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第3章 夢魔と少女
第7回
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6
わたしたちの数歩先を歩く楸先輩は、その長い髪を揺らしながら、時折こちらを気にするように、ちらちらと視線を向けてきた。
その表情はやはりどこか困惑した様子で、なぜ自分がここまで恐れられているのか、本気でわかっていないかのようだった。
本当に、この人は私の知る楸先輩なのだろうか。
あまりの変貌ぶりに、わたしも同じく困惑してしまう。
ユキと手を繋いだまま、ふたりして顔を見合わせて、もう一度楸先輩の方に顔を向けて。
そこでぴたりと、楸先輩は立ち止まった。
わたしたちも立ち止まり、そんな楸先輩に声をかける。
「……どうかしたんですか?」
「なに? 何かあるの?」
それに対して、楸先輩は大きな溜息をひとつ吐いてから、
「――空気が重い! 重すぎます!」
こちらに身体を向け、大きな声でそう叫んだ。
頬を大きく膨らませながら、まるでわたしたちが悪いかのように、
「何なんですか! 確かにわたし、悪ふざけが過ぎたと思いますよ? でも、それにしたって、そんなにだんまりを決め込んで歩き続けることなんて、ないじゃないですか! もっとおしゃべりしながら楽しくいきましょうよ! 空気が重すぎて、息が詰まっちゃうじゃないですか!」
「いや、そんなこと言われたって」
それに答えたのは、ユキだった。
ユキは眉を寄せながら、
「さっきもアオイが言ってたでしょ? 先輩のしたこと、絶対に許さないって」
「許してくれなくてもいいですから! お願いだからなんか喋ってくださいよ! このままじゃ息苦しくて、死んじゃうじゃないですか!」
「死にませんよ、安心してください」
冷静にツッコむユキに、けれど楸先輩は、
「死にますよ! 息が詰まって、バタンきゅ~ですよ!」
言って、実際にわたしたちの目の前で廊下に寝ころんで見せた。
わたしはそんな楸先輩に思わず目を見開く。
な、なんなの、この人。いったい、何がしたいわけ?
だって、わたしの知ってる楸先輩は、絶対にこんなことしそうな人じゃなかった。
どこか落ち着いた様子で、けれど眼光鋭くて、わたしを脅して、襲い掛かって。
本当に、この人はあの楸先輩なんだろうか?
どこかで中身が入れ替わった、偽物なんじゃないだろうか?
そんなふうに思えるくらい、キャラが違う。違い過ぎる。
「わたし、ずっとこの世界を彷徨ってましたけど、ようやくあなたたちに会えてうれしかったんです」
寝ころんだまま、楸先輩は悲しそうにわたしの顔を見つめながら、
「周り見ても誰も居ないし、真っ暗だし、どんなに心細かったことか……」
しくしく、しくしく、そこだけはわざとらしく泣きまねをする楸先輩。
……うん、違う。やっぱり、何かがおかしい。
この人は、絶対にわたしの知っている楸先輩ではありえない。
じゃぁ、だとして、この人は一体だれなの?
