おこもり魔王の子守り人

曇天

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第五十七話

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「ま、魔将だと」

「間違いないよ...... この魔力......」

 ガルムとラクレイはその魔力に圧倒され怯えている。

「それでガルム、なんでリュディエルデのところに行けっていわれたんだ」

「わからんが、何とかして手に入れてこいとだけいわれた......」

「うん、戦いになるかもしれないって......」

 そうガルムたちは答えた。

「戦うって......」

 一心不乱にビスケットをほうばるリュディエルデをみる。

(魔力は高いが...... とても戦いを好むタイプには見えない)

「なあ、リュディエルデ、バルディオのこと知ってるよな」

「......知ってる......」

 お菓子をモグモグしながら言葉少なに答える。

(やっぱりこいつはアディエルエと同じ陰キャ系か)

「俺たちバルディオの知り合いなんだ。 持ってこいといわれてきたんだけど、なにか知ってるか?」

「これ......」

 そういうと何か青い宝石のようなものを見せてきた。

「これは...... 確か アターチさんが持っていた魔力を消すマジックフィルムジェム!?」

「......そう。 バルディオから奪った......」

「なっ!! バルディオ師匠から奪った!?」

「ど、どうやってですか!?」

 ガルムたちは驚いて聞いた。

「戦って...... きれいだったから」

「勝ったってことか......」 

 リュディエルデはコクリとうなづくと、お菓子を食べている。

(あのバルディオに勝つのか...... 筋力はなかったが、まあ、この魔力ならあり得るのかもな)

「それで、そのマジックフィルムジェムが欲しいんだけど」

「そっちが...... 私に勝てたら...... でも代わりに、負けたら...... その子ちょうだい」

 そういって橘さんを指差す。

「なっ!? そんなこと無理だ!」 

「その子か欲しい......」 

「ダメだ!」

「もらう......」


 そうやってニヤリと笑うと、リュディエルデが立ち上がる。 背中からコウモリのような黒い羽を広げた。

「これは!?」

「ま、まさかヴァンパイア!?」

 ガルムが驚いている。

「ヴァンパイアって吸血鬼かよ!」

「う、うん、最強の種族、不死身で高い魔力をもつよ......」

 ラクレイは震えながらいう。

「くる!!」

 リュディエルデは空中に飛び上がると、体の回りに赤い玉が浮かびそれをうち出してきた。

「マジックシールド!」

 橘さんがはった光の膜に赤い玉があたり、すごい音が響いた。

「きゃ、すごい威力!! このままだと魔法障壁もすぐ壊されるよ!」

「仕方ない! みんないくぞ!」

 そして俺は橘さんに小声で伝えると、シールドをでて俺たちは魔法を放った。 だがリュディエルデが腕をふると書き消される。

「嘘だろ!」

「一瞬でかき消された!」

 俺たちが驚いていると、リュディエルデは口元に笑みをうかべる。

「そんなの...... 効かない......」

 またリュディエルデの体の回りに赤い玉を無数にうかぶ。

「あれはまずい! くらったら一発でも致命傷になりかねん!」 

 ガルムが叫んだ。

「くそ! 散開して回避しながら攻撃するぞ!」

 俺たちが三方にわかれ、魔法で攻撃を加える。

「効かないって言った......」

 手ではらいながら、赤い玉をうち出してくる。 地面にあたると玉は爆発し、地面に大穴を開けた。

「ひぃぃ!! このままだともたないよ!!」

 ラクレイが逃げながらいうと、俺は周囲をみて橘さんに確認する。  

(やはり、なら...... 時間を)

 俺はかわしながら魔法を唱える。

 ーー風鳴よりも、雷鳴より速く、瞬け、その閃光ーー

「フラッシュラッシュ!」

 その瞬間昼のように明るくなった。

「きゃぁ......」

 リュディエルデは目をおおう。 その時橘さんが叫んだ。

 ーー万物の根源たる力を、理に抗い留めさせよーー

「フォースアウトサイクル!」

 すると、リュディエルデは光輝いて空から落ちてくる。

「きゃぁぁ!」

 俺はその下に向かい落ちてくるリュディエルデを受け止めた。

「なっ!?」

 俺は驚いた。 リュディエルデの姿が大人ではなく、幼い少女の姿へと変わっていたからだ。

「なんだ!? 子供」

「うあ...... ま、負けた...... う、う......うぁぁああん」

 リュディエルデはわんわんと泣き出す。
 
「これは...... ちっさくなってるな」

「あの姿も魔法で作ってたんだ」

 ガルムとラクレイも困惑している。

「あのすこしいい?」

 橘さんはそういい、リュディエルデを両手で膝の上に抱き上げた。

「リュディエルデちゃん、どうして私が欲しかったの?」

「う、う、おかし...... おかし、おいしかった......」

 泣きじゃくりながらそういった。

「お菓子ならいつでも作ってあげるよ」

 そういって橘さんは優しく微笑む。

「ほ、ほんと......」

 リュディエルデは泣き止む。

「うん」

「......じゃあ、これ」

 握っていた青い宝石を橘さんに差しだした。

「ありがとう」

 満足したのかリュディエルデは、橘さんの膝の上でご機嫌にお菓子を食べ始めた。

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