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さんにんめ
第4回
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5
ふたりに案内されて向かったのは、うちから少し離れた場所にある住宅街だった。
本当に、どこにでもありそうな、何の変哲もないその住宅街の片隅に、彼女らふたりが一緒に住んでいるという洋館は建っていた。
家を取り囲む高い煉瓦塀、花のあしらわれた黒い鉄格子の門、その門を抜けた先には小さいながらも色とりどりの花が咲き乱れた庭があって、蔦の這う家には高い煙突が聳え立つ。いくつも並ぶ出窓の向こう側には、刺繍の施されたレースのカーテンが覗いている。
アンティーク調の玄関扉の脇には古めかしいベルが設置されており、その横には可愛らしい丸文字で、こう書かれていた。
『御用の方はベルをお鳴らしください』
およそ普通の住宅街には似つかわしくない、その異人館を彷彿とさせる外観に私は思わず目を見張る。
「どうぞ」
そう言って、ロリータ服を身にまとった女性は玄関扉を開けて私を中へと招き入れた。
「あ、はい……」
言われるがまま、私は家の中に足を一歩踏み入れる。
ふわりと香る甘い匂い。掃除の行き届いた綺麗な玄関。家の中も西洋風に統一されたデザインで、まるで外国に来たかのような錯覚を覚えた。
私はそのままロリータ服の女性について歩き、玄関に近い応接間に通された。
入って左側にはマントルピース、その前には大きなテーブルを挟んで、向き合うようにえんじ色のソファが置かれている。部屋の中を見回せば、壁には古そうな振り子時計、窓辺にはチェス盤の置かれた白い小さなテーブルと二脚の椅子があって、至る所に不思議の国のキャラクターと思われる小物が飾られていた。
私がその柔らかいソファに腰を下ろすと、ロリータ服の女性は「ちょっと待っていてくださいね」と言い残して、どこかへ行ってしまった。
私は一人取り残されて、何だかソワソワせずにはいられなかった。
こんな朝早くから知らない人の家にのこのこと着いて来てしまったけれど、本当に大丈夫なんだろうか。悪い人には見えなかったけれど、人は見かけによらない。怪しげな宗教の勧誘とか、妙な壺とか売りつけてくる詐欺師とか――
なんてことを考えながら、なんとなく不安を覚えていたころ、
「お待たせしました」
言いながら、ロリータ服の女性が再び部屋に入ってくる。
「……え?」
私はその姿を見て、目を疑った。
一瞬、部屋のドアが自動的に開閉されたように見えたからだ。
彼女はその両手でポットとカップののったトレーを手にしており、ドアを開閉するためにはどちらかの手を使わなければならない。にもかかわらず、部屋のドアは勝手に開き、そして彼女が通過した後で、勝手にぱたんと閉じられたのだ。
彼女はずっとトレーを両手で持っていた。ドアを開け閉めするためには片手を空けなければならない。にもかかわらず、彼女は一切そんな動きを見せなかった。
まぁ、ドアを開けるその瞬間から見ていたわけではないし、勝手に閉まったように見えたのだって、きっと建付けが悪いとかそんな理由だろう。気にするようなことじゃない。
「……どうかなさいましたか?」
訊ねられて、私はふと我に返った。
「あ、いえ。なんでもありません」
「そうですか?」
彼女はテーブルの上にトレーを置くと、慣れた手つきでカップにお茶を注いで私の目の前に差し出してきた。何だか不思議な香りのするお茶だった。たぶん、紅茶なのだろうけれど、ふだん紅茶を口にしないのでどんな種類のものなのかまでは判らなかった。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
それから彼女は、私と向かい合うようにテーブルを挟んでソファに腰かけた。何とも美しい所作だった。ふわりとスカートが舞い、しわを作らないように、両手で生地を押さえながら。
こうして改めて彼女の姿を真正面から見てみると、その異様なまでの肌の白さが気になった。肌だけじゃない。髪も、眉毛も、全部が白いのだ。唯一、その大きな瞳だけが透き通るように青かった。外国人……ではないと思う。たぶん、日本人。けれど、どこからどう見ても彼女の佇まいは西洋人形のようにしか見えなくて――
「えっと……まずはお名前から伺ってもよろしいですか?」
問われて私は、素直に自分の名前を彼女に告げた。
「栫です。栫奏」
すると彼女はにっこりとほほ笑んで、
「奏さん、ですね。私は楾アリス。よろしくお願いしますね」
ハンドウ、アリス。偽名だろうか。私は改めて、にっこりとほほ笑む彼女の姿をまじまじと見つめた。きめ細やかな白い肌。白くて長いまつげ。薄青色の瞳。桃色の唇。小柄で華奢な腕。その腕もまた真っ白で、もしかしたら、本当に魔法で動いている人形か何かなんじゃないだろうか。
「……あの、大丈夫ですか?」
ふたたびアリスさんに訊ねられて、私は思わず目をそらしながら、
「あ、すみません! アリスさんがあまりにも綺麗な方なので、つい……!」
アリスさんはふふっと嬉しそうに声を漏らし、
「ありがとうございます」
と小さく頭を下げてから、
「さて、それでは本題に入りましょうか」
わずかに眉間にしわを寄せる。
そして一拍置いてから、私の目をじっと見つめて。
