冒険者ギルド始めました!

曇天

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第二十三話

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「本当にくるのね......」

 シアリーズは馬車の手綱を握りながら、少しあきれたようにいった。

「うん、あなたには仲間になって欲しいからね」  

「しかたないんです。ヒカリは一度決めたら必ず行動しますからね」

「わ、私がいれば怪しまれずにすみますし」

 私とペイス、ムーサの三人はアスワルドへと向かっていた。 昨日シアリーズに話を聞いたからだ。


「えっ、シアリーズって騎士なの?」

「ええ、私たちは元アスワルドの女王側近の近衛騎士だった。 ガルデムが兵を集め、会議中の女王グレイシアさまを幽閉し国を奪った。 その時、私たちは姫を人質にとられ逃げるしかなかったの......」

 ブルジュラの屋敷から帰り、鈍色の女傑の家で話を聞いていた。

「女王さまの病で王位が変わったんじゃないの!?」

「いいえ、反乱によって王位を終われたのよ」

「生き残れたらって、まさか......」

「内乱を起こそうというわけじゃない...... 私たちは女王グレイシアさまを助けたいだけ...... お守りできなかったから近衛騎士としての誇りとしてね」

「つまり、女王を見つけて逃がそうとしてるってことね」

「そう、だけど捕らえられれば死罪、だから生き残れるかはわからない。 私たちはグレイシアさまの幽閉場所を探してこの国に潜伏していたのよ。 そしてついに見つけた...... だから生きて帰ってこれたら仲間になるわ」

 そういって真剣な眼差しでこちらをみつめた。

「ふーん、なら私もいくよ」

「なにいってるの...... 死ぬかもしれないのよ」

「あなたたちに死なれたら困るの、だから手伝う」

 そう昨日話したのだった。


 私たちはホロのついた馬車で国境を抜け、走っていた。

「それにしても」

 シアリーズの顔をまじまじみる。

「なに? 私の顔になにかついているのヒカリ」

「いや、化粧や服でそんなに印象が変わるなんて......」

 私たちは潜入するにあたり修道女のような姿になっていた。

「ああ、私はこの国で顔を知られているのよ」

 シアリーズは本当の修道女のように清楚に見えた。 

「傷がないね」

「逃亡時にきられた傷は化粧をして隠したわ。 修道女にしては化粧が濃いのだけれど......」

 そう苦笑する。

「なんかペイスとムーサは似合ってるね......」

 ペイスとムーサの二人はどこからみても修道女にみえる。

「ま、まあヒカリもそのあぐらをかくのをやめれば、少しは修道女に見えますよ」

「そ、そうですね。 問題があったから修道女に入れられた人みたいに見えます」

「全然フォローになってない!!」 

「うふふ、あなたたちは楽しいわね」 

 シアリーズは笑う。

「ねえシアリーズ、それでどこに女王がいるの?」

「西にあるラクライム修道院よ。 そこに幽閉されているの」

「それで修道女なのですね」

 ペイスはうなづいた。

「そう、この国は女神ナドキエを信仰しているからね」

(あの女神かよ!)

「どうしたのヒカリ? そんな怖い顔して...... お菓子をカンヴァルにとられたときみたい......」

 ペイスがそう心配そうに顔を覗き込んできた。

「べ、別にそんなことないよ。 それでシアリーズ作戦とかあるの?」

「ええ、他の者は別動隊として移動している。 三方から侵入して、一気に女王を救出撤退する手はず」

「でも警戒されてるのでは」

 ムーサが不安そうにつぶやいた。

「......ええ、おそらくガルデムさまの直属兵たちとシャーラスラがいるわ」

「シャーラスラ?」

「ああ、元アスワルド騎士団団長だった男。 でも強さに魅いられ、ついには多くの名のある剣士と決闘し倒していき、騎士団を追われたのよ」

「決闘...... そいつ強いの?」

「ええ、単純な剣の腕なら私よりもね」

「シアリーズより!!! 嘘でしょう!?」

「......シャーラスラは私が押さえるわ」

「女王を取り戻したら、魔法で全部ぶっとばせばよくない」

「ヒカリ、おつきの侍女や、修道女たちもいるからそれはやめてね」

 シアリーズにやんわりと注意された。

「そうですよ。 あなたはすべて力任せなんですから」

「そうですね。 もう少し被害を考えられて方がいいとおもいます」

「なっ、なによ。 ペイスとムーサまで!」

 手をブンブンふり抗議してみる。

「この間の一件でも屋敷を吹き飛ばしたらしいじゃないですか。 アルテさまが巻き込まれたらどうするつもりだったんですか!」

「うっ...... でも、ちゃんと当たらないように調整したし......」

「だけど、何人かの騎士団員は空を舞っていたわよ」

 シアリーズが笑顔でそうつけくわえる。 ペイスとムーサのこちらを見る目が痛い。

「う、うん、まあね。 あははっ、そういう失敗は誰にでもあるからね...... あっ! あれ塔が見える!!」

「......あれよラクライム修道院、あなたたちは私についてきて」

 シアリーズは手綱を握り緊張した面持ちでいう。

 馬車は塔の前の石壁の門の前に止まる。 やはり警備の兵たちが十人前後たっていた。

「何用ですか」

「修道院への食料、衣服、生活用品の搬入です」

 シアリーズは兵士にとても穏やかな口調で話した。

(さすが本物の修道女みたいだね)

