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魔力の墓所
第1回
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迷った。
前後左右、上も下も、そこにあるのは真っ暗な闇ばかり。
懐中電灯に照らされた地の底で、私は途方に暮れながら、一羽のカラスと共に立ち尽くしていた。
「――おい、どうすんだよ」
とやや高めの声を上げたのは、私の肩にとまるカラスだった。
魔女である私のいわゆる使い魔で、名をクロという。
カラスの英語であるcrowと、その真っ黒い姿から私がつけた名前、それがクロ。
我ながら安直なネーミングだ。
クロも最初は「なんだ、その名前は! もっとまともな名前で呼べ!」と悪態を吐いていたのだけれど、でもまぁ、呼びやすいからそのままそう呼ぶことにしたのだ。
そんなクロに、私は軽くため息を吐きながら、
「どうしようもないでしょ? とりあえず、地力の流れを見つけるしかないよ。アイボと通信できれば、出口を見つけられるかもしれないじゃない」
「……見つからなかったらどうすんだ」
「そんときは、あんたとここで野垂れ死ぬだけよ」
「い、イヤだぞ、俺は! 仮にも鳥である俺が、地の底で野垂れ死ぬなんて!」
「私だってイヤよ。ガァガァ鳴かずに、あんたもちょっとは地力の流れを探ってよ」
「まったく! これだからお前は、まったく!」
ぐちぐち言いながら、クロは私の肩から地に降り立ち、きょろきょろと辺りを見回して地力──地に宿る魔力の流れを探り始める。
それに倣うように、私も全神経を集中させて、辺りの魔力に感覚を研ぎ澄ませたのだった。
そこは魔法使い界隈では『魔力の墓所』と称される有名な場所だった。
廃村と化した山間の村に建つ、荒れ寺の裏手側。
背後に聳える山を掘って作られたその洞窟は、第二次世界大戦中には防空壕としても使われていたという。
実際に使われたことは二、三回程度だったらしいが、その全長は数百メートルに及び、かつて村の祭祀を仕切っていた魔法使いによる魔法道具が隠されている、ともっぱらの噂だった。
その魔法道具は強大なる魔力を秘めた、高度な魔法技術によって造られた『アーティファクト』と呼ばれる品ではないかと言われているが、実際のところはどうか知れない。
噂ばかりで、実際に調べられたことはまともに無いらしく、今回その噂の真偽を確かめるべく、全魔協……全国魔法遣協会の依頼で、私が調査をしにやってきた、というわけだ。
わたしは空が飛べないので、全魔協の職員であり、高校生の時に知り合った後輩のシモハライくんに、村の入り口である崩れたトンネルの手前まで送ってもらったのだが、
「僕は用事があるので帰りますけど、夜には別のが迎えに来る予定なので、それまでには必ずここに戻って来てください」
くれぐれも無理はしないように、と念を押すシモハライくんに、わたしは「はいはい」と適当に返事をして彼に手を振り、そのトンネルを抜けて廃村に足を踏み入れて──
まさか洞窟に入って早々、落とし穴にはまって地の底まで長い滑り台を滑らされることになるだなんて、思ってもみなかった。
シモハライくんの言っていた迎えの人が来れば、或いはわたしを助けに来てくれるかも知れないが、わたしとしても、ただ黙ってじっとしているのも何だか癪に障る。
せっかくここまでやってきたのだ。出来る範囲の事はやってやりたい。
ならば助けが来る(とは限らないのだけれど)までの間、この魔力の墓所に隠されているというアーティファクトを、何とかして見つけ出してやろうじゃないか!
そう意気込んだわたしは、別の魔力の流れを探ることにした。
うっすらとだけど感じられる、地力とは別の魔力の存在。
その魔力は明らかに天井の向こう、遥か高みから僅かに見える、小さな星の瞬き程の力しかなかったけれど、わたしにはその魔力が実際にはかなり大きなモノだと察しがついた。
クロはとにかく外に出る道――自宅に置いてきたアイボとの魔力通信の為に、地力の流れを探るのに精一杯で、その別の魔力にはまるで気づいていないようだった。
わたしはクロに地力探しをそのまま任せて、あの僅かな魔力に向かうべく、そこへ至る道を探し始めた。
どこかに必ず道はあるはずだ。
そんな信念を持ってさまよい歩いているうちに、
「おい、こっちに何かあるぞ」
クロがわたしに声を掛けた。
「何かって?」
「暗くて見えない。照らしてくれ」
はいはい、と言われるがまま、懐中電灯の光をそちらに向けて、
「──ひっ!」
わたしは思わず息を呑んだ。
「これは……人骨?」
岩壁に埋まりこんだような形で虚空を見つめる頭蓋骨が、そこには無数にあったのだ。
「な、なにこれっ? なんでこんなにたくさんの人骨が埋められてるわけ? まさか、ここで大量殺人が行われていたとか?」
うげぇ! なんてタチの悪いことを!
