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魔法使いの少年
第1回
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***
その少年は、私の目の前で忽然と姿を消した。
それは本当に、一瞬の出来事だった。
もちろん、何が起きたかなんて、私に理解できるはずもない。
高校入学から一週間。いきなり変なものを見てしまった普通の女子高生である私には、それを正確に理解できる頭なんてあるわけもなかったのだ。
彼は私と同じクラスの同級生で、男子にしてはちょっと女らしい可愛らしさを持つ、いかにも気の弱そうな少年だった。
その少年が帰宅途中、私が声をかけようとした目の前で姿を消してしまったのだから、驚いてしまっても無理はないはずだ。
「え、えっと……」
私は周囲を見回し、彼――神楽夢矢――の姿を探した。
しかし、神楽君の姿はやはり、どこにもなかった。
はてさて、私は夢でも見ていたのでしょうか、なんて考えながら自分の頬をつねってみたのだけれど、やっぱりそれは現実で、私は頭を抱えながら帰らざるを得なかった。
途中何度も車や通行人と正面衝突しそうになりながら帰宅した私は鞄を投げると、ベッドに腰掛けて腕を組み、やっぱり変だとそう思った。
間違いなく、神楽君は目の前にいた。
自分の好みの男の子だったから、今のうちにマークしておこうと学校を出たところから後をつけていたのだから、間違いない(もちろん、たまたま家が同じ方角だったから)。
二人きりになったところで声をかけようとした目の前で、まるで霧のように消え去ってしまった神楽君は、いったい何者なのだろうか。
まさか、幽霊? 神楽君は本当は死んでいて、私は幽霊なんかと同じクラスになってしまったとか?
は、んなわけねぇ。
私は自分の考えに失笑しつつ、ベッドに体を預ける。
「ま、明日聞いてみればいっか」
そう、私は呟いた。
***
「ねぇ、神楽君」
私は登校一番、一人ぽつんと席について本を読んでいる神楽君(しかも今日は眼鏡をかけていた)の肩を叩いた。
神楽君は一瞬体をびくっと震わせ、私のほうに顔だけを向ける。なんだか作ったような笑みを返しながら、
「あ、なに?」
と恥ずかしそうに口を開いた。
作り物とはいえ、なんとも可愛らしい笑みだ。
そんな彼に、私は単刀直入に訊いてみる事にした。こんな奴だから、きっとすぐに吐いてしまうに違いない。
「神楽君、昨日の帰り道に声をかけようとしたら突然居なくなっちゃったでしょ? あれ、どんな魔法を使ったの?」
「ま、魔法!?」
その言葉と同時に、神楽君の顔が驚きに満ちる。驚いた顔も可愛らしい奴だ、チクショウめ。
と思ったら、
「ははは、あはははははは!」
神楽君は腹を抱えて、何が面白かったのか腹の底から笑い始めた。
なに? 私、いま何か変な事言ったっけ?
戸惑う私に、神楽君は、
「な、何を言い出すのかと思えば…… はははははは!」
目に涙を浮かべながら、ときどき咳き込みながら笑いつづける。
なんだ、こんにゃろう。
私は思わず神楽君の頭を叩いてやろうかと思ったがそれを抑えつつ、
「そんなに、おかしかった?」
できるだけ笑顔で言った。
「そ、そりゃぁ、おかしかったよ」
はははは、と神楽君は更に笑い、
「君、面白いね。えっと――」
神楽君は私の胸につけられた名札に目をやり、
「那由多さん?」
人の胸見ながらニヤニヤしてんじゃないわよ、と言ってやりたかったけど、まぁそれは言わないでおく。
「そう、私、那由多茜。ねぇ、そんなに笑わなくても良いんじゃない?」
「だって、おかしいじゃない。魔法なんてあるわけないじゃないか」
「そんなこと言ったって、あんた私の目の前でぱっと消えて見せたじゃないの」
その言葉に、神楽君はあははと笑い、
「それ、いったい何のハナシ?」
「何って、昨日、私見たのよ。神楽君がぱっと霧みたいに姿を消しちゃうところを」
「夢でも見てたんじゃないの?」
「まさか」
「じゃなきゃ、自分の妄想に気を取られてて、僕が曲がり角を曲がったのに気がつかなかったとか」
そんな馬鹿な、と私は思った。妄想に気を取られて目の前のものが見えなくなってしまうほど、私は馬鹿じゃない。
「とにかく、僕は魔法なんて使えない。それだけは言っとくよ」
そう笑いながら彼は言って、再び本に目を戻してしまった。
