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第二十九話

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「トラ...... トラ」

「は、はひ...... 天使」     

 オレが目を覚ますと、よくみるとそこにクエリアの姿があった。

「何いってんのよ! さっさと目を覚ましなさいよ!」 

「いたっ!」 

 マゼルダにけっとばされた。 周囲にはワーキャットのファガー、トロールのバイエム、オークのブルル、そしてクエリア、マティナスがいる。

「ここは......」

「魔王島です。 どうやら魔力暴走のしすぎで、魔力の流れがおかしくなり一週間ほど眠っていたのです」  

 ブルルがそういう。

「それはフィニシスオーバーだ」

 肉にかぶりついていたマティナスがそういった。

「フィニシスオーバー?」

「ふむ、感情から魔力を生み出す力のことだ」

「それでオレはあんな力が出せるのか」

「だが、本来、感情なんてものそう易々と制御はできん。 大抵荒れ狂う奔流となった感情に押し流され制御不能になる。 お前は特別だ。 勇者とて神の力で制御していたからな」

「......まあ、オレもそうだった。 いや、今も気を抜くと持ってかれそうになる...... ていうか、普通にいんのなマティナス」

「お前が言っていることの真偽を確かめにきたのだ。 モンスターの共存とやらをな。 お前がそう言ったであろう」

「ちゃんとやってんだろ」

「ああ、信じがたいがモンスターと共存しておる......」

「まあね。 調停者たる私がいるからね!」

「お前は食っちゃ寝、食っちゃ寝、してるだけだろ!」

 オレとマゼルダのそのやりとりを見ていたマティナスは語り出した。

「モンスターとは本能のかたまり、フィニシスオーバーのように、欲望を魔力にかえ生きておる」

「なにそれ? モンスターが魔力暴走してるってこと」

「うむ、ここのモンスターは今それを行っておらん。 だから共に生きられるのだろう」

「それは、本能をある程度制御できてるということですかな?」

 バイエムの疑問にマティナスはうなづく。

「おそらくな......」

「それはトラがモンスターテイムの力で契約したから、制御出来てるんじゃないの?」

 マゼルダがそういうと、マティナスが考えている。

「モンスターテイム...... かつての勇者グランディオスと同じ力か......」

「そうなの?」

「ああ、神より与えられしその力ゆえ、グランディオスは勇者となれたのだ」

 マティナスは厳しい顔で考え込んでいる。

(ええー、なにー? この緊張感......)

「しかし、必ずしもよきことではなかった...... 少なくともグランディオスにとっては......」

「は? なんで?」

「あやつはワイエラン王国の王子だった。 しかし魔王討伐後、帝国を作り上げた......」

「ああ、そう聞いている......」

 クエリアはそう不安そうにきいた。 おそらくはいいことではないとマティナスが言ったからだろう。
 
「ワイエランはそのあとに滅んだからだ......」

「えっ? どういうこと?」

「魔王の脅威がなくなったあと、モンスターを仲間とするグランディオスは敵意を向けられた。 魔王になるのではないか、又は魔王と結託していたのではないかとな」

「そんな話聞いたことは......」

 クエリアは唖然としている。

「......ワイエランは小国だった。 グランディオスと私たちがアンデッドと化した王国の救助にいった間に、他国により滅ぼされたのだ。 生き残りも少なく...... 妻さえも失った」

 マティナスは静かにそういう。

「ひでえな。 アンデッドの王国...... それってゼーサライか、それでそのあとグランディオスはどうしたんだ?」

「暴走した...... 神より与えられた神器は、魔王との戦いで壊れたため、感情の制御が出来なくなった。 そして暴れまわり多くの国を滅ぼした」

「そんな歴史はしらない......」

 クエリアがそういうと、マティナスはうなづいた。

「グランディオスが記憶を消し去った。 自我を取り戻し、自らの行為に愕然としたグランディオスは人々をあつめ、滅ぼした地に帝国を建国した」

「それが帝国建国のお話ですか、人間たちの歴史もずいぶん壮絶ですな」

 ファガーはそういって腕を組んだ。

「でも、オレは神器とかなくても、制御出来てるから大丈夫」

「それは制御出来うるレベルの力しか使ってないからだろうな」

(確かにサキュバスに最初の居住地を襲われたとき、オレは感情を制御できず暴走したからな。 あのときは誰も死んでなかったけど、国が滅んだら、制御不能になるのかも......)

