トクソウ最前線

蒲公英

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水が気持ち良いから

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 午後の作業になり、竹田さんはいきなり上半身を脱ぎ、作業ズボンを膝より上に捲り上げた。
「あそこまで張り切るか」
「子供みたいですね」
 由美さんと和香はボソボソ言いあい、日焼け止めを追加して塗る。コケっぽくなっている場所には高圧洗浄機、汚れている部分にはポリッシャー。プールの中に降りた男の人たちは、壁の汚れた部分をタワシやデッキブラシで擦り、床に落ちた汚れをデッキブラシで排水溝に流して行っている。水を少しずつ出しながらの作業なので、確かに撥ねが上がる。オジサンたちは濡れないように気を使いながら作業しているのに、長靴すら履いていない竹田さんは、水を張ったバケツに時折トンボのヤゴを放り込みながら、デッキブラシで派手に水を掻き散らしている。
 背中はじりじり暑いし、長靴の中の足が湿って気持ち悪い。プールサイドはまだ半分ある。由美さんが持っている高圧洗浄機と和香の操作するポリッシャーを交換して、一度日陰に入って給水する。長靴から足を抜きたいところだが、二度と足を入れたくなくなるので我慢する。ペットボトルのお茶を半分くらい一気飲みして、身体が少し冷めるのを待った。
「プールのなかが綺麗になったら、ちょっと冷たい水、踏みたいなあ」
 和香が言うと由美さんも、同感と呟いた。こうなってくると、水場で作業している人が羨ましくなる。

「ズボン濡れちゃったよ」
 笑いながら片岡さんと菊池さんが休憩に混ざり、植田さんが続いて戻ってきた。
「あれ、竹田ちゃんは?」
 由美さんが植田さんの後ろを見る。
「ヤゴのバケツひっくり返しちゃったって、慌てて拾ってるよ」
 植田さんが答え終わってから、竹田さんが戻ってくる。
「冷たいなぁ植田さん。俺がバケツ蹴っちゃったの見てたくせに」
「ヤゴ掴むのなんてやだよ、気持ち悪い」
「庭師だった人が、虫がダメなわけないでしょ」
「じゃ、面倒臭いって言い直す。竹田ちゃんみたいに若くないんだから、日陰が恋しい」
 竹田さんも水分補給をし、目を閉じてウツラウツラしていた菊池さんが目を開く。
「さて、残り半分だから、さっさと終わらせよう」

 洗浄し終えた部分をホースの水で流すと、プールサイドの色が明るくなった。飛び込み台は白っぽく、洗面台も緑色の部分はない。プールの中は綺麗な水色で、赤と白のラインが綺麗だ。これで完了になる。
 和香と由美さんは頷き合って綺麗になったプールの底を歩き、足の裏の冷たい感触を楽しんだ。そして何故か、そのプールの中で作業ズボンのままホースで頭から水をかぶる竹田さん。上半身は裸だけれど、下はしっかりと着衣である。
「ちょっと竹田ちゃん?」
「ヘドロ臭いし汗臭いし、日焼け熱いし」
 まあ、言わんとしていることはなんとなく理解できる。ぶるぶると頭を振って水を撥ね飛ばし、肩から腕へ水を手で払う。
「片岡さーん。水止めてー。おしまいにするわ」
 ホースを纏めてプールサイドに投げ上げる。
 その竹田さんの上半身を、綺麗だと思った。特別に鍛えた筋肉が乗っているわけではないが、痩せすぎではなく過剰な脂肪があるわけでもない、言うなれば中肉中背の身体だ。水の反射の効果だろうか。

「榎本、これ倒れないように持ってて」
 帰りの車でヤゴ入りのバケツを渡され、着替えた竹田さんの運転する車は会社ではない場所に向かった。
「俺、制服じゃないからさ。それ、職員室に届けてきて」
 到着した小学校で、ヤゴ入りのバケツを持って職員室に向かう。聞けば理科の観察用で、今年はその小学校のプールがPTAによる釣り堀になっていて、ヤゴが手に入らないのだと言う。再三のお礼を言われて、職員室を出た。
 プール掃除とヤゴ納品、本日の業務は二作業だった。
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