「わかりましたから、いい加減立ってくださいよ」
少しだけ笑みを浮かべるユキに、楸先輩もにっこりと微笑みながら、
「は~い」
軽い返事をして、よっこらせ、と立ち上がる。
服やスカートに着いた埃やしわを払うようにぱんぱんはたき、柔らかい笑みを浮かべてわたしのほうに顔を向け、
「……鐘撞さん」
声をかけてくる。
わたしはユキの手を握り締めたままで、
「はい」
と短くそれに返した。
楸先輩はわずかに首を傾げながら、
「一歩だけ、鐘撞さんに近づいても良いですか?」
その言葉に、わたしはごくりと唾を飲み込んだ。
近づいて、それでどうするつもりなんだろうか。
今、わたしと楸先輩の間には、おおよそ七歩分の距離があった。
その距離を詰めて、彼女はいったい、何をしようというのだろうか。
思わず身構えてしまうわたしに、楸先輩は小さく首を横に振って、
「大丈夫です。何もしません。本当です。私を、信じてください」
いったい、何を根拠にそんなことを言っているのか。
楸先輩の、何を信じてあげれば良いというのか。
わたしは逡巡しつつ、けれど楸先輩の柔らかい微笑みと真摯な眼差しに、どこか信じても良いんじゃないかと、根拠のない安心感を得つつあった。
わたしは彼女の出方を窺いつつ、
「――わかりました。一歩だけ、ですからね」
「はい。一歩です。一歩だけです」
頷き、何故かそのままこちらに背を向け、すたすたと数歩、前へ進んで。
「えっ?」
「なんのつもり?」
胡乱な眼差しでそれを見ていたわたしたちの方へやおら体ごと振り向くと、
「じゃぁ、行きますよ!」
にやりと笑んで、こちらに向かって駆け出した。
襲われる! と思ったけれど、怖さのあまり、足がすくんで動けなかった。
楸先輩は、そのまま先ほどまで立っていたところまで駆けてくると、だっと力強く廊下を蹴って――ふんわり廊下を軽く跳んで――わたしたちのすぐ目の前に、スカートをひるがえしながら着地した。
目を真丸くして怯えるわたしたちに、けれど楸先輩は、
「ね? 見ましたか? ちゃんと一歩だけだったでしょ?」
得意げに、嬉しそうに、微笑みかけてくるのだった。
わたしもユキも、そんな楸先輩に面食らい、何も答えることができなかった。
襲い掛かってきたわけではないようで安堵しつつ、けれどわたしの口にした『一歩』を普通のひと足分ではなく、助走してジャンプして(しかも魔法を使ったのか、異様なくらい綺麗な弧を描いて飛んで)近づいてくるとは思ってもみなかった。
楸先輩はわたしたちの驚くさまに満足したのだろう、わたしたちにくるりと背を向けると、
「さぁ、行きましょうか」
そう口にして、再び歩き出したのだった。
わたしたちは、その背中を慌てて追いかけて、
「ちょ、ちょっと、何なんですか。今のは!」
ユキが楸先輩の背中に声を掛けた。
楸先輩はわずかにこちらを振り向きつつ、
「おふたりに対する、わたしの心の距離を表しました」
それからにっこりと微笑んで、
「わたし、おふたりと仲良くなりたいんです」
柔らかい口調で、そう言った。
それに対して、わたしは訝しむように、
「そんなこと言って、実はわたしの魔力を吸い取るつもりで、騙そうとしているんじゃないですか?」
けれど楸先輩は、意外にも不思議そうに首を傾げて立ち止まり、
「……どうしてわたしが、アオイちゃんの魔力を吸い取るんですか?」
言って、眼をぱちぱちさせて見せた。
わたしもつられて歩みを止め、そのきょとんとした楸先輩の顔を睨みつけながら、
「それは――わたしの魔力を、自分のモノにして、それで――」
自ら口にしておきながら、いまいちよくわからなかった。
何のために、どうして、そんなことをするのか。
改めて思い出そうと首を捻っていると、
「ぷぷっ! そんなことしませんよ!」
と楸先輩は噴き出すように笑い、
「だって私の魔力、そんなことする必要ないくらい、高いですから!」
言って、自慢げに胸を張ったのだった。
そんなわたしたちの会話に、ユキはぽかんと口を開けており、
「――魔力? 吸い取る? なにそれ、あんたたち、いったい何の話をしてるわけ? どういうこと? わけわかんないんだけど」
眉間に皺を寄せながら、交互にわたしたちの顔を見比べた。
……しまった、そうだった。
わたしはつい今しがた口にした言葉を激しく後悔した。
わたしは、わたしが魔法使い――魔女であることを、ユキには話していないのだ。
どうしよう。これはママに叱られちゃう。
わたしが魔女であることは、秘密にするように言われていたのに……
困った、どう説明して誤魔化そう。何とかしなくちゃ、何とか……!