「そうかも知れないな」
とクロは壁際に近づきながら、
「生物に宿る生命力は、ある意味で魔力そのものだ。もしかしたら、ここで殺されたこいつらの魔力がこの“魔力の墓所”に隠されているという魔法道具の正体なのかも――」
「やめてよ! 気分悪い! 昔の魔法使いってそんなこともしてたの? 信じられない!」
「全員が全員って訳じゃない」
クロはじっと頭蓋骨を見つめつつ、
「それに、ここを作った奴が本当に魔法使いだったのかも判らない。あくまで魔法使いだったのであろう、祭祀を行う立場にあった人物、って話じゃなかったか?」
「どういうことよ」
「本物の魔法使いなら、こんなことしなくても、そこらにある何らかの魔力でなんとでもできるはずだろう? 別に人を殺してまで魔力を得る必要はない。そんなことをしてまで魔力を得ようってのは、大概似非魔法使いだと俺は思うけど――んん?」
突然唸るクロに、
「な、なに? どうしたの?」
とわたしは眉間に皺を寄せる。
そんなわたしに、クロは、
「……違う。これは、人骨じゃない」
「どういうこと?」
「よく見てみろ」
とクロはその固い嘴でトントン人骨を叩いて見せる。
「ちょ、ちょっと、なにしてんのよ!」
死んでるとは言え、何だかかわいそうじゃないか。
なんて思っていると、サラサラと頭蓋骨が砂のように崩れていった。
「――これは、直接壁を彫って作られたものだ」
「えぇ? どういうこと?」
「本物の人骨じゃない。ただの作りものだ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 何のために?」
「脅しじゃないか? 隠されたアーティファクトを守る為に作られた、侵入者用のただの脅し。ここから先に立ち入るな、ってな」
「……脅し」
恐る恐るわたしも壁の人骨に手を触れる。
壁は既に風化して崩れやすくなっており、触った感じそれは間違いなくただの土だった。
クロの言う通り、壁を直接彫って人骨のように見せかけているだけだ。
「――ってことは、この先に例のアーティファクトが?」
「……そうかも知れない」
わたしとクロは思わず顔を見合わせて。
「結果オーライ?」
「結果オーライ!」
互いにニヤリと笑んだのだった。
前後左右、上も下も、そこにあるのは真っ暗な闇ばかり。
懐中電灯に照らされた地の底で、私は途方に暮れながら、一羽のカラスと共に立ち尽くしていた。
「――おい、どうすんだよ」
とやや高めの声を上げたのは、私の肩にとまるカラスだった。
魔女である私のいわゆる使い魔で、名をクロという。
カラスの英語であるcrowと、その真っ黒い姿から私がつけた名前、それがクロ。
我ながら安直なネーミングだ。
クロも最初は「なんだ、その名前は! もっとまともな名前で呼べ!」と悪態を吐いていたのだけれど、でもまぁ、呼びやすいからそのままそう呼ぶことにしたのだ。
そんなクロに、私は軽くため息を吐きながら、
「どうしようもないでしょ? とりあえず、地力の流れを見つけるしかないよ。アイボと通信できれば、出口を見つけられるかもしれないじゃない」
「……見つからなかったらどうすんだ」
「そんときは、あんたとここで野垂れ死ぬだけよ」
「い、イヤだぞ、俺は! 仮にも鳥である俺が、地の底で野垂れ死ぬなんて!」
「私だってイヤよ。ガァガァ鳴かずに、あんたもちょっとは地力の流れを探ってよ」
「まったく! これだからお前は、まったく!」
ぐちぐち言いながら、クロは私の肩から地に降り立ち、きょろきょろと辺りを見回して地力──地に宿る魔力の流れを探り始める。
それに倣うように、私も全神経を集中させて、辺りの魔力に感覚を研ぎ澄ませたのだった。
そこは魔法使い界隈では『魔力の墓所』と称される有名な場所だった。
廃村と化した山間の村に建つ、荒れ寺の裏手側。
背後に聳える山を掘って作られたその洞窟は、第二次世界大戦中には防空壕としても使われていたという。
実際に使われたことは二、三回程度だったらしいが、その全長は数百メートルに及び、かつて村の祭祀を仕切っていた魔法使いによる魔法道具が隠されている、ともっぱらの噂だった。
その魔法道具は強大なる魔力を秘めた、高度な魔法技術によって造られた『アーティファクト』と呼ばれる品ではないかと言われているが、実際のところはどうか知れない。
噂ばかりで、実際に調べられたことはまともに無いらしく、今回その噂の真偽を確かめるべく、全魔協……全国魔法遣協会の依頼で、私が調査をしにやってきた、というわけだ。
わたしは空が飛べないので、全魔協の職員であり、高校生の時に知り合った後輩のシモハライくんに、村の入り口である崩れたトンネルの手前まで送ってもらったのだが、
「僕は用事があるので帰りますけど、夜には別のが迎えに来る予定なので、それまでには必ずここに戻って来てください」
くれぐれも無理はしないように、と念を押すシモハライくんに、わたしは「はいはい」と適当に返事をして彼に手を振り、そのトンネルを抜けて廃村に足を踏み入れて──
まさか洞窟に入って早々、落とし穴にはまって地の底まで長い滑り台を滑らされることになるだなんて、思ってもみなかった。
シモハライくんの言っていた迎えの人が来れば、或いはわたしを助けに来てくれるかも知れないが、わたしとしても、ただ黙ってじっとしているのも何だか癪に障る。
せっかくここまでやってきたのだ。出来る範囲の事はやってやりたい。
ならば助けが来る(とは限らないのだけれど)までの間、この魔力の墓所に隠されているというアーティファクトを、何とかして見つけ出してやろうじゃないか!
