冒険者ギルド始めました!

曇天

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第十三話

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 それなら一ヶ月、冒険者の店は依頼で大忙しだった。 

「ふぃ、カッパークラブ討伐完了!」

「こちらはアイススネイルを倒しました」

「お二人ともご苦労様でした」

 ムーサちゃんがお茶を出してくれる。
 
「それにしてもいきなり依頼が増えたね!」

「ええ、バレン湖のコアモンスターを倒したことが知られましたから、そのお陰で往来も増え農家や木材業、畜産の人たちも仕事に戻り
潤い始めたのも依頼が増えた要因でしょうね」

「そういえば、ワーガンの村も再建しつつあるってクローグさんが、お魚を持ってきてくれました」

 ムーサちゃんが大きな魚が入った桶をかかえて持ってきた。

「すごい! クローグさん、漁師に戻ったんだね。 仕事が増えたのはありがたいけど、さすがにこれ以上の依頼を受けられない」

「ですね。 私たちが分担したら危険が増しますから、小さな依頼しか受けられません」

「なら利益もかなり出てるし、人を雇おうか」

「でも、かなり危険ではありますよ」

「カンヴァルの装備をつければ、普通の人でもそこそこ戦えるし、大勢雇えばよくない?」
  
「確かに大勢雇えば、安全に依頼をこなせるかも」

「よし! じゃあさっそく募集をかけちゃおう!」

 その時、ドアを乱暴に叩く音がする。

「そんな強く叩かないで壊れるよ!」

 ドアを開ける体格ののよい中年の男と、その後ろに縮こまったアーノルドさんがいる。
 
「ここが、冒険者の店か......」

 そういってその男はずかずかはいってきた。

「あの何のようですか!」

 私がいうと、いちべつしあごでしゃくる。

「あ、ああ、この方は商業ギルドの幹部、アバレス商会のグランバルさんです」

 そう困った顔で、アーノルドさんが答えた。

(ギルドの幹部...... いったいなに?)

