罪咎《ざいきゅう》の転移者 ~私の罪と世界の咎~

曇天

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第五十話

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「ここは古代人の町、いや世界だ......」

 ゼフォレイドはそういって歩きだす。 そこには車やロボットが死んだように止まっている。

(これは現代の町、いや違う。 私のいた時代より、さらに未来のよう)

「ここは、どう考えてもこの世界の文明とは違う」 
 
 セリナはそういった。

「そうだな...... 古代人はこの文明を嫌って捨てさったからな」 

(嫌って捨てた......)

 ひと一人いない静寂の町を私たちは歩く。

「つまり、誰もいないのか」

 アエルがゼフォレイドに聞いた。

「ああ、ここからでて人間の世界をつくったという」

「こんなに発達しているのに、なぜなの?」 

「......こんなに発達したからだ」

 ケイレスにゼフォレイドはそうこたえる。

「意味がわからないですね。 モンスターすら来ないここなら、平和に暮らせるでしょう?」

 レイエルが首をふる。

「そのモンスターすら、ここにいたものたちがつくったものだ」

 ゼフォレイドの言葉にみんなが驚く。

「モンスターが人間につくられたというの!」

 アストエルがそう声をあげる。

「......ああ、それをこれから見せよう」

(なにを見せるつもりだ......)

 大きな中央にあるドーム状の建物に私たちは入っていった。


「なにもない」

 そこはサッカースタジアムのような広さで、なにもない。

「待っていろ」

 そういうと、ゼフォレイドは空間に両手をのせる。 するとドーム内は暗くなり空中に何枚もの映像が浮かぶ。

「これは魔法か......」

 アエルが驚いて、私の後ろに隠れた。

(違う...... これはホログラム)

 映像には見慣れた町並みがうつる。 それは私の知る現代の都市の映像だった。 しかし、一人が苦しみ出すと、大勢の人びとが苦しみそれが伝播していく。

「これは......」

「かつて、この文明が世界にあった。 しかしそこで疫病がおこった。 その疫病は瞬く間にこの世界を包み、なす術もなかった。
そして多くの国が滅び、人々のほとんどが死ぬことになる」

 そうゼフォレイドは映像をみながら話した。

(それって......)

「それならここは?」

「ここは、その文明の者たちが一部退避した閉ざされた町、世界の有力者たちの親族がこもった場所だ」

 そうケイレスのといにゼフォレイドは答えた。

「自分たちだけということですか......」

 レイエルは眉をひそめる。

「そうだ。 あの病は、どこかの国が作り出した細菌生物による疫病だった」

(そういうことか......)

 死んでいく都市や人を映像はとり続けている。

「それで、そのあと人間たちはどうしたのですの?」

 アストエルは怪訝そうに聞いた。

「この事実をここにすんだ人間たちは受け入れられなかったのだ。
自分たちだけが助かり、生き延びたことを恥じた。 そして時間がたつにつれ罪の重さから自殺者や心の病をはっするものが現れた」

「罪悪感か......」

 セリナにいわれ、ゼフォレイドはうなづく。

「......そう。 そこでここにいたものたちはその重さに耐えられず、ついにはある手段をとる。 わかるか......」

 そういってゼフォレイドは私をみつめる。

「世界を変えたのね......」

「そうだ。 いままでの科学文明を捨てさり、新たな文明を起こそうとした。 自らの記憶を封印することにしてな......」

 そういうと、ゼフォレイドは画面を切り替えた。

 そこにはある機械の設計図らしきものが写る。

「これは......」

「最後にこれを開発した。 人の目には見えない小さな小さな機械だ。 これを使い世界に広がる細菌を除去した」

「それで病をなくして外にでたの?」

「それだけじゃない。 文明のない世界で生きていくのは困難だった。 だから生きられるように作り出した。 これは我々が魔素と呼ぶものの正体だ」

「魔素が機械!?」

 アエルが驚きの声をあげる。

「やはり、魔法は......」

「そうだ。 魔法はこの機械に命令して起こしている」

(魔法はプログラムで発動するものだったのか......)