「これは、もしかしたら、なのですが……あなたは今、何か動物にまつわることで悩んでいらっしゃいませんか?」
ふたりに案内されて向かったのは、うちから少し離れた場所にある住宅街だった。
本当に、どこにでもありそうな、何の変哲もないその住宅街の片隅に、彼女らふたりが一緒に住んでいるという洋館は建っていた。
家を取り囲む高い煉瓦塀、花のあしらわれた黒い鉄格子の門、その門を抜けた先には小さいながらも色とりどりの花が咲き乱れた庭があって、蔦の這う家には高い煙突が聳え立つ。いくつも並ぶ出窓の向こう側には、刺繍の施されたレースのカーテンが覗いている。
アンティーク調の玄関扉の脇には古めかしいベルが設置されており、その横には可愛らしい丸文字で、こう書かれていた。
『御用の方はベルをお鳴らしください』
およそ普通の住宅街には似つかわしくない、その異人館を彷彿とさせる外観に私は思わず目を見張る。
「どうぞ」
そう言って、ロリータ服を身にまとった女性は玄関扉を開けて私を中へと招き入れた。
「あ、はい……」
言われるがまま、私は家の中に足を一歩踏み入れる。
ふわりと香る甘い匂い。掃除の行き届いた綺麗な玄関。家の中も西洋風に統一されたデザインで、まるで外国に来たかのような錯覚を覚えた。
私はそのままロリータ服の女性について歩き、玄関に近い応接間に通された。
入って左側にはマントルピース、その前には大きなテーブルを挟んで、向き合うようにえんじ色のソファが置かれている。部屋の中を見回せば、壁には古そうな振り子時計、窓辺にはチェス盤の置かれた白い小さなテーブルと二脚の椅子があって、至る所に不思議の国のキャラクターと思われる小物が飾られていた。
私がその柔らかいソファに腰を下ろすと、ロリータ服の女性は「ちょっと待っていてくださいね」と言い残して、どこかへ行ってしまった。
私は一人取り残されて、何だかソワソワせずにはいられなかった。
こんな朝早くから知らない人の家にのこのこと着いて来てしまったけれど、本当に大丈夫なんだろうか。悪い人には見えなかったけれど、人は見かけによらない。怪しげな宗教の勧誘とか、妙な壺とか売りつけてくる詐欺師とか――
なんてことを考えながら、なんとなく不安を覚えていたころ、
「お待たせしました」
言いながら、ロリータ服の女性が再び部屋に入ってくる。
「……え?」
私はその姿を見て、目を疑った。
一瞬、部屋のドアが自動的に開閉されたように見えたからだ。
彼女はその両手でポットとカップののったトレーを手にしており、ドアを開閉するためにはどちらかの手を使わなければならない。にもかかわらず、部屋のドアは勝手に開き、そして彼女が通過した後で、勝手にぱたんと閉じられたのだ。
彼女はずっとトレーを両手で持っていた。ドアを開け閉めするためには片手を空けなければならない。にもかかわらず、彼女は一切そんな動きを見せなかった。
まぁ、ドアを開けるその瞬間から見ていたわけではないし、勝手に閉まったように見えたのだって、きっと建付けが悪いとかそんな理由だろう。気にするようなことじゃない。
「……どうかなさいましたか?」
訊ねられて、私はふと我に返った。
「あ、いえ。なんでもありません」
「そうですか?」
彼女はテーブルの上にトレーを置くと、慣れた手つきでカップにお茶を注いで私の目の前に差し出してきた。何だか不思議な香りのするお茶だった。たぶん、紅茶なのだろうけれど、ふだん紅茶を口にしないのでどんな種類のものなのかまでは判らなかった。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
それから彼女は、私と向かい合うようにテーブルを挟んでソファに腰かけた。何とも美しい所作だった。ふわりとスカートが舞い、しわを作らないように、両手で生地を押さえながら。
こうして改めて彼女の姿を真正面から見てみると、その異様なまでの肌の白さが気になった。肌だけじゃない。髪も、眉毛も、全部が白いのだ。唯一、その大きな瞳だけが透き通るように青かった。外国人……ではないと思う。たぶん、日本人。けれど、どこからどう見ても彼女の佇まいは西洋人形のようにしか見えなくて――
「えっと……まずはお名前から伺ってもよろしいですか?」
問われて私は、素直に自分の名前を彼女に告げた。
「栫です。栫奏」
すると彼女はにっこりとほほ笑んで、
「奏さん、ですね。私は楾アリス。よろしくお願いしますね」
ハンドウ、アリス。偽名だろうか。私は改めて、にっこりとほほ笑む彼女の姿をまじまじと見つめた。きめ細やかな白い肌。白くて長いまつげ。薄青色の瞳。桃色の唇。小柄で華奢な腕。その腕もまた真っ白で、もしかしたら、本当に魔法で動いている人形か何かなんじゃないだろうか。
「……あの、大丈夫ですか?」
ふたたびアリスさんに訊ねられて、私は思わず目をそらしながら、
「あ、すみません! アリスさんがあまりにも綺麗な方なので、つい……!」
アリスさんはふふっと嬉しそうに声を漏らし、
「ありがとうございます」
と小さく頭を下げてから、
「さて、それでは本題に入りましょうか」
わずかに眉間にしわを寄せる。
そして一拍置いてから、私の目をじっと見つめて。
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