5 / 56
ひとりめ
第4回
しおりを挟む
4
翌朝、驚いたことに沙綾が僕を迎えに来た。
高鳴る心臓を必死で抑えながら、「おはよう」と微笑む沙綾に僕は訊ねる。
「あ、朝練は? 大丈夫なの?」
「今日は、まぁね。朝練って言っても、どうせ軽くジョギングするだけだし」
それより早く行こうよ、そう言って急かす沙綾に、僕は急いで通学鞄を手にすると、家族に「いってきます」と一声かけて、足早に家をあとにした。
他愛もない会話を交わしながら、二人並んで歩き慣れた通学路を進む。
僕は沙綾の話に耳を傾けながら、けれど例のキーホルダーを渡すために、どのタイミングで大会の話を振ればいいだろうか、とそのことに悩んでいた。
茜さんはさも簡単そうに言っていたけれど、こうやって沙綾と漫画や動画の話をしている最中に、いったいどうやって話題を変えればいいのかがわからない。
悩みというのは、どうしてこうもあとからあとから湧いてくるんだろう。
沙綾があまりに楽しそうに話をするものだから、僕はその話の腰を折ってしまうのも悪い気がして、いつしか気付くと、通学路の半分以上を過ぎていた。
早く話題を変えてキーホルダーを渡さないと、このままだと学校に着いてしまう。
若干の焦りを覚えながら、それでも何とか沙綾の話が終わった隙を見て、僕は口を開いた。
「あ、あのさ、沙綾。もうすぐ大会が――」
と、その時。
「お! 倉敷! おはよう!」
不意に後ろから声がして、僕は思わず口を噤んだ。
沙綾と一緒に後ろを振り向けば、そこには中島くんの姿があって……
なんで、どうしてこんな時に――!
忌々しく思っている僕とは対照的に、沙綾は満面の笑みで、
「あ、おはよう!」
言って片手をあげる。
パチン、と軽い音とともに交わされるハイタッチ。
中島くんも友達と一緒に登校していたのだろう、そのまま僕たちの脇を大股で追い抜いていくと、「また部活でな」と手を振って行ってしまった。
僕は邪魔が入ったことに苛立ちつつ、もう一度沙綾に話掛けようとして、
「――あっ」
小さく、声にならない声を漏らした。
沙綾はどこか心ここにあらずといった様子で、先を歩く中島くんの背中を、ぼんやりと見つめていたのである。
頬を僅かに染めながら、どこか寂しそうな眼差しで。
そんな沙綾の表情を目にした途端、急に僕の胸を激しい痛みが襲った。
思わず胸を抑え、立ち止まる。
「と、トモ、どうしたの、大丈夫?」
僕の様子に気づいた沙綾も立ち止まり、心配そうに顔を覗き込んできた。
咄嗟に僕は、胸からお腹に手を移動させて、
「き、急にお腹が、痛くなって――」
「え、大変。どうしよう、そこのコンビニに寄ってトイレ借りる?」
「う、ううん。だ、大丈夫、もうすぐ学校だし……」
「そう? 無理しないでね?」
「う、うん……ありがとう」
そんな会話をしているうちに、いつの間にか胸の痛みは消え去っていた。
僕はけれど、そのままお腹を押さえたまま、沙綾と一緒に学校までの道のりを、ただただ歩き続けた。
結局、キーホルダーを渡せないまま。
翌朝、驚いたことに沙綾が僕を迎えに来た。
高鳴る心臓を必死で抑えながら、「おはよう」と微笑む沙綾に僕は訊ねる。
「あ、朝練は? 大丈夫なの?」
「今日は、まぁね。朝練って言っても、どうせ軽くジョギングするだけだし」
それより早く行こうよ、そう言って急かす沙綾に、僕は急いで通学鞄を手にすると、家族に「いってきます」と一声かけて、足早に家をあとにした。
他愛もない会話を交わしながら、二人並んで歩き慣れた通学路を進む。
僕は沙綾の話に耳を傾けながら、けれど例のキーホルダーを渡すために、どのタイミングで大会の話を振ればいいだろうか、とそのことに悩んでいた。
茜さんはさも簡単そうに言っていたけれど、こうやって沙綾と漫画や動画の話をしている最中に、いったいどうやって話題を変えればいいのかがわからない。
悩みというのは、どうしてこうもあとからあとから湧いてくるんだろう。
沙綾があまりに楽しそうに話をするものだから、僕はその話の腰を折ってしまうのも悪い気がして、いつしか気付くと、通学路の半分以上を過ぎていた。
早く話題を変えてキーホルダーを渡さないと、このままだと学校に着いてしまう。
若干の焦りを覚えながら、それでも何とか沙綾の話が終わった隙を見て、僕は口を開いた。
「あ、あのさ、沙綾。もうすぐ大会が――」
と、その時。
「お! 倉敷! おはよう!」
不意に後ろから声がして、僕は思わず口を噤んだ。
沙綾と一緒に後ろを振り向けば、そこには中島くんの姿があって……
なんで、どうしてこんな時に――!
忌々しく思っている僕とは対照的に、沙綾は満面の笑みで、
「あ、おはよう!」
言って片手をあげる。
パチン、と軽い音とともに交わされるハイタッチ。
中島くんも友達と一緒に登校していたのだろう、そのまま僕たちの脇を大股で追い抜いていくと、「また部活でな」と手を振って行ってしまった。
僕は邪魔が入ったことに苛立ちつつ、もう一度沙綾に話掛けようとして、
「――あっ」
小さく、声にならない声を漏らした。
沙綾はどこか心ここにあらずといった様子で、先を歩く中島くんの背中を、ぼんやりと見つめていたのである。
頬を僅かに染めながら、どこか寂しそうな眼差しで。
そんな沙綾の表情を目にした途端、急に僕の胸を激しい痛みが襲った。
思わず胸を抑え、立ち止まる。
「と、トモ、どうしたの、大丈夫?」
僕の様子に気づいた沙綾も立ち止まり、心配そうに顔を覗き込んできた。
咄嗟に僕は、胸からお腹に手を移動させて、
「き、急にお腹が、痛くなって――」
「え、大変。どうしよう、そこのコンビニに寄ってトイレ借りる?」
「う、ううん。だ、大丈夫、もうすぐ学校だし……」
「そう? 無理しないでね?」
「う、うん……ありがとう」
そんな会話をしているうちに、いつの間にか胸の痛みは消え去っていた。
僕はけれど、そのままお腹を押さえたまま、沙綾と一緒に学校までの道のりを、ただただ歩き続けた。
結局、キーホルダーを渡せないまま。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる