夢魔と魔法使いの少女たち

ノムラユーリ

文字の大きさ
30 / 40
第4章 あちらとこちら

第6回

しおりを挟む
   6

「アオイ」

 夕食が終わり、自分の食器を片付けていると、後ろからママに声を掛けられた。

 ママは少し困ったような表情をわたしに向けて、
「……ここ数日、何かあったでしょう?」

 その言葉に、わたしは思わずどきりとした。

 何か、と問われて、わたしはどう答えたら良いものか返答に困ってしまう。

 わたしと同じ魔女である楸先輩と知り合ったこと。

 学校のイノクチ先生が実は魔法使いで、全魔協ってグループの人だったこと。

 そのイノクチ先生に言われて、綺麗で可愛らしい、楾アリスさんって魔女から協会への勧誘を受けていること。

 夢渡りとか何とかいう魔法の所為で夢に囚われて、そこで三年生の先輩で、やっぱり魔女の榎先輩と知り合って、夢の中を彷徨って、あの恐ろしく不気味な夢魔に襲われて――

 でも、それを口に出して説明しようと思っても、頭の中でこんがらがって、うまく説明できそうになくて、何から話し始めたら良いのか、まったく全然、わからなくなって、
「えっと、あのね」
 それだけ口にして、けれどそれ以上、わたしは言葉を紡ぐことができなかった。

 何となく喉元までは出かかっているのに、それを音に出して発することがまるでできなかったのだ。

 こんなこと、初めてのことだった。

 けど、無理もない。わたしにだって、いまだにわたしが置かれている状況を、ちゃんと把握できているわけではないのだから。

 ただ判っているのは、夢魔と楸先輩には何らかの関係があること、昨夜夢で出会った楸先輩と、今日出会った楸先輩は間違いなく、帯びていた魔力が異なっていたこと、それだけだ。

 わたしはそれに、意図せず巻き込まれていて。

 それをママに説明して、果たして理解してくれるだろうか。

 わたしの助けになってくれるだろうか。

『魔法使いや魔女を、簡単に信じちゃいけないよ』

 そう言って、ママもおばあちゃんも、他の魔法使いのことを信じていない。

 それなのに、わたしはこの数日間、色々な魔女や魔法使いと出会って、話をして、関わって。

 もしそれを口にしたら、怒られてしまうだろうか。

 あれだけ魔法使いや魔女を信じるなと言っているのに、どうして信じたのか、関わったのかって怒られちゃうんだろうか。

 そう思うと、何だか不安が胸をよぎった。

 言いつけを守らなかったことに対して、何らかの罰を受けてしまうんじゃないのか。

 それがただただ不安で、怖くて、許しを請うように言い訳しようと試みても、言葉が全く思い浮かばなくて、何だか涙が浮かんできた。

 ママはそんなわたしの様子に心配そうに眉間に皺を寄せながら、
「あ、ごめんね。別に、無理矢理聞き出そうってつもりはないの」
 それからわたしの身体を抱きしめながら、
「……なんだかアオイの様子がいつもと違ってたから、ちょっと心配なの、ママ」

「……うん」

「無理にとは言わないから、もし何か困ったことがあるんだったら、ちゃんとママに言いなさいね」

「……うん」

「ママ、アオイの為に、何でもするから。ちゃんと助けてあげるから。ね?」

「……うん」

 わたしは何度も頷いて、ママの身体をぎゅっと抱きしめた。

 どうしてうまく伝えられないんだろう。どうして言葉が出てこないんだろう。

 どうして今わたしは、こんな目に遭っているんだろう。

 全ては楸先輩と出会った、あの朝から始まったのだ。

 もし楸先輩と出会わなければ、今もわたしは、これまでと同じように、ユキやカナタやミツキたちと、楽しい学校生活を送っていたかもしれないというのに。

 なんで、どうして、こんなことに。

 夢魔って何? どうしてわたしを襲ってくるの?

 なんでわたしの夢は、楸先輩の夢と繋がっちゃったわけ?

 誰のせい? 誰が悪いの? わたし? 楸先輩と関わってしまった、わたしが悪いわけ?

 わからない。なにもわからない。

 わたしはしばらくママに抱き着いたまま静かに涙を流していたのだけれど、やがて心も落ち着いてきて、鼻をすすりながらママから離れる。

「……ごめんね、ママ。ありがとう」

 すると、ママはやはり心配そうに、
「あんまり、無理しちゃダメよ。何かあったら、話してもいいって思ったら、ちゃんとママやパパに相談してね?」

「……はい」

 わたしは精一杯の笑顔をママに向けてから、目元の涙をぬぐいつつ、

「お風呂、入ってくるね」

 その場から逃げるように、バスルームの方に足を向けた。

 その背後から、ママの小さなため息が聞こえたような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...