冒険者ギルド始めました!

曇天

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第三十二話

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 私たちは城に招かれたが、報奨をあとでもらうことにした。 ヴァーライト卿が隠居を承諾したため、使う必要がなかったからだ。

「ふう、何とか結婚は阻止できたね」 

 バールレのギルドでヘスティアに聞いた。

「ええ、私が当主となりましたからね。 当分結婚など考えてはいません。 騎士団の改革もまだまだですしね」

 ヘスティアは堂々としていった。

(当主になったことで自信に満ち溢れているみたい)

「しかし、みなさんにはお世話になりました。 感謝します」

 そう頭をさげる。

「いいよ。 別に頭なんてさげないでよ」

「ええ、私たちはそのような仲ではないですよね」

 私とペイスがいうと、みんなは笑う。

「なにかあれば必ず力になりますね」

 そういうと笑顔でヘスティアはオノテー、レイアと共に店を出ていった。

「ヘスティア、元気になってよかったね」

「ええ本当に」

 私とペイスが話していると、ギルドにシアリーズがはいってきた。

「もう、バールレにはめぼしいダンジョンはないわ。 あとは突発的にできるダンジョンか、モンスターたちね」

「なら少数の冒険者を残して、アズワルドに移動しよう」


 それから半年、私たちはアズワルドの拠点に多くの冒険者を連れていき、ダンジョンを攻略していった。

「ふむ、かなりの成果だね」

「ええ、南はほとんどダンジョンがなくなったみたいですね」

「冒険者たちの強さもかなりのものになってるわ。 今は二十人程度でコアモンスターを倒せるくらいね」

「シアリーズの鍛錬のおかげだよ。 それにカンヴァルの装備だね」

「まあな。 かなりモンスターの素材が集まるからな」

 カンヴァルはそういって胸をはる。

「そうね。カンヴァルの装備は国以上のものだわ」

 シアリーズはカンヴァルにつくってもらったという剣をみていった。

「そうそう、この間アガースのいた場所から持ってきた。 遺物なんだけど......」 

 そういって、カンヴァルはいくつかの道具を机に置いた。

「これなんだけど、ムーサ説明をお願い」

「はーい」

 奥でヘカテーと話していたムーサがヘカテーと仲良く手をつないでやってきた。

「この丸いのが反逆の宝玉《リバースジェム》、反発する宝玉です。 この短い棒は魔力を移すことができる杖、魔送の杖《センドスタッフ》、そして壊れた刃は風の刃を放つ風切の刃《ウィンドエッジ》です」

「へぇ、すごいじゃん」

「そうなんだ。 これはかつての旧魔法文明の遺物だ。 いまは作ることもできないがな」

 カンヴァルはそう腕を組んでいる。

「ほう、でもなんか使えそうだね」

「ああ、魔性転移で魔法性質を移すから、ヒカリとペイスはちょっと装備を貸してくれ」

「うん、お願い」

「お願いしますカンヴァル」

 そう武具を渡していると、ヘカテーが遺物をみている。

「どうしたの?」

「なんかこういうの作れそう......」 

「作れそうってこのアイテム?」

「うん、魔法を付与させたアイテム、やってみていい......」

(ヘカテーが自分からこんなこというなんて)

 私がペイスと顔を見合わせる。

「うん、構わないよ。 素材ならカンヴァルか、なければ私が探してくるよ」

「だな。 せっかくやる気になってんだ。 ヘカテー必要なものはいってくれ」

 カンヴァルはそういってヘカテーの肩を叩いた。

「ありがと......」

 ヘカテーはムーサ、カンヴァルと一緒に倉庫へ向かった。

「なんか、知らないうちにみんな成長してんね」

「ええ」

 そうペイスが楽しそうなヘカテーたちをみて優しく微笑んでいる。

「まあこれで冒険者たちももっと安全になれればいいんどけどね」

「ええ、本当に」

 ペイスと一緒に笑う。

 その時、ギルドの扉がノックされ開いた。 

「失礼します」

 そこにいたのは利発そうな顔をした少年だった。

(衣服から貴族かな。 それに腰に剣か)

「いらっしゃいませ。 当ギルドになにようでしょう」

 ペイスが応対する。

「......はい。 そうですね。 まずは私の名前を...... 私はトライデンと言います」

(トライデン? どっかで...... あっ! ロキュプスクの!)

