香は手近なカフェに飛び込んだ。メニューしか見られなかったケーキが、とてもとても食べたかった。運ばれてきたモンブランにフォークを突き刺し、何だったんだろうと思う。
楽しかった気はする。けれど同じ日をもう一度過ごしたいかと訊かれたら、確実にノーと言う。水木先生は穏やかでちゃんとした職業を持っていて、でもなんだか違和感がある。それは和香が慣れないシチュエーションだからなのか。
「待ち合わせてお茶? やだカワイイ」
「何着てったらいいんでしょう」
「その前に、鳥のカフェってフン大丈夫? 行ったことないから知らないけど」
言われてみれば、確かにそれは気にするポイントかも知れない。誰と会うかばかり気にして、どこに行くかなんて考えてなかった。
「良いところのディナーとかじゃないんだから、頑張らなくていいんじゃない? 知り合いとお茶に行くだけって思えば」
そう言われて、気が楽になる。女の子として誘ってもらったんじゃなくて、鳥の話がしたいだけなんだって思えばいいのか。
「和香ちゃん、いろんなところで緊張しすぎ。固まってると、必要な時に動けないよ。気楽に行こう」
肩をポンと叩いて、由美さんが帰っていく。緊張、しすぎなのかなあ。
そして考えに考えた結果の、綿のシャツにデニムジーンズのシンプルな装いは、鏡の前に立てば正解に見えた。初夏の気候に余計なアクセサリーは暑苦しいし、気合を入れた気恥ずかしさもない。
「あら、またファッションショーしてる。身だしなみが気になることができたの?」
「たまには友達と会うこともあるのっ」
二十四にもなった娘が散歩以外の外出もせずにいることを、母が気にしているのは知っている。ただ、気にされても事態は改善しないのだから、なるたけ静かに触らないでいて欲しい。実家に住ませてもらっていることで、不自由のない生活を送れていることは自覚しているから。
ランチ時間を避けた午後二時に予約だと、駅で待ち合わせたのは一時四十五分だ。早めに到着した和香が待っていると、三分遅れて水木先生があらわれた。
「駅から少しあるんで、急ぎましょう。予約時間になってしまう」
遅れたことを詫びるでもない行動に戸惑いながら、水木先生の横に並んだ。
「猫カフェとかうさぎカフェとかって、行ったことありますか」
早足で歩きながら、水木先生は質問した。
「ないです。水木先生はありますか」
「いや、男が行けるようなところなんですか、ああいうの」
和香が眺めるSNSのタイムラインには、ときどきすっごく可愛い猫の写真が上がっていて、猫カフェに行って仲良しの猫さんと~みたいな言葉が添えられている。プロフィールは男の人みたいだけれど、和香自体は不思議だとも異様だとも思っていなかったから、そこに羞恥心を感じる人もいるんだなって感想しかない。
到着した場所の店構えは、和香が怯むくらいファンシーだった。これは男の人がひとりで入れないのは無理ないなと思いながら、席へ案内された。店の真ん中がガラスのケージになっていて、鳥に触るのはそこに入らなくてはいけないらしい。カフェのメニューが少々高価なのは、鳥の飼育代が乗っているからだろう。
「うわ、ケーキってこんなに高いの」
可愛いケーキの写真をワクワクしながら見ていた和香の耳に、水木先生の呟きが忍び込む。こんなことを聞いて、スイーツを頼めるわけがない。
「僕、アイスコーヒーで」
「じゃ、私はカフェオレで」
「榎本さんは甘いものは食べないんですか」
「いえ、ダイエット中なので」
なんだこの茶番。お茶代は当然払うつもりだから自分の好きなものを頼めばいいのに、つい合わせてしまって若干不服が残る。それでもインコたちが可愛いし、鳥の名前を教えてもらうと賢くなった気がして嬉しいので、良しとする。ガラスケージの中に入れてもらえば、いたずらインコたちにボタンを引っ張られたり頭に乗られたりで、結構楽しめたと思う。
けれど、規定の時間が過ぎたら何もないのである。可愛かったですね、楽しかったですねでオシマイだ。
「どこか行ってみたい場所はありますか」
「いえ、先生が行きたい場所があれば」
ではまた次の機会にと解散したあと、和香は手近なカフェに飛び込んだ。メニューしか見られなかったケーキが、とてもとても食べたかった。運ばれてきたモンブランにフォークを突き刺し、何だったんだろうと思う。
楽しかった気はする。けれど同じ日をもう一度過ごしたいかと訊かれたら、確実にノーと言う。水木先生は穏やかでちゃんとした職業を持っていて、でもなんだか違和感がある。それは和香が慣れないシチュエーションだからなのか。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
『 ゆりかご 』
設楽理沙
ライト文芸
- - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - -
◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
――――
「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語
『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』
過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、
そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。
[大人の再生と静かな愛]
“嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”
読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。
――――
・・・・・・・・・・
芹 あさみ 36歳 専業主婦 娘: ゆみ 中学2年生 13才
芹 裕輔 39歳 会社経営 息子: 拓哉 小学2年生 8才
早乙女京平 28歳 会社員
(家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト)
浅野エリカ 35歳 看護師
浅野マイケル 40歳 会社員
❧イラストはAI生成画像自作
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる