トクソウ最前線

蒲公英

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言わなくちゃわからない

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 居酒屋の隅っこに席を取り、教えてもらってカクテルを頼んでみた。
「学生の頃ってさ、仲良くするのって義務じゃない」
 友人がフライドポテトをつまみながら言う。
「全員仲良くしなくちゃいけません、ひとりでいる子には声を掛けなくちゃいけませんって、先生が指導するの」
 確かにそんな記憶はある。
「大きくなってくると、それ以外にいろんな人間関係を構築しなくちゃならないし、他にも趣味とか仕事とかで忙しくなるから、みんな他人のことを見回すほどヒマじゃないんだよね。だから何かにアプローチしてこない人は、見逃されちゃう」
 それから親指で和香を指した。
「和香は自己主張してこない上に、黙って消えてっちゃう。仲良くなれば意外に賢いのも結構多趣味なのもわかるけど、それを自分から見せてくれないから、近寄り難いの」
「今までそんなこと、言ってくれなかったじゃない」
 恨みがましい声になっちゃうのは、致し方ない。
「言ったら泣いちゃうかと思ってたんだよ。でもずいぶん、顔がすっきりした」
 今現在、和香は何にも煮詰まっていない。それが顔色を良くしているのなら、喜ばしいことだ。

 時間が経つにしたがって、話題は仕事や人間関係のことよりも、共通の知り合いの動向、特に恋愛とか結婚の相手についてに移行してくる。和香には情報がないから、興味深く聞いてしまう。誰々がハイスペックなイケメンを捕まえたら実は二股だったとか、誰々の彼氏はオレンジ色の髪で鳶職だとか、見た目がイマイチだった人が、医師に望まれて結婚したんだとか。
「頭は良かったし性格も悪くなかったし、化粧するようになって化けたんだよね」
 高校生のころの見様見真似の化粧と違う、自分の欠点と長所を把握した外見の作り方。気がつけば、向かい側の友人もちゃんと大人に見えている。それに対する和香は、木綿のシャツにデニムパンツで辛うじて口紅だけ色があるという、どう見ても色気レスなスタイルだ。
 仕方ないじゃない。清掃業でおしゃれしてたって、誰も気にしてくれない。でも由美さんは、しっかり眉を描いてる気がするなあ。
「化粧って、わかんない。マスカラ塗ったら目の周りが真っ黒になるし、アイラインとか難しそうだし」
 友人の顔を見ながら言う。
「なんで対象に眉毛描けるの? 習ったの?」
 友人は呆気にとられて和香の顔を見つめたあと、笑いだした。
「そうそう。そうやって言ってくれれば、和香が何がしたいのかわかるから。化粧とかトレンドとかに興味がないのかと思ってたから、セールに声かけなかったのに。よし、近いうちに一緒に買い物に行こう。無料で化粧品が使えるコーナーがあるから、そこでいろいろ試してみればいいよ」
 スマートフォンひとつで検索できる情報でも、その元になるワードを知らなければ引き出せない。口コミって、そういうものだ。

「アパレル倉庫の品管って、どう?」
「ピッキングしてカート押して、半分力仕事だよ。私は社員だから、残りの半分は事務。どこもキツさは変わんないよ。パートのおばちゃんたちはうるさいし、学生バイトは働かないし」
 そうか、自分のことだけで精一杯で、他人がどんな気持ちで仕事しているか聞いたことはなかったな。いろいろ何か、足りなかったのは理解した。
「倉庫セールがあるのがメリットだね。毎回何人かに声かけてるけど、和香も来る?」
「行って良いんなら、呼んで」
 興味があるものをひとつ開示しただけで、状況が動く。また予定ができる。
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