おこもり魔王の子守り人

曇天

文字の大きさ
上 下
19 / 75

第十九話

しおりを挟む
「なんとか エンプレスをやれたな」

 俺は歩きながらみんなに話す。

「すごいよ! マモル二つの魔法同時発動なんて!」

「ああ! あれは始めてみた。 エンプレスアントをほぼ一撃だったな」

 ラクレイとガルムがそういって驚いている。
 
(セレンティナさんに教わった魔法だ。 何回も死にかけたがな...... 習得はすごいとセレンティナさん誉めてくれた)

「まあ、お前たちが他のアントを排除してくれたからな。 魔力ほとんど使ってぶっぱなせたよ」 

 俺たちは洞窟よりでた。

「みんな一体何者...... Cクラスのモンスターのエンプレスをあんなに簡単に倒すなんて...... まさかBクラス冒険者?」

 橘さんが驚いている。

「いや、俺たちはEクラスだよ」

「Eクラス!? それでその強さ! 私はDなのに......」

 橘さんがそういって目を大きく見開いた。


 報酬をもらうため町へとむかうと、俺たちはギルドで報酬の袋を受け取った。

「おお! エンプレスアントは金貨四十枚か! じゃあ依頼料とラージアントとあわせて五十二枚だな! じゃあ一人、十三枚だ」

 俺は三人に金貨を配った。

「やったぜ! これなら当分なにもせず暮らせるな!」

「うん! これで少し余裕ができた!」

「お前ら、もうソシャゲや推し活は控えろよ!」

「あ、あの、本当にもらってもいいの?」

 おずおずと橘さんがいった。

「ああ、俺たちじゃ、あの毒液を防げないし、回復魔法はかなり助かったよ」

「そうだぞ! 気にせず受け取れ」

「うんうん、できれば、また僕たちと仕事をしてほしいな」

 ガルムとラクレイも笑顔でいった。

「う、うん、 ありがとう! それで家がこの近くなんだ。 みんなによっていってほしいんだけど」

「橘さんの家?」

「うん頂き物だけど、果物がたくさんあって」

「ならもらうとするか」

「だね」

 ガルムとラクレイがそういうので、招かれることにした。


 橘さんは途中こっちと向こうの間にあるコンビニで買い物をする。

「ここです。 ここ」

「ここ?」

 そこから、しばらくついて歩いてくと、木々がしげる場所が見えてきた。 その石段を登るとそこは神社があった。

「橘さんの家って神社なのか?」

「そう、かなり壊れてるけどね.....」

 その神社はあちこち壊れていて木の板で補修していた。

「神社...... お前たちの世界の神をまつる教会か......」

「ほえー、すごい奇妙で神秘的だね」

 ガルムとラクレイが珍しそうに鳥居を見上げている。

「そうだ...... ということは橘さんは巫女なのか?」

「そう...... 母が神主なんだけど、世界がひとつになったとき、たまたま海外にでてたので、今は帰れなくて......」

「そうなんだ」 

(確かに船や飛行機は強い冒険者たちがいないと、モンスターに襲われるしな)

 そんな話をしていると、向こうから小学生ぐらいの子供が走ってくる。

「なにをしておったのじゃ! ユウナ! 我は退屈しておったのじゃぞ!」

 そう老人のような言葉をつかい、ピンクの髪の毛の巫女の装束をまとった少女は俺たちの前でとまった。
 
「なんじゃこいつらは?」 

 怪訝そうな顔てこちらをみている。

「うん、びんちゃん、みなさんは私と同じ冒険者で、今日助けてくれたの」

「冒険者?」

 俺たちをじろっとみている。

(この子供かなりの魔力を持つな...... 普通の人間じゃない......)