「ふむ、話しは聞いていますが、何人ですか」

「四人です」

 兵士たちはほろの中を覗きこみ、私たちの姿を確認しうなづいた。

「ん? いや一名...... いや問題は...... なさそうです」

 私の顔を二度見して首をかしげてから兵士はうなづいた。

「そうか、では中に荷物は私たちが運んでおきますので」

「ありがとうございます」

 そうシアリーズがにこやかに広角をあげると、兵士たちがだらしない顔になる。

(鼻の下を伸ばして、アホな兵士...... こいつらなら大丈夫か)

 私はあきれながら馬車を降り、門の中へと入る。 門の中にも兵士たちが巡回しており、ざっと三十人はみえる。

(かなり警備も厳重、しかも中にいる兵士は外と違いできる奴らだ)

 塔の中に入るかなり広い造りになっていて、左右に大きな石の階段がある。 階段に兵士がいる。 年老いた修道女が近づいてきた。

「遠くからご苦労様」

「ええ、リエッタ院長」

 顔見知りなのか、シアリーズに笑顔で話しかけた。 

「女王は右の三階におられます。 今はお休みを、準備をしていますから」

 そう表情は変えず小さな声でつぶやいた。

「わかりました...... でも少し休憩をとらせていただきます......」

 そういうと、シアリーズは奥の部屋へと招かれ、大部屋へとはいった。 そこはベッドが四つほどあるだけの簡素な部屋だった。

「知り合いなの?」 

 扉に聞き耳を立ててないかを確認してきいた。

「ええ、私はこの修道院の前に捨てられていた孤児なの。 あの院長に育てられたのよ。 でも修道女は向いてないから騎士になった......」

 そうシアリーズはそう懐かしそうにベッドをさわる。

「へえ」

「でもまさか、この修道院に幽閉するなんてね......」

 そうシアリーズは何か考えるようにして黙った。

「左右の階段に四人ほど、外に三十、外に十人ですか...... かなり厳しいですね」

「おそらく上の階にもいますから、全員で五十人はいると思います」

 ペイスとムーサはそう答えた。

「そうね。 私たちが女王を連れ出したら合図して、外にいる九人が突撃してくるわ。 その混乱に乗じて逃げる」

 そうシアリーズがいう。

「外の奴らは大したことないけど、中の兵士はかなりの強さだよ」

「ええ、ガルデムの直属兵で精鋭、あとはシャーラスラが見えないのが気にかかるわ」

 そういうと、シアリーズは何か思案している。

「それは気になるけど、取りあえず夜まで待つしかないか」

 準備をしていると、夜になり食事をとると部屋に戻る。 すぐに装備を身に付けた。

 そして夜も更け、真っ暗になる。 

「中のものたちは、眠っています」 

 一人トイレに行くふりをして出ていったムーサが帰ってきた。

 私たちは部屋を出て確認すると、兵士たちは眠っている。

「すごいわね。 ムーサちゃんの魔法か......」

 シアリーズが感心したようにいった。

「ええ、スリープミスト、霧状にでてこの修道院にいき渡らせました。 ですが、外は風があり、おそらく効果はないかと......」

 ムーサは恥ずかしそうに答える。

「......少し眠いね」

「魔法耐性の魔法をかけていても、効果が多少あるようですね。 女王さまや侍女の方に魔法耐性のアミュレットを修道女の方に渡してもらうようにお願いしてきましたが......」

 そういうペイスも眠そうだ。

「でもこれで中のものたちは眠らせた。 あとは女王だね」

 階段を登り三階に行くと、部屋の前に兵士が床に二人眠っている。

「女王陛下...... 私です。 シアリーズです」

「シアリーズ......」

 扉を開けると、そばに二人の若い女性がいて、椅子に一人の幼い少女が座っている。

「この子が女王!?」

「ええ、女王グレイシアさまよ」

 シアリーズがそういうと女王に膝をおり、頭を下げた。

「シアリーズ、すみません...... 私のせいで苦労をかけました」

 そう茶色の黒髪の少女はそう頭を下げる。

「いえ、さあ参りましょう」

 シアリーズは窓を静かにあけ空に向かって魔法を放つと、一筋の光が空へとのぼる。 しばらくして下でざわざわしている。

「よし、来たね」

 私たちが下に降り正面の扉を開けると、鈍色の女傑たちが入り兵士ときりむすんでいた。

「なんだ!? 女王!! くそっ! 近衛騎士団の残存兵か!」

 こちらに兵士が向かってくる。 私とシアリーズがそれらを向かいうつ。

「くっ! こいつら強い! ペイスとムーサは女王を守って!」

「しまった! どこかに隠れていたのね!」

 シアリーズはそう叫んだ。 
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