その少年は、私の目の前で忽然と姿を消した。
それは本当に、一瞬の出来事だった。
もちろん、何が起きたかなんて、私に理解できるはずもない。
高校入学から一週間。いきなり変なものを見てしまった普通の女子高生である私には、それを正確に理解できる頭なんてあるわけもなかったのだ。
彼は私と同じクラスの同級生で、男子にしてはちょっと女らしい可愛らしさを持つ、いかにも気の弱そうな少年だった。
その少年が帰宅途中、私が声をかけようとした目の前で姿を消してしまったのだから、驚いてしまっても無理はないはずだ。
「え、えっと……」
私は周囲を見回し、彼――神楽夢矢――の姿を探した。
しかし、神楽君の姿はやはり、どこにもなかった。
はてさて、私は夢でも見ていたのでしょうか、なんて考えながら自分の頬をつねってみたのだけれど、やっぱりそれは現実で、私は頭を抱えながら帰らざるを得なかった。
途中何度も車や通行人と正面衝突しそうになりながら帰宅した私は鞄を投げると、ベッドに腰掛けて腕を組み、やっぱり変だとそう思った。
間違いなく、神楽君は目の前にいた。
自分の好みの男の子だったから、今のうちにマークしておこうと学校を出たところから後をつけていたのだから、間違いない(もちろん、たまたま家が同じ方角だったから)。
二人きりになったところで声をかけようとした目の前で、まるで霧のように消え去ってしまった神楽君は、いったい何者なのだろうか。
まさか、幽霊? 神楽君は本当は死んでいて、私は幽霊なんかと同じクラスになってしまったとか?
は、んなわけねぇ。
私は自分の考えに失笑しつつ、ベッドに体を預ける。
「ま、明日聞いてみればいっか」
そう、私は呟いた。
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「ねぇ、神楽君」
私は登校一番、一人ぽつんと席について本を読んでいる神楽君(しかも今日は眼鏡をかけていた)の肩を叩いた。
神楽君は一瞬体をびくっと震わせ、私のほうに顔だけを向ける。なんだか作ったような笑みを返しながら、
「あ、なに?」
と恥ずかしそうに口を開いた。
作り物とはいえ、なんとも可愛らしい笑みだ。
そんな彼に、私は単刀直入に訊いてみる事にした。こんな奴だから、きっとすぐに吐いてしまうに違いない。
「神楽君、昨日の帰り道に声をかけようとしたら突然居なくなっちゃったでしょ? あれ、どんな魔法を使ったの?」
「ま、魔法!?」
その言葉と同時に、神楽君の顔が驚きに満ちる。驚いた顔も可愛らしい奴だ、チクショウめ。
と思ったら、
「ははは、あはははははは!」
神楽君は腹を抱えて、何が面白かったのか腹の底から笑い始めた。
なに? 私、いま何か変な事言ったっけ?
戸惑う私に、神楽君は、
「な、何を言い出すのかと思えば…… はははははは!」
目に涙を浮かべながら、ときどき咳き込みながら笑いつづける。
なんだ、こんにゃろう。
私は思わず神楽君の頭を叩いてやろうかと思ったがそれを抑えつつ、
「そんなに、おかしかった?」
できるだけ笑顔で言った。
「そ、そりゃぁ、おかしかったよ」
はははは、と神楽君は更に笑い、
「君、面白いね。えっと――」
神楽君は私の胸につけられた名札に目をやり、
「那由多さん?」
人の胸見ながらニヤニヤしてんじゃないわよ、と言ってやりたかったけど、まぁそれは言わないでおく。
「そう、私、那由多茜。ねぇ、そんなに笑わなくても良いんじゃない?」
「だって、おかしいじゃない。魔法なんてあるわけないじゃないか」
「そんなこと言ったって、あんた私の目の前でぱっと消えて見せたじゃないの」
その言葉に、神楽君はあははと笑い、
「それ、いったい何のハナシ?」
「何って、昨日、私見たのよ。神楽君がぱっと霧みたいに姿を消しちゃうところを」
「夢でも見てたんじゃないの?」
「まさか」
「じゃなきゃ、自分の妄想に気を取られてて、僕が曲がり角を曲がったのに気がつかなかったとか」
そんな馬鹿な、と私は思った。妄想に気を取られて目の前のものが見えなくなってしまうほど、私は馬鹿じゃない。
「とにかく、僕は魔法なんて使えない。それだけは言っとくよ」
そう笑いながら彼は言って、再び本に目を戻してしまった。
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