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よにんめ
第6回
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6
駅まではバスで移動して(バス代は茜さんが出してくれた)、僕たちは指定された駅前のカフェに向かった。
カフェには焼き立てのパンが並べられており、僕は美味しそうなそれらを眼にして、思わずふらふらと吸い寄せられるように、
「――おいしそう」
口にすると、茜さんはため息交じりに微笑みつつ、
「食べる?」
そう言って、クロワッサンをおごってくれた。
ふたりで椅子に座ってパンを食べていると、
「ん? 君、狸?」
後ろから声がしておっかなびっくり振り向くと、そこには浅黒い肌の、短髪の女性が大きなリュックサックを背負って立っていた。
まるで今まで登山にでも出かけていたかのような服装をしている。
「あ、あなたが榎夏希さんですか?」
茜さんが立ち上がりながら訊ねた。
「うん、そう」
と榎さんはこくりと頷く。
「私、魔法百貨堂の那由多茜っていいます」
「茜ちゃんね。で、そっちの君、狸くんは?」
「ぼ、僕は、コタローです」
ぺこりと頭を下げる。
それを見て、茜さんは小さく肩をすくめながら、
「……やっぱり判るんですね。この子が狸って」
と、どことなくショックを受けたように口にした。
「それはまぁ、身にまとってる雰囲気――魔力が違うし」
「私には、全然わかりませんでした」
「仕方ないんじゃない? わたしだって、最初は解らなかったもん」
そのうち解るようになるよ、と言いながら、榎さんも隣の席に座りながら、
「で、私に何の用事?」
と首を傾げた。
「――人になる魔法かぁ」
そう呟くように口にして、榎さんもやっぱり腕を組んだ。
そんな榎さんに、茜さんは、
「何か、ひいお爺さんの残したものにそれっぽいもの、ありませんでしたか?」
と訊ねる。
う~んと榎さんはひとつ唸ってから、
「……さぁ、どうだろう。わたしにはわからないなぁ。って言うか、ひい爺さんが残した魔法や魔術の研究書、今は全部真帆が持ってるからさぁ」
えぇっ、と茜さんは目を見張り、
「真帆さんが? どうして?」
「あぁ、そうか」
とそれに対して榎さんはポンッと手を打ち、
「私ね、真帆とはさ、高校の頃からの付き合いなんだよ」
「えっ? そうだったんですか?」
榎さんは頷き、
「うん。高校の時に色々あってさ。ひい爺さんの魔術書は、その頃に全部真帆にあげちゃったんだ。だから、うちには他に、ひい爺さんの残した魔法道具くらいしか残ってないんだよね」
「そうですか……」
「真帆は? 真帆にはもう相談したんでしょ? なんて言ってた?」
「そんな魔法、私は知らないって……」
茜さんのその返事に、榎さんはもう一度頷いて、
「じゃぁ、たぶん、そんな魔法は載ってなかったんだと思うよ。あの子、高校の頃は暇さえあれば、あの魔術書ばっかり読みふけってたから」
僕はそんなふたりの会話から視線を逸らし、大きくため息を吐いた。
……やっぱり、そんな魔法なんてどこにもないんだ。
狸は狸、人は人。
狸は人にはなれないし、人だって狸にはなれない。
結局、そういうことなんだ。
僕はどうしたって、お姉さんと一緒にはいられないんだ……
そう思うと、何だかやっぱり、涙が浮かんできた。
それを悟られないように、僕は残っていたクロワッサンを一気に口に放り込む。
僕が口をむぐむぐさせていると、
「――あぁ、でも、あの人なら何か知らないかな」
と榎さんがぼそりと口にした。
「あの人?」
茜さんが訊ねると、榎さんは、
「楾アリスさん、知ってる?」
「アリスさんですか? 知ってますよ。今は真帆さんのお姉さんと一緒に暮らしてる方ですよね?」
そうそうそう、と榎さんは何度も頷いて、
「アリスさん、あの優しい性格からか、交友関係も他の魔法使いなんかよりよっぽど広いんだよね。全魔協に登録してない魔法使いとの交流もあるみたいだから、一度訪ねてみたら良いんじゃないかな」
「そうなんですか?」
知りませんでした、と茜さんは口にする。
「今ではそういった未登録の魔法使いと全魔協との橋渡しみたいな役目をしているみたいだよ」
「へぇ……そうだったんだ……」
茜さんは口元に手をやりながら呟き、
「わかりました。ありがとうございます、榎さん。早速アリスさんに会いに行ってみます」