「とりあえず用件だけ伝える。 冒険者の店、依頼受諾を禁止するよう申し渡す」

「えっ!?」

「そんな......」

 ペイス、ムーサちゃんと顔をみあわせる。

「グランバルさん! いくらなんでもそんな!」

 アーノルドさんがそういうと、その顔を睨み付ける。

「これはギルドの幹部会で決まったことだ」

「どうして? いったい何で禁止されるんですか!」

「君たちが不当な商売をしているということだ」

「不当!? ギルドの規約にはのっとってますけど! 新しい素材も出してませんし!」

「新たに作られた規約に、依頼を受けてのモンスターハントは個人が行うには危険すぎるとの判断から店での営業は禁止となったのだ」

「そんな! あんまりです! 突然の規約変更なんて」

 ペイスがそういうと、グランバルはニヤリと笑い。

「そう幹部会て決まったのだ。 オーナーでもある貴族の承認も受けている。 ゆえに依頼を受けての狩りは禁止だ。 もし破れば脱会してもらう!」

 そういって承認した書類を押し付けてきた。 アーノルドさんは下を向いて拳をにぎっている。 その前をにやつきながらグランバルは通り店から出ていった。 

「ねえりペイス、魔法ぶっぱなしてもいい......」

 小さな声で聞いてみた。

「だめです! 我慢してください!」

 アーノルドさんは申し訳なさそうに頭を下げ店から出ていった。

「やってくれたわね......」

「完全に嫌がらせですね」

「あ、ああ、どうしましょう」

 ムーサちゃんはおろおろしている。

「一、吹き飛ばす 二、抗議して吹き飛ばす 三、ギルドごとあいつらを吹きとばす。 ペイス、ムーサちゃんどれがいい......」

「ダメですよヒカリ、ここで更に問題を起こせば、フランさんやバーバラさんも、巻き添えで脱会させられるかもしれません」

「くぅ、確かに奴らならやりかねん...... でも腹立つ! 腹立つ! 腹立つ!」

 私は地団駄をふんだ。

「で、でも依頼が受けられなくても、モンスターの素材は売却できますし、なんとか生計はたてられますよ。 私も悲しいけど......」

 ムーサちゃんも悲しげにそうつぶやく。
 
「うー、でも納得いかない! せっかくここまでしたのに! みんなの力を借りてここまで! なんかないか探す!」

 私はあてもなく店を出た。

「とりあえず、偉い人に! でも、そんな知り合い......」

 私の脳裏に一人のりりしく整った顔が浮かぶ。

「いた!!」

 私はそのまま馬車に乗り王都まで向かった。
 

「よし!」

 私は気合いをいれ騎士団本部の扉をあける。

「ヘスティアさんいますか!」

「お前は、あの時の......」

 いつぞやのバルザーとか言う騎士がいた。

「ヘスティア副団長ならいないぞ...... あの人は騎士団の規定違反で謹慎中だからな」

「なんで! コアモンスターを倒して町を救ったのに!」

「ふん、例えそうでも騎士団には個人の行動に関して規定があるんだ。 それを破った以上、罰は当然だろう。 もはや除名は確実だ」  

 そういってにやついている。 

「......つまり、英雄がいては他のふぬけが目立つから追い出されたって訳ね」

「なに!?」

 バルザーと他の騎士たちが立ち上がる。

「なに、モンスターと戦うのがいやで、ここに座ってビクビクしてたのに、女の子相手なら立ち上がれるのね」

「きさま!!」

 バルザーは腰の剣に手を掛けた。

「いいわよ。 かかってきなさい」

「やってしまえバルザー!」

「コアモンスターやったなんて、どうせたまたまだ!」

 後ろの騎士たちがはやしたてる。

「いいだろう。 そこにたて相手してやる。 お前たちがやらずとも、我々とて命令さえあればモンスターなぞ容易く倒せるということをみせてやる」

「いいわよ。 できるならね」

(本当はヘスティアさんに話があるけど、もういないんならどうせムシャクシャしてたところ。 こいつで憂さ晴らししてやる)

 私は距離をとり、ナイフをにぎる。

「ふん! そんなナイフでなにができる。 心配せずとも殺さずに痛め付けてやろう」

 そういってバルザーは剣を鞘ごとかまえた。

(抜きもしない...... なめてるわ。 まあいい)

 バルザーが構えてるところに走る。 そして別のナイフを投げた。

「なっ」

 ナイフを慌てて弾いたバルザーの懐に入るとおもいっきりナイフのつかで殴る。

「ぐっ!」

 バルザーは膝をつく。

「ひ、卑怯な!」

「はっ、卑怯? モンスター相手にそんな言い訳するつもり、あんたたちがやってるみたいにルールのある稽古じゃないんだよ」

「このなめるな!!」

 バルザーは立ち上がると力任せに剣をふりおろす。 私はそれをみる。
 
(知覚加速...... いえ必要もないや。 さんざんモンスターと戦ってるから、この程度なら使わなくてもかわせる)

 その剣を容易くかわすとバルザーを蹴り飛ばした。

「ぐわっ!!」

 そして魔法銃をかまえる。

「サンダーブラスト......」

 銃口から収束する風が倒れたバルザーの横の床を大きく貫通した。

「ひっ!!」

 バルザーは頭をかかえて縮こまっている。

「あんたたち! 戦いたいなら相手してあげる。 その代わり次は殺しあいよ。 死んでもいいやつは前にでてきなさい!」

 そういうと周りの騎士たちはだまりこくる。

(ふう、少しだけスッキリした)

「これは!?」

 奥から二人の女の騎士がでてきた。

(あれは確かヘスティアさんと一緒にいた......)

「大きな音がしたのできてみれば、あなたはヒカリどの、これはいったい?」

 私は今起こったことを話した。

「......なるほど、子細はわかりました。 とりあえずこのもの達の非礼は詫びましょう。 後に裁定が下されるのでそれで御容赦を」

 そういうと金髪の女性はレイアと名乗り頭を下げる。 

「いや、こっちも喧嘩売ったので」

(危ない、危ない、つい感情的になってしまうのは私の悪いくせね)

 もう一人の黒髪の女性、オノテーさんが話しかけてきた。
 
「ヘスティアさまですが、ご自宅で謹慎されています。 私が共に参りましょう」

 私はその女性オノテーさんと町を歩く。

 丘の上のほうへと向かうと宮殿かと思うほどの豪邸が立ち並ぶ。

「すごいね...... ヘスティアさんってやっぱり貴族なの」

「ええ、大貴族、ウェスタ家のご令嬢です」

(よしラッキー! 何とかヘスティアさんに話をして、ギルドの話撤回してもらおう!)

「ヘスティア様はとても立派なかたです。 大貴族ということを鼻にもかけず、我々下級貴族とも同等に接してくださいました」

「それでオノテーさん。 騎士団の除名って本当ですか?」

「......そうですね。 ですが騎士団の規定違反というよりは、家の問題かと」

「家の......」

「ウェスタ家はこの国ではかなり王家に近い大貴族、そこの令嬢が騎士団に居続けるのは家の者、おそらく当主のお父様が許さないのでしょうね」

「ということは騎士団からじゃなくて家からそう命令があったと」

「......だと思います。 家からの指示があり、これ幸いにと騎士団が追い出したのでしょう」

「ひどっ!」

「ええ、しかし貴族の家ではよくあることです。 私たちもヘスティア様の加護なしでは上級騎士団員である私たちも騎士団にいられるかどうか......」

 そう表情をくもらせる。 

(なんかみんな大変なんだ...... 私たちのことまで手が回りそうにないけど、一応頼むだけ頼んでみよう)

「こちらです。 今呼び掛けますのでお待ちください」

 一際大きな家の前でまっていると、中から執事風の人がでてきて胸に手をあて頭を下げた。

「わたくし、この家の執事、サイデルともうします。 ヒカリさまですね。 こちらにお嬢様がお待ちです」

 そういって中へと招かれる。

「では私はこれで」

 そういうとオノテーさんは去っていった。
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