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2.突然の抱擁
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「そろそろ出ない? この後講義無いし、買い物行こうよ」
新しい服欲しいんだよね、と誘えば、律もそういえば、と頷いた。外はまだ肌寒いからと先にトレンチコートに袖を通して伝票を持つ。
「私、先に行って会計しておくね」
「うん、お願い。私ちょっとお手洗い行ってくる。お金は車で返すから」
「了解」
店の奥に消えていく律を見送って、千夏は入口近くにあるレジカウンターに向かった。
ブースから出てレジを見れば、レジの内側で店員と話し込んでいるスーツ姿の若い男がいた。
店員が腰の低い接し方をしているから彼の方が高い地位にいるのだろうとわかるが、それにしても大袈裟な気がする。
変なの、と思いながら、千夏はカウンターに伝票を置いた。
「お会計お願いします」
「あっはい、ただいま!」
声をかけてようやく千夏に気づいた店員が慌ててドロアの前に立つ。読み上げてキーを操作していくのを聞きながら財布を取り出して、ふと気づいた。
(なんか、すっごい見られてない……?)
先程まで店員と話していた彼が、千夏から目を逸らさないのだ。細いフレームの眼鏡越しに、意外なもの、いや、想定外のものを見つけた、というような表情で。
(なんだろ、私どこか変なのかな?)
ゴミでも付いているのかとさりげなくを装って見てみるが、そんなことはない。
余計にわからなくなって、早く店を出ようと手早く紙幣を抜き出してトレーに置いた。
急に、千夏に陰が射す。不思議に思って陰の元へ目を向けると、いつの間にか、千夏を凝視していた彼が、千夏のすぐ傍まで来て立っていた。
頭一つ分以上高い位置にある顔。近くで見て初めて、彼の目が日本人にありがちな黒や茶ではなく、紫色をしていると知った。
夜の空を思わせる黒い髪と、健康的でありながら白い肌。それらに縁取られて際立つアメジストの瞳が、彼の整った容姿をさらに華やかに彩っている。
傍に来てもなお、彼の目が千夏から離れることはない。
「あの……何か?」
控えめに尋ねると、彼の目が勢いよく見開かれた。
「ひっ!?」
小さな悲鳴とともに思い切り後退る。が、すぐに腕を掴まれて捕獲された。
ギラギラと光る紫の瞳が、綺麗だけど、少し怖い。
「見つけた……」
ようやく呟かれた一声。思わずぞくりとしてしまう、腰にまで響くバリトンが耳元で囁いた。
一気に体の力が抜けて膝が笑い出す。崩れ落ちなかったのはなけなしの意地によるものだ。
頭の中ではけたたましく警鐘が鳴り響いていて、早く逃げろと知らせてくるのに動けない。
「見つけた……俺の、俺だけの“花嫁”……!!」
そう言って自分のことを抱き締めてくる男に、千夏は固まる事しかできなかった。
新しい服欲しいんだよね、と誘えば、律もそういえば、と頷いた。外はまだ肌寒いからと先にトレンチコートに袖を通して伝票を持つ。
「私、先に行って会計しておくね」
「うん、お願い。私ちょっとお手洗い行ってくる。お金は車で返すから」
「了解」
店の奥に消えていく律を見送って、千夏は入口近くにあるレジカウンターに向かった。
ブースから出てレジを見れば、レジの内側で店員と話し込んでいるスーツ姿の若い男がいた。
店員が腰の低い接し方をしているから彼の方が高い地位にいるのだろうとわかるが、それにしても大袈裟な気がする。
変なの、と思いながら、千夏はカウンターに伝票を置いた。
「お会計お願いします」
「あっはい、ただいま!」
声をかけてようやく千夏に気づいた店員が慌ててドロアの前に立つ。読み上げてキーを操作していくのを聞きながら財布を取り出して、ふと気づいた。
(なんか、すっごい見られてない……?)
先程まで店員と話していた彼が、千夏から目を逸らさないのだ。細いフレームの眼鏡越しに、意外なもの、いや、想定外のものを見つけた、というような表情で。
(なんだろ、私どこか変なのかな?)
ゴミでも付いているのかとさりげなくを装って見てみるが、そんなことはない。
余計にわからなくなって、早く店を出ようと手早く紙幣を抜き出してトレーに置いた。
急に、千夏に陰が射す。不思議に思って陰の元へ目を向けると、いつの間にか、千夏を凝視していた彼が、千夏のすぐ傍まで来て立っていた。
頭一つ分以上高い位置にある顔。近くで見て初めて、彼の目が日本人にありがちな黒や茶ではなく、紫色をしていると知った。
夜の空を思わせる黒い髪と、健康的でありながら白い肌。それらに縁取られて際立つアメジストの瞳が、彼の整った容姿をさらに華やかに彩っている。
傍に来てもなお、彼の目が千夏から離れることはない。
「あの……何か?」
控えめに尋ねると、彼の目が勢いよく見開かれた。
「ひっ!?」
小さな悲鳴とともに思い切り後退る。が、すぐに腕を掴まれて捕獲された。
ギラギラと光る紫の瞳が、綺麗だけど、少し怖い。
「見つけた……」
ようやく呟かれた一声。思わずぞくりとしてしまう、腰にまで響くバリトンが耳元で囁いた。
一気に体の力が抜けて膝が笑い出す。崩れ落ちなかったのはなけなしの意地によるものだ。
頭の中ではけたたましく警鐘が鳴り響いていて、早く逃げろと知らせてくるのに動けない。
「見つけた……俺の、俺だけの“花嫁”……!!」
そう言って自分のことを抱き締めてくる男に、千夏は固まる事しかできなかった。
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