興国口碑《こうこくこうひ》

曇天

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第四十七話

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 蒼姫は夕日が指す屋敷から窓の外をただ見つめていた。 それは心ここにあらずといった風に見えた。

「蒼姫、なにかあったのか」

「ん、別になにも......」

 私は隣に正座して向き合う。

「本当に別になにもないわ」

「......私はそなたに救われている。 なのにそなたは私に相談をしてくれはしないのか」

 そうとうと蒼姫は少し躊躇したが口を開いた。

「......ただ、どうしようもないことがあるだけ」

「なにがあった」

「......紅姫ねえさまに縁談がきているの」

「ふむ。 縁談...... まあ紅姫さまも婿を取ってもおかしくはないが、それが嫌なのか」

「相手よ。 相手は仄火の国の主座【篝】《かがり》なの」

「......仄火、それは......」

(元々主座候補末席だったのに、兄や叔父たちが次々死去してその座についたと...... その国の主座)

「そう政略結婚、美染の国を落とせないと知った仄火は国ごと取り込もうとしている」

「だろうな。 しかし紅姫さまならそのこともご承知のはず」

「ええ、だからよ。 ねえさまは国のことを自分より優先する。 侵略をうける可能性を減らすならば、この婚姻を結ぶはず」

「......ふむ、あり得る話だ。 主座ならば自国のためにそのような選択をしような」

「天陽もそう思うのね...... ねえさまは生まれてからずっと国に縛られている。 私は自由に動いているのに......」

 そううつむく。

(やはり後ろめたさがあるのか......)

「一応話だけでも聞きに行ってみるか。 私も国のことをお話ししたいと思っていたところだ」

「そうね。 話しを聞いてみましょう」

 私たちは紅姫さまに会うために美染の国へと向かうことにした。


「これは。 わざわざきていただき誠にありがとうございます、天陽どの」

 そう紅姫さまはいつものように微笑をたたえる。

「いえ、国となったあかつきには、美染の国とのより良き関係をお願いしたく馳せ参じたまでです」

 そう礼をした。 蒼姫はなにも言わず黙っているが、手を強く握っている。

(仕方ないな......)

「時に紅姫さま。 ぶしつけながらお聞きします。 紅姫さまに縁談の話が参ってるご様子」

「......はい。 左様です。 仄火の国から縁談の申し出がありました」

 紅姫は特に表情もかえることなくそう答えた。

「我らは美染の国と友好関係を結んでおります。 仄火の国は強国、我らにも無関係とはいかないかと......」

「そうですわね。 仄火の国がこの国を取り込もうとしているのは明らか、しかしそれで戦などが減ればこれもせんなきこと、そちらに影響のでないようにと考えております」

 紅姫さまの表情が少しくもる。

「何かご懸念でも」

「............」

 少し沈黙がある。 その時兵士が側近である【綾】《あや》どのに何事か伝えた。

「紅姫さま。 篝さまがおみえです」

 そう綾は告げた。  

(本人が...... 縁談の会談に)

「では我らは......」

「いえ、同席していただけますか。 蒼姫も」

「わかりました」

 私たちは会談に同席することになった。


「お初にお目にかかる仄火の国、主座、篝と申します」

 そう丁寧に若い男がいう。 年は二十歳前後、整った顔立ちで、髪は銀、その風貌はとても爽やかにみえた。

(この人物が篝......)

「して、このかたがたは?」

「私の友人である天沼の国前主座の子息、天陽さまと妹、蒼姫です」

 そう紅姫さまは紹介する。

「お初にお目にかかる。 天陽と申します」

「おお! あの天陽さまですか! 聞いておりますとも、確か荒河の国との戦いで戦に多大な貢献をされたとか」

「いいえ、ただ叔父である主座の手伝いをしたまで」

「いえいえ、話しには聞いていたのです。 天沼の国とも誼《よしみ》を通じたいと思っていたところ。 これは天祐ですね」

 そう笑ったが、その表情からは特に嫌な感情は感じない。

(......策謀のようなものは感じない。 ただこの国との融和を望んでいるだけか。 主座隣国との関係を重視するのは自然なことだが)

「時に紅姫さま。 私のお話、聞いていただけたと思いますが」

「ええ、ですがこれは国が関わること、早計に話を進められるわけではありません」

「でしょうね。 もちろん催促しているわけではありません。 しかし私の方がそれを望んでいるとお伝えしたくて参りました」

 そう笑顔で答える。

(今のところ不審さは感じられぬが、ただなにか引っ掛かる...... なんだこの感覚は)

「篝さま。 もし私があなたとの婚姻を承諾したならば、他国の領土を保全していただけますか?」

 そう紅姫さまがいうと、一瞬間をおいて。

「......ええ、もちろん」

 そういって微笑む。 そして一通りたわいない話をすると篝は帰っていった。
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