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ふたりめ
第1回
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1(柏木)
俺はその彼女の微笑みに一瞬見惚れてしまい、息をすることさえ忘れていた。
キラキラした大きな瞳に筋の通った小さな鼻。その耳にはハートを模したイヤリングが可愛く揺れ、頬はうっすらと桃色に染まる。ぷっくりとした紅い唇は何とも艶っぽく、白いシャツから覗くふくよかな胸元が官能的で、俺の視線を釘付けにした。
歳は恐らく二十代前半かそこらだろう。張りのある瑞々しい肌は白く輝き、まるで羊脂玉を想わせた。その肌に触れてみたい衝動に駆られたが、俺は自制心を以ってその気持ちを抑え込む。これ程見目麗しい女性など、街を歩いていてもなかなか目に掛けられるものではない。このような隠れた店ではなく、もっと街中の一等地にでも店を構えれば引っ切り無しに客は訪れ、幾度となくテレビや雑誌などでも紹介されていたことだろう。
彼女の美貌からすれば不可能は無く、世の男どもは一瞬にして骨抜きにされてしまうことはまず間違いない。女性らもこぞって彼女の美の秘訣を知ろうと店に詰め掛け、
「ギャアアァァァァァァァ――――!」
「うわああぁぁぁぁぁあぁ――――!」
唐突に耳元で大きな叫び声が聞こえ、俺の思考は遮られた。
見れば、白く輝く羽を持つオウムが止まり木から俺をじっと見つめている。
「だ、大丈夫ですか?」
驚きの余り早鐘を打つ胸を押さえながら、俺は女性の方に顔を戻した。
女性は困ったように眉を寄せ、ちらりとオウムに視線を向ける。
「ダメじゃない、キコ! そんな大声出したらお客さんビックリしちゃうでしょ?」
キコと呼ばれた白いオウム――恐らくキバタン――はしばらく俺の顔をじっと睨みつけていたが、不意に視線を逸らすとそれっきり黙り込んだ。
「大変申し訳ありませんでした」
言って深々と頭を下げる彼女。その後ろで束ねた茶色い髪がはらりと肩にかかる。
俺はカウンターに近づきながら、
「あぁ、ちょっと驚いたけど、大丈夫だ。あのオウム、君のペットなのか?」
「ペットというより、パートナーですね」
ふうん、と俺は唸り、もう一度オウムに顔を向けた。
「……」
そのぎょろりとした黒い瞳が、射貫くように俺を睨みつけている。
まるで監視されているような、嫌な視線だ。
俺は気を取り直し、女性に顔を戻して訊ねた。
「君が店主の楸(ひさぎ)真帆さん?」
見た目の若い女性だとは聞いていたが、まさかこれほどまでに若々しい外見をしているとは思ってもみなかった。聞くところによると、すでに三十を超えているそうなのだが……
すると女性は「あ、いえ」とその可愛らしい唇を開き、
「真帆さんは今、他のお客様のところまでお出かけ中です。私はアルバイトの那由多茜っていいます」
「アルバイト……」
途端に不安が胸をよぎる。
やはり見た目通りの若さということか。恐らく大学生くらいの歳だろう彼女は、どこか頼りなく見えた。
「なら、出直した方が良いかな?」
「あ、いいえ」と茜さんは背を向けようとした私に右手を伸ばしながら、「真帆さんはしばらく帰ってきませんし、戻ってもすぐにまた出て行っちゃうのでお店には立ちません」
という事は、つまり……
「何かお望みでしたら、私にお任せ下さいっ」
太陽の輝きを思わせる眩しい笑顔で、茜さんは胸を張ってそう言った。
俺はその彼女の微笑みに一瞬見惚れてしまい、息をすることさえ忘れていた。
キラキラした大きな瞳に筋の通った小さな鼻。その耳にはハートを模したイヤリングが可愛く揺れ、頬はうっすらと桃色に染まる。ぷっくりとした紅い唇は何とも艶っぽく、白いシャツから覗くふくよかな胸元が官能的で、俺の視線を釘付けにした。
歳は恐らく二十代前半かそこらだろう。張りのある瑞々しい肌は白く輝き、まるで羊脂玉を想わせた。その肌に触れてみたい衝動に駆られたが、俺は自制心を以ってその気持ちを抑え込む。これ程見目麗しい女性など、街を歩いていてもなかなか目に掛けられるものではない。このような隠れた店ではなく、もっと街中の一等地にでも店を構えれば引っ切り無しに客は訪れ、幾度となくテレビや雑誌などでも紹介されていたことだろう。
彼女の美貌からすれば不可能は無く、世の男どもは一瞬にして骨抜きにされてしまうことはまず間違いない。女性らもこぞって彼女の美の秘訣を知ろうと店に詰め掛け、
「ギャアアァァァァァァァ――――!」
「うわああぁぁぁぁぁあぁ――――!」
唐突に耳元で大きな叫び声が聞こえ、俺の思考は遮られた。
見れば、白く輝く羽を持つオウムが止まり木から俺をじっと見つめている。
「だ、大丈夫ですか?」
驚きの余り早鐘を打つ胸を押さえながら、俺は女性の方に顔を戻した。
女性は困ったように眉を寄せ、ちらりとオウムに視線を向ける。
「ダメじゃない、キコ! そんな大声出したらお客さんビックリしちゃうでしょ?」
キコと呼ばれた白いオウム――恐らくキバタン――はしばらく俺の顔をじっと睨みつけていたが、不意に視線を逸らすとそれっきり黙り込んだ。
「大変申し訳ありませんでした」
言って深々と頭を下げる彼女。その後ろで束ねた茶色い髪がはらりと肩にかかる。
俺はカウンターに近づきながら、
「あぁ、ちょっと驚いたけど、大丈夫だ。あのオウム、君のペットなのか?」
「ペットというより、パートナーですね」
ふうん、と俺は唸り、もう一度オウムに顔を向けた。
「……」
そのぎょろりとした黒い瞳が、射貫くように俺を睨みつけている。
まるで監視されているような、嫌な視線だ。
俺は気を取り直し、女性に顔を戻して訊ねた。
「君が店主の楸(ひさぎ)真帆さん?」
見た目の若い女性だとは聞いていたが、まさかこれほどまでに若々しい外見をしているとは思ってもみなかった。聞くところによると、すでに三十を超えているそうなのだが……
すると女性は「あ、いえ」とその可愛らしい唇を開き、
「真帆さんは今、他のお客様のところまでお出かけ中です。私はアルバイトの那由多茜っていいます」
「アルバイト……」
途端に不安が胸をよぎる。
やはり見た目通りの若さということか。恐らく大学生くらいの歳だろう彼女は、どこか頼りなく見えた。
「なら、出直した方が良いかな?」
「あ、いいえ」と茜さんは背を向けようとした私に右手を伸ばしながら、「真帆さんはしばらく帰ってきませんし、戻ってもすぐにまた出て行っちゃうのでお店には立ちません」
という事は、つまり……
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