1 / 1
プロローグ・吸血鬼はペット探偵
しおりを挟む
深夜0時が迫る真夜中。
繁華街は未だに人で賑わっている。
明日が土曜日だからか飲みに行くだろう会社員や、路上で屯する若者達、客引きをするホストらしき男、駅に向かう人々など、多くの人間が行き交っている。
街は眠る気配などさらさら無く、明かりが消える店も全くない。
とある雑居ビルの屋上の縁に立ち、紅井大和はふっとひとつ息を吐いた。
時折吹く風は晩秋らしさを含み、やや冷たい。
空を見上げれば都会のネオンの所為で星はあまり見えない。
・・・が、大和には一等星より暗い三等星まではっきりと見えている。
嗅覚は遥か先の呑み屋の料理の香りを感じ、聴覚は数ブロック先の人間の話し声を拾う。
ただし本当に探している音は人が多すぎて感じ取れない。
大和は目を閉じ、耳を澄まして集中した。
すると感覚はより研ぎ澄まされ、数分後探していた音を捉える。
微かな心音が聴こえる。
大通りを出て三ブロック先の辺りだな。
大和は目を開けると、助走も無しにふわりと飛び上がり、隣のビルの屋上に着地し、また隣のビルに着地し、それを何度か繰り返し、目的地に音もなく降り立った。
ここで音を立てたらまた逃げられてしまうかもしれない。
繁華街から離れた通りに面した駐車場には車が数台停まっているが、人の姿はない。
大和は胸ポケットからスティック型猫のおやつを取り出して、目的の赤い車の下を覗き込んだ。
いた。
キジトラ柄の短毛、ややぽっちゃり体型の猫がこちらをじっと凝視している。
大和はおやつを差し出し、ゆっくり猫の鼻先に近付けた。
「もう大丈夫、飼い主が探してるよ。帰ろうか」
優しく話し掛け、目を合わせていると最初警戒していた猫は落ち着きを取り戻し、おやつを食べ始めた。
食べ終わると口回りを綺麗に毛繕いして、車の下から出てきた。
大和は猫を宝物のようにそっと抱き上げて、ゆっくり歩き出す。
さっきみたいに飛んだ方が早いのだが、猫が怯えてしまうので帰りは歩きでと決めている。
行きの倍近い時間をかけて事務所に着くと、猫が見つかったと飼い主に連絡を取り、猫の手足の汚れを拭き、ブラッシングをしてやる。
三十分後、事務所にやって来た飼い主に猫を引き渡し、五千円を受け取り、飼い主と猫を見送った。
大和はお金を金庫に入れ、冷蔵庫からコンビニで買っておいた唐揚げ弁当を電子レンジで温め、革張りのソファーに座って食べ始めた。
仕事終わりには大体肉系おかずの食事を摂ることにしている。
ここは繁華街の大通りの端に建つ猫専門のペット探偵事務所である。
事務所名は『ラブ・キャット』
依頼料は一律五千円、見つからなければお金は貰わないが、発見率は百パーセントなのでそんな事は一切ない。
大和は所長であるが、今日のように自ら猫を探しに行く。
一応仲間はいるが副業を任せているので仕方ない。
何より大和は普通の人間ではなく、優れた五感、身体能力を持っているので探し物を見つけるのが得意であった。
大和はフィクションでよく取り上げられる架空とされる人ならざる者、吸血鬼なのである。
大昔には確かに人間を襲っていたが、現在は人間を襲ったりはせず、ほぼ人間と同じように生活をしている。
長年に渡るあらゆる努力により、血を飲まなくても平気になり、代わりに肉を摂る事で飢えを満たすのが可能になった。
とはいえ、日の光は克服出来ず、人間と関わり過ぎるとまた血を欲しくなる可能性は皆無ではないので夜型の生活は変えられず。
大和はそう言ったことと、とある理由からいつしか人間が苦手になり、動物が好きだった為、ペット探偵という仕事に就いたのだった。
また、大和は動物と意志疎通が出来る能力もあるため、まさに天職である。
先ほど、警戒心が強い猫が大和に大人しく抱っこされたのはそういう訳があった。
依頼を受けるのはメールで済むし、人間と接するのは猫を返す時だけなので危険は少ない。
猫限定にしているのもあらゆる動物を対象にしてしまうとそれだけ人間と接触が増えてしまうからだ。
(もうあんな生活は御免だ)
大和は暗く沈みかけた思考を振り払うように頭を振り、唐揚げ弁当の容器をゴミ箱に捨て、業務を終えようと立ち上がる。
時刻は日も変わり、深夜1時になろうとしている。
もう依頼は来ないだろう。
と思って明かりを消そうとしたちょうどその時、事務所のドアが叩かれた。
(誰だ、こんな時間に。依頼者、か?看板は出していないし、直接依頼者が来た事はないんだが)
首を捻りつつも、大和は事務所のドアを開けた。
この出会いが大和に大きな変化をもたらすことになることを、彼にはまだ知る由もなかった。
