虹彩異色のネクロマンサー

曇天

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第二十九話

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 ガキンッ!!

 ぼくは浅蜊盾《クラムシールド》でリリーエ副隊長が放ったものを防いだ。 よくみるとそれは触手のように動いている。

「驚いた...... これを反射で防ぐの。 いいえ予想していたのね」

「一体、あなたはなんのためにこんなことをするんですか」

「なんのために? 帝国のために決まっているじゃないの」

「やはり脱走兵は偽り、帝国のスパイだったのか」

「ええ、ガームもギデルも帝国の兵よ。 このまま君が死んでくれたら任務を続行できる。 でもどうして、私が裏切り者だとわかったのかしら」

 そう話しながら、リリーエ副隊長はこちらの隙をうかがっている。

「あの二人はそれほど正確には、生屍《リビングデッド》を操ってなかったんですよ」

「ああ、なるほど、あなたを襲ったときのことね。 それで第三者を疑っていたと...... ねえ、あなた帝国につかない」

「どういうことですか......」

「この国の軍でもやってることは同じでしょ。 私たちネクロマンサーは道具、どこでも一緒なら帝国についてもいいはず」

「それはそちらも同じことでしょう」 

「帝国は少なくても報酬はこの国とは大違いよ。 それに強ければかなりの権限を許される。 人も金も制約もなく好きにいきられるわ」

「帝国は人を人ともおもわないそんな政策をしてるのにですか」

「ふふふっ、私たちネクロマンサーはどこでも人とはおもわれないわよ。 戦争があるから、需要があるだけ。 戦争がなくなればただの化け物よ。 少なくとも帝国では金と権限をえられるわ」 

 そう微笑んだ。 だが隙を見せていない。

(グールと同じようなことを......)

「......ぼくは人だ。 化け物じゃない」

「いいえ、ネクロマンサーは化け物よ。 君は前の戦争に参加してるわよね。 人なんてただ醜悪な獣なのは、戦場でいやってほどみてきたはずよ。 それなら人間である必要もない。 化け物で十分でしょう」

「それでも、ぼくは人なんだ」

「......彷徨える魂よ、我が声に答えよ。【鋼烏賊】《メタルスクイード》」

 リリーエ副隊長の背中から、何本もの銀の細い触手がうねうねと動く。

「残念ね...... 同じ化け物同士仲良くできるはずなのに......」

 触手はぼくを狙って針のように迫ってくる。

(さっきみた胸当てがない! あれでこの触手をつくってるのか!)

『彷徨える魂よ、我が声に答えよ! 丸綿羊《コットンシープ》』

 それをミーシャのヒツジが防ぐ。

「なに? 誰が使ったの...... まさか!」

 焦ったように後ろを振り向いた。

『さすがにもう我慢できない! 加勢するぞ!』

「ああ、頼む」

「ネコ...... まさか。 そういえば戦争中、禁忌をおかしたものがいるという話しを聞いたわ。 ふふっ、ふふふ、あなただったのね。それで人間なんてよくいえるわ!」

「......そうですね。 彷徨える魂よ、我が声に答えよ。 散弾蟻《シェルショットアント》」

 拳銃から放たれた弾丸がアリとなりリリーエに向かうが、背中から伸びた触手がリリーエを隠すようにおりて防がれた。

「無駄よ。 そんな弾丸じゃ貫けないわ」

(やはり、雀蜂実包弾《ホーネットマグナム》じゃないとダメか。 ただこれは威力が強すぎて、一度使うと星幽石が砕ける。 もってるのはあと六発)

「彷徨える魂よ、我が声に答えよ。 雀蜂実包弾《ホーネットマグナム》」

 リボルバーを放つと、スズメバチとなった弾丸が触手を貫いた。 だがそこにはリリーエ副隊長はいない。 すると触手を使って上にすこし浮いているリリーエ副隊長がいた。

「外れ、おしかったわ。 その弾丸当たったら致命傷ね」

(くっ、手の内を知られた! 誘われたのか!)

「その威力は危険ね」

 何本もの触手がこちらに向かってくる。

『私を忘れるなよ! 彷徨える魂よ、我が声に答えよ! 骸黒豹《デッドバディパンサー》!』

 ミーシャがクロヒョウとなり、リリーエ副隊長にむかう。

「なに!? ヒョウに! くっ!」

 リリーエ副隊長は触手を壁にする。

『彷徨える魂よ、我が声に答えよ! 【甲虫角爪】《ライノセサスビートルクロー》!』

 銀色のカブトムシがミーシャの前足にくっつくと、その角が爪のようになる。 振り下ろされた爪は容易く触手をきりさき、リリーエ副隊長を切った。

「きゃああああ!!」

 リリーエ副隊長は地面を滑る。

「もう戦えませんよ。 リリーエ副隊長、投降を」

 ぼくは銃を構えながら近づく。

「ふ、ふふふっ、あはははははっ! どうせ破滅するなら...... 彷徨える魂よ、我が声に答えよ! 【大王烏賊】《ジャイアントスクイード》」

 リリーエ副隊長の下半身から何本もの触手がのび、その体を浮かせる。 その姿はタコやイカのようだ。

「そんな体にディシーストを!! そんなことをすれば元に戻れない!」

「投降しても死罪は確定、帝国に戻っても任務失敗で死刑...... どちらにしても死ぬなら同じことでしょう!」

 その触手は振り下ろされ、かわすと地面をえぐった。

『なんて威力だ! 直撃すると死ぬぞ!』

 何本もの触手が振り回される。

「ぐふっ!」

 盾で防ぐも簡単に吹き飛ばされ、家に叩きつけられた。

(くっ! なんだあの触腕の筋力! これをかわし続けるのは無理だ! 頭か心臓を狙うしかない!)

「させないわよ!」

 無数の触手がぼくとミーシャをうちすえる。

「逃げられない...... なんとか隙を!」

『こいつ! 攻撃する暇を与えない!』

「はははははっ! ここで住民を殺せるだけ殺しておくわ! そしてやつも!」

「やめろ。 リリーエ」

 そのとき、後ろから声がした。
 
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