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第十二話

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 いくつか依頼を終えると、そのお金で衣服などを大量にかい拠点へと帰り、みんなに服を着させた。  

「さあ、最後の依頼だね」

「いいけど、リンなんでその依頼を受けたんだ? それより高額なものもあっただろ」

 アエルが不思議そうにきいた。

「ええ、だけど依頼者が気になって」

「依頼者...... マムラの話では、町がなくなって住むところを失った職人ギルドの者たちだったな...... 職人、まさか」

「ええ、うまくすれば私たちの拠点に迎え入れられる。 もし無理でも角さえ隠せば技術を教えてもらえるかもしれない。 だから先にみんなの角を消しておいたんだ」

「なるほどな......」

 もう一度転移し、私たちは依頼者のもとに向かった。


「ここか......」

 そこは町の奥、掘っ立て小屋が立ち並ぶ。 スラム化した場所だった。

「かなり、ひどい。 人間の世界にもこういうところはあるんだな」

 アエルが眉をひそめていう。

 指定された場所へと路地のような細い道を進む。 他の建物よりましな外観の少し大きな建物がある。

 中に入ると、大勢の者たちがうつむくように座っている。

「あんたたちが冒険者か」

 背は低いが体格のいい、中年の男性が話しかけてきた。 

「そうですが、あなたがダルドンさんですか?」

「なっ! 頭に声、魔法か...... ああ、そうだ。 まあ座ってくれ」

 ダンドンさんは厳しい顔のままそう答える。 私たちは自分達を紹介すると、少し落ち込んでいるようだ。

(まあ、子供二人ではそうなるか...... ただもともと何か諦めているような風でもある)

「それでご依頼はなんですか?」

「ふむ...... 実は俺たちの町ナーフがなくなったのは聞いているか」

「ええ、いくつかの町がモンスターの襲撃をというのは聞いてます」

「そこを取り戻して欲しいといったら、受けてくれるか」

 そうこちらをうかがうようにダルドンさんはいうと、多額のお金らしきものが入った袋を机においた。

「無理ですね」

「ふぅ、やはりか......」

 ダルドンさんは深いため息をついた。

「取り戻すだけならできるんじゃないか」

 アエルがその様子をみて気の毒に思ったのか、そういう。

「取り戻すだけならね。 でもその町を維持しないといけない。 壊れた建物や壁の補修や修理する期間の防衛、並大抵のお金じゃ無理」

「そうだな...... 他の冒険者も受けてはくれなかった。 ......みんなから金を集めたんだが、これ以上は無理だ。 やはり職人から足を洗って、他の仕事を探すしかあるまい」

 ダルドンさんは覚悟していたのか、すぐに受け入れた。

「ここで状況をたてなおせないんですか?」

「ここも、不法占拠している状態でな。 しかもこの町にも職人はいるから、ここで商売をすると大きな摩擦をうむ。 まず国が認めんだろうな」

「なるほど......」

 アエルをみるとうなづいた。

「どこでもいいというなら、仕事でき住む場所のあてがあるにはありますが......」

「本当か! 住んで仕事ができるのか!」

 ダルドンさんがくいぎみで腰を上げた。 周囲のものたちもざわつく。

「ええ、ですが、問題もあります」

「何でもいい! このまま仕事もせず生きてはいけん! 教えてくれ!」

「わかりました。 まずダルドンさんだけでおつれしましょう」

 外に連れ出し、ダルドンさんに目をつぶってもらうと、拠点へと【瞬間移動】《テレポート》した。


「なっ!? ここは!」

 私たちの拠点をみてダルドンさんは驚いている。

「私の転移魔法です」

「そんな魔法が...... だが、きれいな建物だが、組み方がなっちゃいねえな」

 建物をみながらダルドンさんはそういった。

「ええ、正直見よう見まねで、魔法で作ったものなので」

「あんたが建てたのか...... ふむ、魔法か。 住むだけなら上出来だが...... それで何が問題なんだ」

「ここにいる人たちなんです」

「人? 普通だがな......」

「彼らはゼヌエラの難民なのです」

(魔族よりは受け入れやすいだろう)

「なっ! ゼヌエラの...... かくまっているのか」

「ええ、それであまり知られたくないんです。 もし外の人間にばれると迫害や差別を受けかねない」

「確かにな...... 最悪、国から追放されかねん」

 そうつぶやくと考えている。

「それで、俺たちもここにすめるというわけか?」

「ええ、ただし、ここのことは口外しないこと、あとは彼らは技能がありません。 彼らに技能を教えてもらうことが条件になります」

「もちろんかまわん! 俺たちもここにいる人たちと同じだからな。
仲間も職人だから口も固い!」

 そう興奮気味でダルドンさんは答えた。 

(確かに本当のことをいっている。 なら大丈夫)

「わかりました。 一週間ほど少し準備をするので、用意だけしておいてください」

 そう伝えダルドンさんを町に戻した。
 
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