繁華街は未だに人で賑わっている。
明日が土曜日だからか飲みに行くだろう会社員や、路上で屯する若者達、客引きをするホストらしき男、駅に向かう人々など、多くの人間が行き交っている。
街は眠る気配などさらさら無く、明かりが消える店も全くない。
とある雑居ビルの屋上の縁に立ち、紅井大和はふっとひとつ息を吐いた。
時折吹く風は晩秋らしさを含み、やや冷たい。
空を見上げれば都会のネオンの所為で星はあまり見えない。
・・・が、大和には一等星より暗い三等星まではっきりと見えている。
嗅覚は遥か先の呑み屋の料理の香りを感じ、聴覚は数ブロック先の人間の話し声を拾う。
ただし本当に探している音は人が多すぎて感じ取れない。
大和は目を閉じ、耳を澄まして集中した。
すると感覚はより研ぎ澄まされ、数分後探していた音を捉える。
微かな心音が聴こえる。
大通りを出て三ブロック先の辺りだな。
大和は目を開けると、助走も無しにふわりと飛び上がり、隣のビルの屋上に着地し、また隣のビルに着地し、それを何度か繰り返し、目的地に音もなく降り立った。
ここで音を立てたらまた逃げられてしまうかもしれない。
繁華街から離れた通りに面した駐車場には車が数台停まっているが、人の姿はない。
大和は胸ポケットからスティック型猫のおやつを取り出して、目的の赤い車の下を覗き込んだ。
いた。
キジトラ柄の短毛、ややぽっちゃり体型の猫がこちらをじっと凝視している。
大和はおやつを差し出し、ゆっくり猫の鼻先に近付けた。
「もう大丈夫、飼い主が探してるよ。帰ろうか」
優しく話し掛け、目を合わせていると最初警戒していた猫は落ち着きを取り戻し、おやつを食べ始めた。
食べ終わると口回りを綺麗に毛繕いして、車の下から出てきた。
大和は猫を宝物のようにそっと抱き上げて、ゆっくり歩き出す。
さっきみたいに飛んだ方が早いのだが、猫が怯えてしまうので帰りは歩きでと決めている。
行きの倍近い時間をかけて事務所に着くと、猫が見つかったと飼い主に連絡を取り、猫の手足の汚れを拭き、ブラッシングをしてやる。
三十分後、事務所にやって来た飼い主に猫を引き渡し、五千円を受け取り、飼い主と猫を見送った。
大和はお金を金庫に入れ、冷蔵庫からコンビニで買っておいた唐揚げ弁当を電子レンジで温め、革張りのソファーに座って食べ始めた。
仕事終わりには大体肉系おかずの食事を摂ることにしている。
ここは繁華街の大通りの端に建つ猫専門のペット探偵事務所である。
事務所名は『ラブ・キャット』
依頼料は一律五千円、見つからなければお金は貰わないが、発見率は百パーセントなのでそんな事は一切ない。
大和は所長であるが、今日のように自ら猫を探しに行く。
一応仲間はいるが副業を任せているので仕方ない。
何より大和は普通の人間ではなく、優れた五感、身体能力を持っているので探し物を見つけるのが得意であった。
大和はフィクションでよく取り上げられる架空とされる人ならざる者、吸血鬼なのである。
大昔には確かに人間を襲っていたが、現在は人間を襲ったりはせず、ほぼ人間と同じように生活をしている。
長年に渡るあらゆる努力により、血を飲まなくても平気になり、代わりに肉を摂る事で飢えを満たすのが可能になった。
とはいえ、日の光は克服出来ず、人間と関わり過ぎるとまた血を欲しくなる可能性は皆無ではないので夜型の生活は変えられず。
大和はそう言ったことと、とある理由からいつしか人間が苦手になり、動物が好きだった為、ペット探偵という仕事に就いたのだった。
また、大和は動物と意志疎通が出来る能力もあるため、まさに天職である。
先ほど、警戒心が強い猫が大和に大人しく抱っこされたのはそういう訳があった。
依頼を受けるのはメールで済むし、人間と接するのは猫を返す時だけなので危険は少ない。
猫限定にしているのもあらゆる動物を対象にしてしまうとそれだけ人間と接触が増えてしまうからだ。
(もうあんな生活は御免だ)
大和は暗く沈みかけた思考を振り払うように頭を振り、唐揚げ弁当の容器をゴミ箱に捨て、業務を終えようと立ち上がる。
時刻は日も変わり、深夜1時になろうとしている。
もう依頼は来ないだろう。
と思って明かりを消そうとしたちょうどその時、事務所のドアが叩かれた。
(誰だ、こんな時間に。依頼者、か?看板は出していないし、直接依頼者が来た事はないんだが)
首を捻りつつも、大和は事務所のドアを開けた。
この出会いが大和に大きな変化をもたらすことになることを、彼にはまだ知る由もなかった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる