冒険者ギルド始めました!

曇天

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第三十六話

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 私たちは魔獣の進撃をみて言葉を失っていた。

「......スタンピードがひとたび起これば、我らに未来はないでしょう」

「一体でも強大なのに、あんな数とても......」

 サモンズの言葉にヘスティアは最後までいわず口を結ぶ。

(確かに、これは何とかしようもないな......)

 これからの話は明日にしましょう...... そうサモンズは私たちを気遣い、その日は宿へと泊まる。 


 私は夕方、宿をでて高台の方に歩く、そこは町を一望できた。 

「それであれをみた感想はどう......」

 後ろからナドキエが聞いてきた。

「はっきりいって絶望的...... あのスタンピードが起これば、いくら対策しようが無駄ね。 この国は何とかしようとしているみたいだけど、正直どうしようもない」

「ずいぶんあっさり認めるのね...... もうあきらめたの」

「いいえ、あきらめたりしない。 あがいてみせる」

「あなたの仲間はもうあきらめていたようだけど」

「かもね。 でもあきらめてどうにもならないなら、あきらめない。 あなたが...... 神がどれ程の力をもっていたとしても、生きることはあきらめたりしない!」

 私がそう告げると、静かにこちらを見つめたナドキエは笑う。 

「ふふっ、あなたを選んでここに送ったかいがあったわ」

「選んだ...... 私は理を破ったからここにきたんじゃないの」

「理なんかないわ...... あなたをあの世界に送ったのは私、そして戻したのも」

「どういうこと? なぜ私を、この世界を滅ぼそうとしてるんじゃないの」

 ナドキエは語りだした。

「私は神などではないの」

「でも......」

「私は神とはいってないでしょう」

 私は思い出した。

「そういえば確かに...... 神と呼ばれている者っていってたっけ? じゃあ何者なの?」

「......あなたたちと同じよ」

「人間!? じゃあなんでそんな力を...... いや、なんで人間を滅ぼそうとしてるの!」

「そうね...... 文明を破壊しようとしてるのは私ではなく...... ティフォンというもの、人間よ」

「ティフォン...... その人がなんで人間を滅ぼそうとしているの」

「正確には滅ぼそうとしてるのではないわ...... 守ろうとしているだけ」

 哀しそうな顔でそういった。

「守る......」

「私たちは一番最初の魔法文明時代に生まれた。 永い年月をかけ魔法技術を手に入れた人々は、あらゆることにその魔法技術を使っていったわ」

 そういうと、周囲の景色が代わり神殿のような場所にきていた。 周りはさまざまな映像が浮かんでいる。 魔法を生活、武器や戦争につかっている様子が映し出される。

「これを見なさい......」

「これは......」

 ナドキエが指し示したそこには、普通の人間がもだえている様子が映っていた。

「ええ、当然のごとく人間にも魔法技術が使われた...... 不死、不病、強靭な肉体、高い知能や魔力、でもそれは禁忌の力...... 適合しなかった人間は......」

「こ、これ魔獣......」

 さっきの人間が魔獣へと変じていくようすがみえる。

「そう、ほとんどの人間は適合せず、魂が変容し魔獣となってしまった...... そして魔獣は人間たちを滅ぼした。 私たち適合した二人だけを残して...... そしてそれは何度も起こった」

「まさか! 魔法文明が発達すると同じことが起こってるってこと!」

「......そう、それを止めるため私たちは人間に幾度となく介入した。 導いたり、力を与えた、でも......」

「滅んだのね......」

「ええ、魔獣となった人間は、その魂は魔力によって腐りはて、転生も昇天もできなくなる...... だからティフォンは千年に一度眠りによって世界から集めたその魔力をもって魔獣を使役し文明を滅ぼしていた」

「それで文明を...... でもあなたはそれをよしとはしてない」

「......それが、正解だとは到底思えなかった。 だから、人間たちに知識や固有魔法であるスキルを与え対抗させた」

「でも、うまくはいかなかった」

「ええ、与えられるスキルや魔法と同じく魂の本質に基づいている。 こちらから指定することはできないの...... でもついに対抗できうるそのスキルを持つものが生まれた......」 

 そういって私を見つめる。

「それは私...... それが異世界に送られた理由」 

「そう、気づいてるでしょう」

「予知......」

「そうともいうわね...... その力を使えば、ティフォンを止められるかもしれなかった。 あなたには悪いけどあなたを移すしかなかった。 モンスターの溢れる危険なこの世界では、あなたはすぐ死ぬかも知れなかったから」

「それである程度育つまであっちにいっていたのか......」

「ええ、でもこの世界で、あなたは死ぬくらいの無茶をしていたみたいだけど......」

 そう苦笑している。

「私も転移の使用で力を失って眠りについていたから、せいぜいあなたに魔法を伝えるしかなかった......」

「あっ! まさか最初の魔法! あれを教えてくれたのって!」

「......ええ、そう。 でもあなたが無茶をしてくれたお陰で、その魔力はかなりの力を持つことになった」

「でもこの力でとてもスタンピードを止められると思えない」

「止めるのはスタンピードではないわ......」

 そうナドキエは静かに日のくれてきた遠くの空をみていった。


「本当にみんないいの...... ここからは死ぬ可能性がたかいよ」

 次の日、私たちは遺跡地下にいた。 目の前にははるか見上げるほどの巨大な両扉がある。

「......わかっています。 だからあなたは私たちにいわずに一人でいこうとしたのでしょう」

 ペイスは哀しそうにそういった。   

 ナドキエに話を聞いて、今日私は一人でここにきた。 だけど、みんなは私の異変を感じて追ってきたのだった。

「もう、あんたとはけっこうヤバイときも一緒にいたんだ。 いまさら置いてくなんてなしだろ」

 カンヴァルは怒ったようにそういうと、ムーサとヘカテーもうなづく。

「ヒカリさんは私に、私たちに居場所をくれました...... 一人でいかせたりしません」

「うん...... もう一緒...... 離れてたくない」  

「そうね。 あなたにもらった命だものね」

 そうシアリーズは微笑む。

「そうです。 あたしも王女としてではなく、あなたと生きるためにここにきました先生」

「ええ、何があろうと、かりに相手が神であろうとも......」
 
 アルテとヘスティアもそういってうなづいた。

「......わかった。 みんなには事情を話す......」

 私はみんなにナキドエの話しと私のことを包み隠さず話した。意外にもみんな取り乱さず、冷静に聞いている。

「......そうですか、それであなたがここに戻られたのですね」

 ペイスはそう目をふせていう。

「まあ、どっちにしろスタンピードが起これば、結局あたしら終わりだからな」

 カンヴァルが持ってきた装備を並べている。  

「そうです! このままなにもせず終わるなんていやです」 

「うん...... せっかくみんなと会えたから...... もう一人はいや」      

 ムーサとヘカテーはアイテムを鞄からとりだす。

「ええ、やれることをやりましょう。 後悔のないように」

 シアリーズはカンヴァルの並べた装備を身に付ける。

「戦いましょう。 この先も一緒にいきるために」

「そうですね。 可能性のある限りあきらめたりしません」

 そういいながらアルテとヘスティアは並べられた武器をとる。

「......わかった。 この先の未来のためにみんなで行こう!」

 私たちは覚悟と装備を身に付け扉を開いた。 
 
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