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第四十五話

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「あだだだだだだだ」 

 連れてきてしまった女の子は俺の足に噛みついている。 俺たちは都市から離れネメイオが操る馬車にのって移動している。

「やめよ! 歯がぼろぼろになるぞ!」

「俺の心配をしろ!!」 

 何とか女の子を引き離す。 女の子はバタバタと暴れている。

「なんでつれて来ちゃったの?」

 ネメイオがあきれてそういった。

「しらん! 勝手についてきたんだ!」

「王都においてこようとしたら、叫びだしたからな。 やむをえん。 後で近くの町で、誰かに宮殿までおくってもらおう」

 ディンは俺に噛みつこうとしている女の子をつかまえている。

「あなたたちは泥棒さんなのですね!! 許しません! ミーナ・ライト・アスム・アズリアの名のもとにあなたたちを成敗します!」

 女の子はそういいはなった。

「アズリア...... ミーナ、まずいわ! この子アズリア帝国の女帝よ!!」

 ネメイオが思い出したようにいった。

「なっ!!」

「わかりましたか! 悪のものたちよ! 降参して私の元に平伏なさい! 重罪ですが、命まではとりません! お尻ペンペンで許しましょう!」

「罪軽いな......」

「まあ、とりあえずネメイオのアイテムで眠らせとけばいいだろう」

 ディンはミーナの頭を撫でながらそういった。

「あなたたちは何を盗んだのです? 金銀財宝? 返しなさい。 返せば謝るだけで許しましょう」

「やっぱり罪軽いな......」

「残念だけど、返せないわ。 これは元々私のものだから」

「そうだ。 これも余のものだ」

 二人にいわれてミーナは困惑している。

「ま、まさか、また私の国のものが他の国のものを奪ったのですか......」

 そうショックを受けているようだ。

「......そういうこと、だから次の町でおとなしくまってて、誰かに宮殿へと連れていってもらうから」

「な、なりません! 私はいますぐ女帝として認められ! 戦いをやめさせねばならないのです!」

 そうミーナは両手を握りしめいった。

「女帝として? 戦いをやめさせる?」

「......はい。 私がいくら戦争はダメだと言っても誰も取り合ってはくれません。 誰も幼い私を認めないのです。 ですから! 申し訳ありませんがあなたたちを捕らえねばなりません!」

 そういうとまた俺に噛みついた。

「あだだだだだ!! なんで俺だけに噛みつくんだ!!」 

「まあ、落ち着け、当分戦争はできまいよ」

「ど、どういうことでございますか!?」

 ディンにミーナはきく。

「私たちは死者の操杖《ネクロマンシースタッフ》を手に入れたからね」

「あの死者を操るという杖ですか!?」

 そうミーナは目を見開いている。

「ふむ、これで戦争するのは難しかろう」

「......なるほど、確かにあの杖は前線に死者をおき、相手を苦しめるとききます。 それを盗まれたのですね」

 ミーナは納得しているようだ。

「ああ、だから安心して帰っていいぞ」

「......いえ、戦争の危険がないならば、あなたたちについて参ります」

「はあ??」

「あなたたちがその杖を使わぬとも限らないでしょう。 私にはそれを確認する責務があります!」

「いや、女帝がいないと、探しにきちまうだろ!」

「いいえ、かの国はもは私など必要とはしておりません...... 城以外にでることすら叶わぬ身ですから......」

 そういうと目を伏せた。
 
「まあ、いいのではないか...... 余もそのような経験はあるゆえな。 外にでたいのだろう。 しばし自由をあじあわせてやればよかろう」

「ほんとでございますか!」

 その顔が満面の笑みを見せた。

「はあ!? ディン正気か!」

「そうね。 まあ見つかっても自分できたと言ってもらえればいいわけだし」

「ネメイオお前まで! そんなことだれが信じる!!」

「だめですか......」

 うるうるとした瞳でみあげてくる。

「はぁ、まあ部屋は余ってるからかまわんけど、見つかったら、ちゃんと話してくれよ。 じゃないと俺たち揃って打ち首だからな」

「わかりました! あなたたちの身の安全はお任せください!」

 そう胸を張ってミーナはいった。

(本当に大丈夫かな......)

 俺は不安に感じながら、明けていく空をみていた。


 
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