「トライデンさまですね。 それで当店にご依頼ですか」

 ペイスは顔色ひとつ変えずに対応している。

(さすがペイス、プロだね)

 トライデンは少しためらいながら、話はじめた。

「......あなた方はヒカリどのとペイスどのですね」 

「私たちを知っているの?」

「ええ、ブリリアントプリンセスとデスライトニングバーサーカーの名は国に広がっておりますから」

「ひろがっちゃたてるの!!? あと名前にデスがついてるんてすけど! 凶悪になってるんですけど!」

「は、はい、そう私は聞いておりますが」

 トライデンは少し引いている。

「ちょっとヒカリ! お話を聞きましょう。 それでトライデンさま、私たちに何かご用ですか」

「は、はあ、そうですね。 とても話しづらいことなんのですが...... わが、父ロキュプスクのことで......」

「ああ、あのむかつくおっさんが何か」

「もう、ヒカリ!」

「......そうですね。 そう思われても仕方ないと思います。 てすが元々父はあのような性格ではなかったのです。 母の死によって変わられた......」

 そう悲しそうな顔をして下を向いた。

「そうなの...... まあ、人は変わるよ。 よくも悪くも環境や経験でね」

「ええ、ですがあまりに変わりすぎて...... それで少し気になっていることを調べていただきたいのです」

「調べる?」

「はい、父が密かに何者かとあっているようなのです。 ですが私が
追えばすぐ気づかれてしまう。 そこで有名な冒険者のあなた方なら気づかれずに調べられるのではと思いまして」

(誰かに会っている...... 確かに気になる)

「それでその会ってる相手のあてはあるの?」

「......いいえ、ですが、うちの馬車の運転手から何とか聞き出したところ、北にあるバークトの町で何者かと会っているとのこと......」

「でも何か悪いことがあったなら、君はどうするの?」

「......それならば仕方ありません。 城へ上告します」

 その少年は私の目を見据えそういった。

(覚悟がある...... か)

「わかった。 私たちが調べる。 知ってることを詳細に話して」

 トライデンから詳しく話を聞き、後日ロキュプスクを、追跡することになった。 みんなを集めて話をする。

「それでロキュプスクを尾行するんたけど......」

「私たちは顔を知られてますからね」

 ペイスが困った顔をしている。

「おそらく知られてないのはシアリーズ...... でも今や有名人だし、残るは」

 みんなでヘカテーをみる。

「?」

 なんのことだかわからないヘカテーはキョトンとしている。

「だが、ヘカテーさんだけでは危険です」

 ペイスを心配そうだ。

「そうなんだよね。 私が行ければいいんだけど......」

「いけるわよ」

 シアリーズがそういって笑顔を見せた。


「これ大丈夫なの?」

「ええ、とてもハンサムだわ」 

 シアリーズが笑顔で誉めてくれる。

「ええ、とってもかっこいいです! ヒカリさん!」

「ヒカリかっこいい......」

 みんなが誉めてくれる。 そう私はシアリーズにメイクしてもらい男装することになった。

「ねえ、ペイス変じゃない」

 ペイスに近づくと顔を真っ赤にしている。

「へ、変ではないです」

「んー」
 
「ひゃあ!」

 ペイスは顔を両手でかくして部屋の奥へと走っていった。

「なんなの?」

「まあ、それだけあなたが魅力的ってことよ」

「ふーん」

 シアリーズは微笑む。 

「でも、これでヘカテーと兄妹として近づこう」


「出てきた」

 ロキュプスクはお屋敷からでて、馬車にのりこんだ。 私とヘカテーはその馬車を借りた馬車で追う。

「そのまま前の馬車をおって」

(トライデンの話しでは月に一度、バークトの町で誰かに会っているといっていた。 その相手を追えば何をしているかわかる。 スキャンダルをつかめばこちらに有利になる。 ふひひ)

「ヒカリ...... 悪いかおしてる」

「そ、そんなことないよ。 これはこの国の一大事だからね」

 そうヘカテーにごまかした。

 北の町まで来ると、馬車はある宿の前にとまった。 馬車から降りたロキュプスクは周囲を確認している。 その姿は屋敷をでた時とは違い何か変装しているようにも見えた。 そして小脇に何かを抱えている。

(やはりスキャンダルか......)

 ずっと外から確認していると、宿泊客には女性の姿はない。

(ん? 女の人はいない。 入っていったのは男だけ...... まさかそっちなの)

 しばらくするとロキュプスクは出てきて、馬車にのり去っていった。

(どういうこと? 怪しげなものはいない。 トライデンの勘違い......)

「あれ...... さっき入っていったひと...... あの人!」

「えっ?」

 ヘカテーにいわれてみると、少しあとから柔和な顔の小太りの人物が小脇に何かを抱えてでてきた。 

(あれ、さっきロキュプスクが抱えていたものに似てない?)

 ヘカテーが震えている。

「どうしたの? ヘカテー知ってる人?」

「あのひと、父様、母様にゴーレムを、作るようにいったひと......」

「ええ!?」

 私は驚いたが、取りあえず彼がのった馬車を追った。
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