そう意気込んだわたしは、別の魔力の流れを探ることにした。
うっすらとだけど感じられる、地力とは別の魔力の存在。
その魔力は明らかに天井の向こう、遥か高みから僅かに見える、小さな星の瞬き程の力しかなかったけれど、わたしにはその魔力が実際にはかなり大きなモノだと察しがついた。
クロはとにかく外に出る道――自宅に置いてきたアイボとの魔力通信の為に、地力の流れを探るのに精一杯で、その別の魔力にはまるで気づいていないようだった。
わたしはクロに地力探しをそのまま任せて、あの僅かな魔力に向かうべく、そこへ至る道を探し始めた。
どこかに必ず道はあるはずだ。
そんな信念を持ってさまよい歩いているうちに、
「おい、こっちに何かあるぞ」
クロがわたしに声を掛けた。
「何かって?」
「暗くて見えない。照らしてくれ」
はいはい、と言われるがまま、懐中電灯の光をそちらに向けて、
「──ひっ!」
わたしは思わず息を呑んだ。
「これは……人骨?」
岩壁に埋まりこんだような形で虚空を見つめる頭蓋骨が、そこには無数にあったのだ。
「な、なにこれっ? なんでこんなにたくさんの人骨が埋められてるわけ? まさか、ここで大量殺人が行われていたとか?」
うげぇ! なんてタチの悪いことを!
「そうかも知れないな」
とクロは壁際に近づきながら、
「生物に宿る生命力は、ある意味で魔力そのものだ。もしかしたら、ここで殺されたこいつらの魔力がこの“魔力の墓所”に隠されているという魔法道具の正体なのかも――」
「やめてよ! 気分悪い! 昔の魔法使いってそんなこともしてたの? 信じられない!」
「全員が全員って訳じゃない」
クロはじっと頭蓋骨を見つめつつ、
「それに、ここを作った奴が本当に魔法使いだったのかも判らない。あくまで魔法使いだったのであろう、祭祀を行う立場にあった人物、って話じゃなかったか?」
「どういうことよ」
「本物の魔法使いなら、こんなことしなくても、そこらにある何らかの魔力でなんとでもできるはずだろう? 別に人を殺してまで魔力を得る必要はない。そんなことをしてまで魔力を得ようってのは、大概似非魔法使いだと俺は思うけど――んん?」
突然唸るクロに、
「な、なに? どうしたの?」
とわたしは眉間に皺を寄せる。
そんなわたしに、クロは、
「……違う。これは、人骨じゃない」
「どういうこと?」
「よく見てみろ」
とクロはその固い嘴でトントン人骨を叩いて見せる。
「ちょ、ちょっと、なにしてんのよ!」
死んでるとは言え、何だかかわいそうじゃないか。
なんて思っていると、サラサラと頭蓋骨が砂のように崩れていった。
「――これは、直接壁を彫って作られたものだ」
「えぇ? どういうこと?」
「本物の人骨じゃない。ただの作りものだ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 何のために?」
「脅しじゃないか? 隠されたアーティファクトを守る為に作られた、侵入者用のただの脅し。ここから先に立ち入るな、ってな」
「……脅し」
恐る恐るわたしも壁の人骨に手を触れる。
壁は既に風化して崩れやすくなっており、触った感じそれは間違いなくただの土だった。
クロの言う通り、壁を直接彫って人骨のように見せかけているだけだ。
「――ってことは、この先に例のアーティファクトが?」
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わたしとクロは思わず顔を見合わせて。
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互いにニヤリと笑んだのだった。
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