そんなわたしとは対照的に、楸先輩はくすりと笑みを浮かべながら、
「私たち、実は魔女なんです」
隠すことなく、誤魔化すことなく、はっきりとそう答えたのだった。
わたしは思わず目を見開き、首を大きく横に振って、
「ちょ、ちょっと、楸先輩! そういうことは」
「秘密にする必要、ありますか? お友達なんでしょう? お友達には自分のこと、知っておいてもらいたくないんですか? 私は仲の良いお友達には、自分が魔女であることを秘密にはしていませんよ。だって友達ですから。それにもし魔女であることを打ち明けたところで、それを信じるか信じないかはそのお友達次第でしょう? 信じてもらえないのであれば別にそれでもかまいませんし、信じてくれるのであれば秘密の共有って感じでより仲良くなれたような気がしませんか?」
楸先輩の言葉に、わたしはそれでもなおオロオロしてしまった。
ちらりとユキに視線をやれば、わたしと楸先輩を胡乱な目で見比べている。
あぁ、そんな眼でわたしを見ないで! 疑わないで!
そう思っていると、ユキは一つ頷いて、
「……そっか。やっぱりそうだったんだ」
何故か納得したように、口にした。
「えっ」
とわたしが眼を見張れば、ユキはニヤリと笑みながら、
「実は私さ、一度だけアオイがホウキに乗って学校に来てたの、見たことがあったんだ。あの時は何かの見間違いだったんだろうって思って自分を納得させてたんだけど――あれ、見間違いじゃなかったんだ。やっぱりアオイだったんだね」
わたしは息を飲み、ユキの顔をまじまじと見つめた。
そんな、でも、だって――
「ほ、本当に、それ、わたしだったの?」
「の、はずだけど。友達の顔、見間違えたりしないよ」
笑うユキに、けれどわたしは、
「でも、わたし、空を飛ぶときは鳥に見える魔法をかけてるから――」
わたしのことは、空を飛ぶ鳥にしか見えないはずなのに。
「時々いるんですよ」
と口を開いたのは、楸先輩だった。
「たぶん、フィーリング的に互いの魔力が一致しちゃって、本来なら鳥に見えるところが、そのまま本人の姿で筒抜けになっちゃうみたいですよ?」
「互いの魔力?」
首を傾げるユキに、楸先輩は、
「魔力というのは、生命力でもあるんです。それはひとりひとり指紋のように形が違って、けれどその形がたまたま合うことがあって、そういう人には魔法が通じないことがあるそうです。まぁ、わたしもおばあちゃんの受け売りなので、よく知らないんですけどね」
「ってことは、私とアオイの魔力は――」
「合うんでしょうね、きっと。どうぞおふたりとも、これからも仲良くしてくださいね」
わたしたちはその言葉に、何となく互いを見つめ合った。
そんな話を聞いたのは初めてのことだったし、楸先輩の言うことが本当で、ユキがわたしが空を飛んでいる姿を眼にしている以上、たぶん、そうなんだろう。
わたしとユキの魔力が、一致している。
それって、つまり……?
