興国口碑《こうこくこうひ》

曇天

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第二十五話

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 目を開けると、さっきの御魂社のある洞窟にいた。

「ふぅ、なんとか契約できたな。 他のものは」

 洞窟を戻り分かれ道まで戻ると、向こうから風貴と暁真、蒼姫がほぼ同時に向かってくる。

「天陽さま! ご無事ですか!」

 そうふらふらと風貴は歩いてくる。

「いや、風貴が平気なのか」

「ええ、少々手こずりまして......」

 疲労困憊の様子で風貴はこたえた。 

「こっちもだ...... なんとか契約まで持ち込めたが、死にかけた」

「ええ、ここまできついとは...... 前よりかなり苦しんだわ」

 暁真と蒼姫も同様に疲れはてている。 三人ともたつのもやっといった感じだ。

(坐君は手に入れるほど、より強い心を欲するものが現れる...... だから複数のものを手に入れるのは、かなりの危険を覚悟せねばならない。 しかしこれで足りてるとも思えぬ。 私はあと何度契約できるのか......)

「......取りあえず、一度休憩しよう」

 私たちは洞窟をでて、兵士たちの宿舎に泊めてもらった。


「皆、少しは回復したか......」

「そうね。 体力だけなら...... 契約する自信があったけど、さすがに厳しかったわね」

「それでこれからどうされます天陽さま」

 風貴に言われ考える。

「上雲州にむかいたい」

「上雲州...... 滅ぼされた州、あそこは飢君の巣、命空《みことうろ》になっているときくぞ」

 暁真は怪訝な顔をした。

「ああ、いま一度見ておきたい...... 少し危険だがよいか」

「ええ、私も新しい坐君を得た、きっと飢君とも戦えるわ」

「ですね。 我らも強くなっているはず」

「まあいい。 おまえがいくならばついていってやる」

 私たちは白銀の国から上雲州へむかうことにした。


「おかえりなさいませ。 天陽さま」

 白銀の国の夕顔にはいると夕凪が迎えてくれそういった。 事前に向かうと文をだしていた。

「ああ、これから上雲州へと向かってみる」

「あそこに...... ですか」

 少し戸惑うように夕凪は言った。

「もう一度あのときとむかいあわねばならぬ」

「......そうですね。 あの場所はまさしくこの世の写しかがみのようなもの。 それがようございます。 それで......」

 その時奥より、艶やかな着物姿の流雅が歩いてきた。

「お待ちしておりました天陽さま」

「流雅、元気だったか」

「ええ、子供たちも落ち着きましたので、私も同行したいと申します」

「ねぇ、この子誰?」

 蒼姫が不思議そうに聞いた。

「ああ、蒼姫、彼女は我らとの志しをともにする流雅だ」

「りゅう...... えっ!? あのりゅうが! 博士、りゅうが!?」

「はい、お見知りおきを、蒼姫さま」

 そう驚いている蒼姫に流雅は微笑んだ。


 それから少し流雅に美染の国であったことを話した。

「なんと...... そのようなことが」

 夕凪は考え込む。

「生け贄と古えの儀式、それに異蝕ですか......」

「知っているか流雅。 私も聞いたことはない」

「古き文献にその名が......  どのような異能があるかはわかりませんが、ゆめゆめこの世によんではならぬという文言が添えてありました」

「ゆめゆめこの世によんではならぬか......」

「......そのような異物を呼ぼうとしたものがいた。 我らよりその力に詳しいのやも知れませぬな。 それに各国で失踪のようなことがおこっている」

 そう夕凪は眉をひそめ答える。

「ゆえに夕凪は、天房さまにこのことをつたえておいてほしい」

「御意」

 夕凪はそういって浅伎に任せ部屋をでた。

「我らも旅の途中、調べて参りましょう」

「ああ、そうだな。 あのまま終わるとは思えねえ」

「ええ」

「では皆さま今日はこちらにお泊まりになって、明日出立なさいませ」

 浅伎はそういってくれた。


「ここが、上雲州の【血炎の地】《けつえんのち》か......」

 暁真が峠からみえる広大な平地をみていう。

「なにもないわね。 砂漠でもないのに木の一本、虫一匹すらいない」

 蒼姫も荒涼とした大地を歩きながらいった。

「ああ、かつての荒河の国がこの地を蹂躙し、天沼の国が救援に向かうが、結果、この地は草木すら生えない不毛の大地【命空】となった...... さらに......」

「きます! 飢君です」

 風貴がいうと空から無数の金色の魚が飛来する。

「【金鯉】《こんり》の外皮は金属のように硬い、どうするか。 やり過ごす手もあるが...... 前から飢君が現れたら挟まれるな」

「なら、おれが試してみるぜ。 おまえらは離れてな」

 暁真が前にでる。

「砕け!【灼耶】《しゃっか》!」

 影からでた無数の赤い鱗のようなものが、暁真の腕にまとわりつき、小手のようになった。

 こちらをみて、降り注ぐように落ち地面をえぐる金鯉に向かっていき、それらを拳で叩くと金鯉は爆発した。

「すごい! あの金鯉を!」

「ああ、あの固い体を吹き飛ばしている」
 
 蒼姫と風貴は驚いている。

「ああ、あれは【破鱗】《はりん》鱗のような体に触れたものを爆破する坐君だ」

 すべての金鯉をふきとばすと、暁真から鱗が剥がれ消えていった。

「ふぅ、やったか」

「破鱗か、かなり固硬くてつよく。 契約も難しいと聞くが」

「ああ、あまりにも固すぎて、なんども死にかけたぜ」

 私にそう暁真は笑った。
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