ケットシーの異世界生活

曇天

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第十六話

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「なにも起きず朝になったか」

「ええ、襲ってはきませんでしたね」

 店まで帰り朝になって、警戒していたぼくとサリエさんはほっと一息つく。

 子供たちはこむぎと遊びつかれて一緒に寝ている。

 パンを焼き、サリエさんと子供たちと食べた。

 しばらくしてリディオラさんが店にきた。

「なるほど...... それは魔力と姿を消す魔鉱石ですか、それで刺客は」

「サリエさんがけがを治して放置しました」

「わかりました。 私はすぐ城に戻り、王女に報告と騎士団を動かしましょう」
 
 そういうと、リディオラさんは帰っていった。


 昼頃、リディオラさんがきた。

「やはり、いなかったですか......」

「ええ、それどころか教会が燃やされ形もありません」

「......そんな、教会が......」

 サリエさんが愕然としている。

「......証拠を消したのか」

「ええ、死体もなかったので、あなた方のいっていた刺客はつれていかれたのでしょう」

「それはほっとしました」

「でもこれではバルデスの追求はむずかしくなりました」

 そうリディオラさんがいうと、サリエさんのほうをみた。

「やはり、あなたに証言してもらうしかなさそうですね」

「......ええ、そのつもりです。 しかし、子供たちが......」

 こむぎと遊んでいる子供たちをみる。

「でもリディオラさん。 バルデスが認めるでしょうか。 知らないといわれたら、それまでですよね」

 ぼくは気になってることをきいた。

「......正直、そこなんです。 あなたが薬を渡したという証拠もなく。 更に彼には大商人という地位もあり、多くの貴族とも懇意にしている。 完全におい詰められるかといわれれば......」

 リディオラさんの表情がくもる。

「だから教会を燃やしただけで、襲ってこなかったのかも。 こんなことなら男の一人を捕まえておくべきだった」

「すみません。 私が回復させてしまいました」

 サリエさんがあやまった。

「それはかまわないです。 あのままだと出血で死んでしまったかもしれないですし...... ぼくもそうしてもらって助かりました。 ただこれからどうするか」

「それについては、王女からサリエさんと子供たちを城に保護するとのことです」
 
「本当ですか! それは助かります」

「ただ、あなたには調査を継続してほしいと」

「......ですね。 このまま放置してたら、またサリエさんに薬をつくらせるでしょうし...... 子供たちも危ない。 とはいえぼくのことは知られてしまいました。 ケットシーなんて珍しいし、すぐばれてしまう」

「ええ、そこで、こむぎさんも城に預かるとのこと、一時お店は閉めて城より調査をお願いします」

「......しかたないか」

 リディオラさんの話を聞いて城へとむかった。


「よくきたわね。 本来なら枕として迎えるんだけど、バルデスの方がさき、今はこむぎで我慢するわ」 
 
 そういってアシュテア王女はこむぎにうずもれながらいった。

「ピィ?」

「王女さま...... わたしは」

 そうサリエさんは、なにかいいかけたがとめた。

「......ええ、あなたのしたことは罪ね。 ただバルデス同様、その証拠もない。 罪には問いません。 今は子供たちのことを考えなさい」

「は、はい」

 王女はそういいほほえむと、サリエさんは頭を深く下げた。

(いい王女さまだ...... ただこちらをみて、ずっと手をわきわきさせているのがとても気にかかる)

「でも王女、バルデスは警戒して迂闊《うかつ》には動かないはず、証拠をつかむのはむずかしいのでは......」

「そうね。 サリエ、あなたのつくった薬、なんのためにつかうか。 知ってるかしら」

「えっ、そうですね。 回復魔法を使うものにつかうから、魔力を高める薬をつくれるかと最初持ちかけられました。 大商人だったので、最初は疑うこともなく依頼をうけてしまったのです。 ちょうど国からの支援が途切れて困っていたところで......」

「国から支援...... それはいつ頃かしら」

「えっと、確か三ヶ月ほどまえ......」

「それで国にはいわなかったのですか?」

「いいました。 手紙もだしましたし、でもなしのつぶてで......」

「わかったわ。 取りあえずあなたは子供たちのそばにいなさい」

「は、はい、では」

 サリエさんは礼をすると部屋をでていった。

「おかしいですね」

「ええ」

 二人がそういっている。

「おかしい?」

「国への陳情にそんな話はなかった。 教会への支援を停止したなんて話もきいてないわ......」

 王女が腕組みしたまま、こむぎのなかへめりこんでいく。

「ぷはっ!」

「もう、なにをしておられるのですか!」

 リディオラさんが王女を引っ張りだした。

「とにかく、ここにくるまでに誰かが握りつぶした。 しかもそのとき、バルデスが話をもっていった」

「なんか都合がいいですね」

「どうやら、貴族も噛んでるみたいね...... 薬のことはもういいわ。 それよりバルデスが誰と繋がってるかを調べてちょうだい」

 真剣な顔で王女はそう命じた。
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