「ううん、力になれなくて悪かったね」
何かわかったら、私にも教えてね。そう言って、榎さんは輝くように、にっと笑った。
駅まではバスで移動して(バス代は茜さんが出してくれた)、僕たちは指定された駅前のカフェに向かった。
カフェには焼き立てのパンが並べられており、僕は美味しそうなそれらを眼にして、思わずふらふらと吸い寄せられるように、
「――おいしそう」
口にすると、茜さんはため息交じりに微笑みつつ、
「食べる?」
そう言って、クロワッサンをおごってくれた。
ふたりで椅子に座ってパンを食べていると、
「ん? 君、狸?」
後ろから声がしておっかなびっくり振り向くと、そこには浅黒い肌の、短髪の女性が大きなリュックサックを背負って立っていた。
まるで今まで登山にでも出かけていたかのような服装をしている。
「あ、あなたが榎夏希さんですか?」
茜さんが立ち上がりながら訊ねた。
「うん、そう」
と榎さんはこくりと頷く。
「私、魔法百貨堂の那由多茜っていいます」
「茜ちゃんね。で、そっちの君、狸くんは?」
「ぼ、僕は、コタローです」
ぺこりと頭を下げる。
それを見て、茜さんは小さく肩をすくめながら、
「……やっぱり判るんですね。この子が狸って」
と、どことなくショックを受けたように口にした。
「それはまぁ、身にまとってる雰囲気――魔力が違うし」
「私には、全然わかりませんでした」
「仕方ないんじゃない? わたしだって、最初は解らなかったもん」
そのうち解るようになるよ、と言いながら、榎さんも隣の席に座りながら、
「で、私に何の用事?」
と首を傾げた。
「――人になる魔法かぁ」
そう呟くように口にして、榎さんもやっぱり腕を組んだ。
そんな榎さんに、茜さんは、
「何か、ひいお爺さんの残したものにそれっぽいもの、ありませんでしたか?」
と訊ねる。
う~んと榎さんはひとつ唸ってから、
「……さぁ、どうだろう。わたしにはわからないなぁ。って言うか、ひい爺さんが残した魔法や魔術の研究書、今は全部真帆が持ってるからさぁ」
えぇっ、と茜さんは目を見張り、
「真帆さんが? どうして?」
「あぁ、そうか」
とそれに対して榎さんはポンッと手を打ち、
「私ね、真帆とはさ、高校の頃からの付き合いなんだよ」
「えっ? そうだったんですか?」
榎さんは頷き、
「うん。高校の時に色々あってさ。ひい爺さんの魔術書は、その頃に全部真帆にあげちゃったんだ。だから、うちには他に、ひい爺さんの残した魔法道具くらいしか残ってないんだよね」
「そうですか……」
「真帆は? 真帆にはもう相談したんでしょ? なんて言ってた?」
「そんな魔法、私は知らないって……」
茜さんのその返事に、榎さんはもう一度頷いて、
「じゃぁ、たぶん、そんな魔法は載ってなかったんだと思うよ。あの子、高校の頃は暇さえあれば、あの魔術書ばっかり読みふけってたから」
僕はそんなふたりの会話から視線を逸らし、大きくため息を吐いた。
……やっぱり、そんな魔法なんてどこにもないんだ。
狸は狸、人は人。
狸は人にはなれないし、人だって狸にはなれない。
結局、そういうことなんだ。
僕はどうしたって、お姉さんと一緒にはいられないんだ……
そう思うと、何だかやっぱり、涙が浮かんできた。
それを悟られないように、僕は残っていたクロワッサンを一気に口に放り込む。
僕が口をむぐむぐさせていると、
「――あぁ、でも、あの人なら何か知らないかな」
と榎さんがぼそりと口にした。
「あの人?」
茜さんが訊ねると、榎さんは、
「楾アリスさん、知ってる?」
「アリスさんですか? 知ってますよ。今は真帆さんのお姉さんと一緒に暮らしてる方ですよね?」
そうそうそう、と榎さんは何度も頷いて、
「アリスさん、あの優しい性格からか、交友関係も他の魔法使いなんかよりよっぽど広いんだよね。全魔協に登録してない魔法使いとの交流もあるみたいだから、一度訪ねてみたら良いんじゃないかな」
「そうなんですか?」
知りませんでした、と茜さんは口にする。
「今ではそういった未登録の魔法使いと全魔協との橋渡しみたいな役目をしているみたいだよ」
「へぇ……そうだったんだ……」
茜さんは口元に手をやりながら呟き、
「わかりました。ありがとうございます、榎さん。早速アリスさんに会いに行ってみます」
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