「ふん、ザコではないか!!」

「誰がザコだ!」

 ガルムが吠える。

「やめなよガルム、まだ小さな女の子じゃない」

 ラクレイはなだめている。

「なにいっておる! お前のがチビすけではないか!」

「なにいってるの! 君のほうがちいさいでしょ!」

 女の子にいわれてラクレイまでおこりだした。

「ごめんなさい! だめだよ! びんちゃん!」

「ふん、しらぬ。 それとも我と戦ってみるか雑魚ども」

「なにいってやがる。 子供相手に戦えるか」

「そうだよ。 お子ちゃまはままごとでもしてなよ」

 二人はそう言って笑っている。   

「よかろう......」

 そう静かにいうと、その女の子から強大な魔力がほとばしる。 空気が震え、境内の木が揺れ鳥が飛び立つ。

「だめ! びんちゃん!」

「こ、これは!」

「や、や、やばい! この魔力! バルディオ師匠と同じぐらいだ!」

「ひ、ひ、ひいい!」

 ガルムとラクレイはだきあって震ええている。

「ふきとべ!」

「び、びんちゃん! 肉マンだよ!」

「えっ? 肉マン!」

 橘さんの声でその少女はほとばしる魔力を抑え、渡された肉マンを両手で受け取りほおばった。

「はむ、はむ、ふまい、ふまい......」

 ガルムとラクレイは脱力しへたりこんでる。

「ふああああああ......」

(あの力...... まさか)

 
「ごめんなさい...... びんちゃんが」

 橘さんがお茶をいれてあやまった。 俺たちは神社の本殿に招かれていた。

「い、いえめっそうもない!」

「そ、そうですよ! えへへへ」

 ガルムとラクレイは緊張した面持ちで慣れない正座をしている。

「ふん!!」

 そう少女は両手に肉マンを持ちもぐもぐと食べている。

「びんちゃんだっけ、あんたもしかしてアディエルエの知り合いか」

「ほう? しっておるのか魔王を」

 食べるのをやめこちらをみる。

「ああ、まあ友達だ」 

「ん? あのぼっちに友達とな......」

 不思議そうに首をかしげている。

 俺はアディエルエとの話をした。

「ほう、あの人嫌いがお主をのう...... まあよいことではあるな」

「それで何者だ。 八魔将か」 

「さよう。 我は八魔将、【地将】ビーンボカミンじゃ」

「ひぃ、師匠と同じ!」

 ガルムが怯えた声を出した。

「ん? 師匠と同じ?」

 ビーンボカミンはガルムとラクレイをみてそういう。

「ああ、その二人はバルディオの弟子なんだ」

「バカオーガのあやつの弟子か、なるほど礼儀がなっておらん訳じゃな」
 
「へええええ、もうしわけございませえええん」  

 二人がひれ伏す。

「くびり殺してやろうと思ったがまあよいわ。 やつはめんどーじゃからな」

「ありがたきしあわせぇぇぇぇ」

 二人がハモりながら顔を伏せる。

「でビーンボカミンあんたはなんなんだ? 普通の亜人とも違う感じだけど......」

「ほう...... わかるか、多少みどころがありそうだな。 お前もアディエルエ...... いや、あやつは教えぬから...... そうかヴァライアの小娘の弟子か?」

「まあ剣はそうだけど、あえていうならセレンティナさんかな」

「セ、セレンティナ、あ、あやつか......」

 少し動揺している。

(やはりセレンティナさんは別格なのか......)

「ビーンボカミンはなんなんだ?」

「貴様にはびんちゃんと呼ぶことを許してやろう。 我はエレメンタルだ」

「え、エレメンタル!?」

 ガルムとラクレイが顔をあげた。

「エレメンタルってなんだ?」

「エレメンタルっていうのは精霊さ、自然に宿った魔力が擬人化した存在で、とても珍しいんだ」

 ラクレイは小声で話してくれた。

(自然に宿る魔力が人になった......)

「それでなんでここに」

「世界がひとつになったとき、我の住んでた森の隣に町ができて、騒がしくなった。 そこで安住の地を求めさまよううち、モンスターに襲われるユウナを見つけたのじゃ、それを救ってな」

 そうびんちゃんは胸を張ってそういった。

「......そのまま、ここに住んでるの」

 困った顔しながら、橘さんは答えた。

「ユウナのつくる飯は上手い! ゆえに我がここの祭神となったのだ!」

 そうびんちゃんは笑っている。

(うん、まあ、ただの居候だな)

「それでアディエルエはやはりだらけておるのか」

「ああ、絶賛引きこもり生活中だ。 でもまれに外にでるようにはなった」

「ふむ、少しは成長したか......」

 そういってびんちゃんはうなづいた。

「まあ、特別に貴様らにはユウナと接することを許ほう。 モグモグ」

 そういってびんちゃんは残りの肉マンをほおばった。

しおりを挟む

処理中です...