「それって、私とアオイが今ここにいることと、何か関係があるんですか?」
訊ねたユキに、楸先輩は首を傾げながら、
「直接的には関係ないんじゃないですかね。いくら魔力が一致するからって、常に同じ夢を見ているわけではないでしょうし」
「……夢? 夢ってどういうこと? これ、夢なの?」
「はい」
「私たち、夢の中にいるわけ?」
「そうなりますね」
「――これ、アオイの夢なの?」
ユキがこちらに顔を向けて、わたしは慌てて首を横に振りながら、
「ち、違うよ! わたしじゃない。これは……」
とわたしは遠慮がちに楸先輩のほうに顔を向け、
「たぶん、楸先輩の夢だと思う」
答えると、ユキも同じように楸先輩のほうに顔を向けて、
「え? この人の夢の中?」
すると楸先輩もちょっと驚いたように、
「――これ、私の夢の中だったんですか?」
自分の顔を指差しながら、目をぱちくりさせたのだった。
わたしたちの数歩先を歩く楸先輩は、その長い髪を揺らしながら、時折こちらを気にするように、ちらちらと視線を向けてきた。
その表情はやはりどこか困惑した様子で、なぜ自分がここまで恐れられているのか、本気でわかっていないかのようだった。
本当に、この人は私の知る楸先輩なのだろうか。
あまりの変貌ぶりに、わたしも同じく困惑してしまう。
ユキと手を繋いだまま、ふたりして顔を見合わせて、もう一度楸先輩の方に顔を向けて。
そこでぴたりと、楸先輩は立ち止まった。
わたしたちも立ち止まり、そんな楸先輩に声をかける。
「……どうかしたんですか?」
「なに? 何かあるの?」
それに対して、楸先輩は大きな溜息をひとつ吐いてから、
「――空気が重い! 重すぎます!」
こちらに身体を向け、大きな声でそう叫んだ。
頬を大きく膨らませながら、まるでわたしたちが悪いかのように、
「何なんですか! 確かにわたし、悪ふざけが過ぎたと思いますよ? でも、それにしたって、そんなにだんまりを決め込んで歩き続けることなんて、ないじゃないですか! もっとおしゃべりしながら楽しくいきましょうよ! 空気が重すぎて、息が詰まっちゃうじゃないですか!」
「いや、そんなこと言われたって」
それに答えたのは、ユキだった。
ユキは眉を寄せながら、
「さっきもアオイが言ってたでしょ? 先輩のしたこと、絶対に許さないって」
「許してくれなくてもいいですから! お願いだからなんか喋ってくださいよ! このままじゃ息苦しくて、死んじゃうじゃないですか!」
「死にませんよ、安心してください」
冷静にツッコむユキに、けれど楸先輩は、
「死にますよ! 息が詰まって、バタンきゅ~ですよ!」
言って、実際にわたしたちの目の前で廊下に寝ころんで見せた。
わたしはそんな楸先輩に思わず目を見開く。
な、なんなの、この人。いったい、何がしたいわけ?
だって、わたしの知ってる楸先輩は、絶対にこんなことしそうな人じゃなかった。
どこか落ち着いた様子で、けれど眼光鋭くて、わたしを脅して、襲い掛かって。
本当に、この人はあの楸先輩なんだろうか?
どこかで中身が入れ替わった、偽物なんじゃないだろうか?
そんなふうに思えるくらい、キャラが違う。違い過ぎる。
「わたし、ずっとこの世界を彷徨ってましたけど、ようやくあなたたちに会えてうれしかったんです」
寝ころんだまま、楸先輩は悲しそうにわたしの顔を見つめながら、
「周り見ても誰も居ないし、真っ暗だし、どんなに心細かったことか……」
しくしく、しくしく、そこだけはわざとらしく泣きまねをする楸先輩。
……うん、違う。やっぱり、何かがおかしい。
この人は、絶対にわたしの知っている楸先輩ではありえない。
じゃぁ、だとして、この人は一体だれなの?