「そして魔法文明へと向かったのだ」

「それならモンスターは一体......」

「科学文明に向かう可能性を排除するため、人間がある一定数になったり文化を進めるのを阻止するために、この機械が生物を加工してつくった存在だ」

 ケイレスにゼフォレイドがこたえる。 

「魔族もですか......」

 レイエルがきく。

「そう魔族は仮想敵だ。 人間同士の争いは科学文明を生み出し、あの疫病を生み出した。 だからそれを避けるために人間の敵対者をつくりだしたのだ」

「それが魔族か...... それで獣のように攻撃的だったのですわね」

 画面をにらみながらアストエルはいった。

「しかし誤算があった」

「誤算......」

「世代を越えるごとに感情や欲望を増大させるための角が小さくなっていき、理性をもつものがふえた」

「さっきいっていた所詮人間といったのはその事だったの」

「ああ、人間をいくら人為的に加工しても、いずれ理性が備わるということだろうな」

「ということは勇者は魔族への対抗処置か」

 セリナがうなづいていう。

「そうだ。 魔族は人間より魔素の力で肉体を改造されている。 そして我々勇者は魔族に滅ぼされないように人間を守るためにつくられる」

「聖剣は?」

「あれを抜いたものの魔素に働きかけ強化させ勇者とする。 そういう装置が大聖堂にある。 こんなふうにな」

 画面に聖剣ができていく過程がうつる。

(なるほど、それで誰の思念も感じなかったのか)

「どうやって選ばれるの?」

「単純に体内の魔素量の多いものだ。 あらゆるもののなかに魔素がある。 それらを体内に取り込んでいる。 海以外はな」

(なるほど、私はここに突然来た。 だから魔素があまり体内にないから選ばれなかったのか)

「それであなたはなぜ人間を滅ぼそうとしたのですか?」

 レイエルはそうきいた。

「本来勇者となれば廃人となるはずだったが、私は完全に脳まで改造されるまでに、聖剣を腕ごときられたため、不完全だった。 幾度も死のうとしたが、回復してしまう」

(不完全な存在......)

「それで人類に復讐か」  

 セリナは目を伏せる。

「いいや救いだ。 いずれこのまま変異を続ければ人間も魔族もこの事を知ることになる。 この事実を知ってなお生き続けるのは苦痛だろう」

「それを知らせないため、それが救い......」

 アストエルはそういって画面を見つめている。

「ああ、理性を持ちつつあった魔族によって人間を滅ぼし、そして魔族を勇者たちに滅ぼさせようとおもった。 不死となった私にできることはそれだけだったからな」

「それであなたは一生一人、罪を背負っていきるつもりだったの......」

 ケイレスは悲しげにそういう。

「......だれかが、罪を知らねばならないだろう。 だから古代人もこの映像や文物をのこし、魔素を狂わせる装置、記憶を戻す薬をつくったものもいた。 だが、お前たちがそれを失わせた。 魔族の理性が戻り、もはや勇者も必要なくなった......」

「......滅びを選ぶのは記憶を失い逃げたものたちと同じではないのか」

 いままで黙って、話を聞いていたアエルが静かにそういった。

「そうだな...... しかし自らの生存のため、多くの人々をみすて、あまつさえ文明すらなきものにし、人間を加工したものの末裔として、これから生きていけるのか?」

 そうアエルにゼフォレイドがいう。

「......人間は正当化して、この先もそうやって生きていくだけ......」

 私がいうと、ゼフォレイドは目を閉じる。

「......君は生きてせいぜい十数年だろう。 なぜそういいきれる」

 怪訝そうにゼフォレイドが私に問う。

(この人は純粋すぎたのか...... 人類、世界の罪を自分の罪としている。 だけど......)
 
「そういう歴史を知っているから......」

 私は自分が何者かここで話すことにした。
 
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