「わかりましたから、いい加減立ってくださいよ」
少しだけ笑みを浮かべるユキに、楸先輩もにっこりと微笑みながら、
「は~い」
軽い返事をして、よっこらせ、と立ち上がる。
服やスカートに着いた埃やしわを払うようにぱんぱんはたき、柔らかい笑みを浮かべてわたしのほうに顔を向け、
「……鐘撞さん」
声をかけてくる。
わたしはユキの手を握り締めたままで、
「はい」
と短くそれに返した。
楸先輩はわずかに首を傾げながら、
「一歩だけ、鐘撞さんに近づいても良いですか?」
その言葉に、わたしはごくりと唾を飲み込んだ。
近づいて、それでどうするつもりなんだろうか。
今、わたしと楸先輩の間には、おおよそ七歩分の距離があった。
その距離を詰めて、彼女はいったい、何をしようというのだろうか。
思わず身構えてしまうわたしに、楸先輩は小さく首を横に振って、
「大丈夫です。何もしません。本当です。私を、信じてください」
いったい、何を根拠にそんなことを言っているのか。
楸先輩の、何を信じてあげれば良いというのか。
わたしは逡巡しつつ、けれど楸先輩の柔らかい微笑みと真摯な眼差しに、どこか信じても良いんじゃないかと、根拠のない安心感を得つつあった。
わたしは彼女の出方を窺いつつ、
「――わかりました。一歩だけ、ですからね」
「はい。一歩です。一歩だけです」
頷き、何故かそのままこちらに背を向け、すたすたと数歩、前へ進んで。
「えっ?」
「なんのつもり?」
胡乱な眼差しでそれを見ていたわたしたちの方へやおら体ごと振り向くと、
「じゃぁ、行きますよ!」
にやりと笑んで、こちらに向かって駆け出した。
襲われる! と思ったけれど、怖さのあまり、足がすくんで動けなかった。
楸先輩は、そのまま先ほどまで立っていたところまで駆けてくると、だっと力強く廊下を蹴って――ふんわり廊下を軽く跳んで――わたしたちのすぐ目の前に、スカートをひるがえしながら着地した。
目を真丸くして怯えるわたしたちに、けれど楸先輩は、
「ね? 見ましたか? ちゃんと一歩だけだったでしょ?」
得意げに、嬉しそうに、微笑みかけてくるのだった。
わたしもユキも、そんな楸先輩に面食らい、何も答えることができなかった。
襲い掛かってきたわけではないようで安堵しつつ、けれどわたしの口にした『一歩』を普通のひと足分ではなく、助走してジャンプして(しかも魔法を使ったのか、異様なくらい綺麗な弧を描いて飛んで)近づいてくるとは思ってもみなかった。
楸先輩はわたしたちの驚くさまに満足したのだろう、わたしたちにくるりと背を向けると、
「さぁ、行きましょうか」
そう口にして、再び歩き出したのだった。
わたしたちは、その背中を慌てて追いかけて、
「ちょ、ちょっと、何なんですか。今のは!」
ユキが楸先輩の背中に声を掛けた。
楸先輩はわずかにこちらを振り向きつつ、
「おふたりに対する、わたしの心の距離を表しました」
それからにっこりと微笑んで、
「わたし、おふたりと仲良くなりたいんです」
柔らかい口調で、そう言った。
それに対して、わたしは訝しむように、
「そんなこと言って、実はわたしの魔力を吸い取るつもりで、騙そうとしているんじゃないですか?」
けれど楸先輩は、意外にも不思議そうに首を傾げて立ち止まり、
「……どうしてわたしが、アオイちゃんの魔力を吸い取るんですか?」
言って、眼をぱちぱちさせて見せた。
わたしもつられて歩みを止め、そのきょとんとした楸先輩の顔を睨みつけながら、
「それは――わたしの魔力を、自分のモノにして、それで――」
自ら口にしておきながら、いまいちよくわからなかった。
何のために、どうして、そんなことをするのか。
改めて思い出そうと首を捻っていると、
「ぷぷっ! そんなことしませんよ!」
と楸先輩は噴き出すように笑い、
「だって私の魔力、そんなことする必要ないくらい、高いですから!」
言って、自慢げに胸を張ったのだった。
そんなわたしたちの会話に、ユキはぽかんと口を開けており、
「――魔力? 吸い取る? なにそれ、あんたたち、いったい何の話をしてるわけ? どういうこと? わけわかんないんだけど」
眉間に皺を寄せながら、交互にわたしたちの顔を見比べた。
……しまった、そうだった。
わたしはつい今しがた口にした言葉を激しく後悔した。
わたしは、わたしが魔法使い――魔女であることを、ユキには話していないのだ。
どうしよう。これはママに叱られちゃう。
わたしが魔女であることは、秘密にするように言われていたのに……
困った、どう説明して誤魔化そう。何とかしなくちゃ、何とか……!
そんなわたしとは対照的に、楸先輩はくすりと笑みを浮かべながら、
「私たち、実は魔女なんです」
隠すことなく、誤魔化すことなく、はっきりとそう答えたのだった。
わたしは思わず目を見開き、首を大きく横に振って、
「ちょ、ちょっと、楸先輩! そういうことは」
「秘密にする必要、ありますか? お友達なんでしょう? お友達には自分のこと、知っておいてもらいたくないんですか? 私は仲の良いお友達には、自分が魔女であることを秘密にはしていませんよ。だって友達ですから。それにもし魔女であることを打ち明けたところで、それを信じるか信じないかはそのお友達次第でしょう? 信じてもらえないのであれば別にそれでもかまいませんし、信じてくれるのであれば秘密の共有って感じでより仲良くなれたような気がしませんか?」
楸先輩の言葉に、わたしはそれでもなおオロオロしてしまった。
ちらりとユキに視線をやれば、わたしと楸先輩を胡乱な目で見比べている。
あぁ、そんな眼でわたしを見ないで! 疑わないで!
そう思っていると、ユキは一つ頷いて、
「……そっか。やっぱりそうだったんだ」
何故か納得したように、口にした。
「えっ」
とわたしが眼を見張れば、ユキはニヤリと笑みながら、
「実は私さ、一度だけアオイがホウキに乗って学校に来てたの、見たことがあったんだ。あの時は何かの見間違いだったんだろうって思って自分を納得させてたんだけど――あれ、見間違いじゃなかったんだ。やっぱりアオイだったんだね」
わたしは息を飲み、ユキの顔をまじまじと見つめた。
そんな、でも、だって――
「ほ、本当に、それ、わたしだったの?」
「の、はずだけど。友達の顔、見間違えたりしないよ」
笑うユキに、けれどわたしは、
「でも、わたし、空を飛ぶときは鳥に見える魔法をかけてるから――」
わたしのことは、空を飛ぶ鳥にしか見えないはずなのに。
「時々いるんですよ」
と口を開いたのは、楸先輩だった。
「たぶん、フィーリング的に互いの魔力が一致しちゃって、本来なら鳥に見えるところが、そのまま本人の姿で筒抜けになっちゃうみたいですよ?」
「互いの魔力?」
首を傾げるユキに、楸先輩は、
「魔力というのは、生命力でもあるんです。それはひとりひとり指紋のように形が違って、けれどその形がたまたま合うことがあって、そういう人には魔法が通じないことがあるそうです。まぁ、わたしもおばあちゃんの受け売りなので、よく知らないんですけどね」
「ってことは、私とアオイの魔力は――」
「合うんでしょうね、きっと。どうぞおふたりとも、これからも仲良くしてくださいね」
わたしたちはその言葉に、何となく互いを見つめ合った。
そんな話を聞いたのは初めてのことだったし、楸先輩の言うことが本当で、ユキがわたしが空を飛んでいる姿を眼にしている以上、たぶん、そうなんだろう。
わたしとユキの魔力が、一致している。
それって、つまり……?
「それって、私とアオイが今ここにいることと、何か関係があるんですか?」
訊ねたユキに、楸先輩は首を傾げながら、
「直接的には関係ないんじゃないですかね。いくら魔力が一致するからって、常に同じ夢を見ているわけではないでしょうし」
「……夢? 夢ってどういうこと? これ、夢なの?」
「はい」
「私たち、夢の中にいるわけ?」
「そうなりますね」
「――これ、アオイの夢なの?」
ユキがこちらに顔を向けて、わたしは慌てて首を横に振りながら、
「ち、違うよ! わたしじゃない。これは……」
とわたしは遠慮がちに楸先輩のほうに顔を向け、
「たぶん、楸先輩の夢だと思う」
答えると、ユキも同じように楸先輩のほうに顔を向けて、
「え? この人の夢の中?」
すると楸先輩もちょっと驚いたように、
「――これ、私の夢の中だったんですか?」
自分の顔を指差しながら、目をぱちくりさせたのだった。
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