「それでグランディオスはそのあと死んだの?」

「魔王を倒したことで神から啓示があり、姿を消した」

 マティナスの言葉にクエリアもうなづいた。

「帝国の書物にもそうある。 神の恩寵を預り天に召されたとな」

「がっつり死んでんじゃん。 でその神ってなんなんだ?」

「デュワルマキナ、この世界を管理すると言われる根源の神、魔法の神っていわれてるわ」

 そうマゼルダが説明してくれる。
 
(でもあの狭間のじーちゃん、神なんていないっていったしな...... どういうこと?)

「マティナス、それでオレたちは魔王城にすんでもいいのか」

「ああ、お前ならばよかろう」

「よし! じゃあ、あちらにも人材を送り開拓させよう! それでオレたち以外はどうなっている?」

「交易の方は順調です。 船舶も増やしここでとれる食材、衣服、武具、調度品などを取引してかなりの売り上げを誇ります」

 マリークはそういうと、ブルルはうなづく。

「しかし、オーガの方に向かった方々が、帰ってこないのです...... そこでギュレルさまが向かっております」

 そうブルルが不安そうにいった。
 
「ミリエルたちか...... いくか、マティナスは魔王城に人材や資材を運んでくれるか」

「いいだろう。 我もいく場所もないのでな」

 オレたちは、ミリエルたちを探すため、北のトリエン大陸へ向かって船を出した。

 
「しかし、みんなが帰ってこないなんておかしいな。 いくら遠くてももう帰ってきてもいいはずだ」

「オーガの説得に手間取ってるのか?」

 クエリアがそういった。

「みんなやられちゃったとか?」

 マゼルダがオレの頭の上に座って、足をプラプラさせながら言った。

「ありえんだろ。 わーちゃん、ミリエル、ルキナ、バスケス、更にギュレルだぞ」

「ふむ、確かに戦うならば単純に国家並みの戦力が必要だろうな。 常識なら倒されるとは考えられないな」

「そ、そんなにあいつら強いの」

 マゼルダは身を乗り出している。

「ああ、わーちゃんどのはリッチで強力な闇魔法の使い手、ミリエルは光と神聖魔法、ルキナどのはワーレパード、そしてスケルトンジェネラルのバスケスどの、あとはミリエルについているマジックイーターのイータどの、あおまるどの、バッタンどの、ポイルどのもいるしな」

 クエリアはそういうと考えている。


 三週間ほどかかり大陸についた。 

「おい、あれうちの船だ」

 沖に止まる船に向かう。 中にはミラーエイプたちがいる。 

「大丈夫か」

「あっ! トラじゃん!」

「ほんとトラ」

 ピクシーたちが飛んできた。

「あんたら、こんなところにいたの?」

「マゼルダ! そうそう、退屈しのぎでついてきたの。 そしたらさ、ミリエルたちが帰ってこなくて困っちゃった」

「やはり帰ってないか。 どこかに行くって行ってなかったか」

「うーん、わーちゃんが、これからさらに北にあるエルフの王国あとに行くから、帰ってこなかったら一度魔王島に帰れって、でもこの子たちがかえろうとしなから、ここにいたのよ」

 ピクシーのミラとらララがミラーエイプの頭にのってそういった。

「そうか、食料はあったのか」

「ええ、大量に乗っけてきたからね。 でも保存食はあきちゃった。 オークのご飯が食べたい」

「ねーー」

 ピクシーたちはそういって、空中でバタバタしている。 それをみてミラーエイプたちはため息をついている。

(結構大変だったんだなミラーエイプ......)

「わかった。 あとはオレたちに任せて、お前たちは魔王島に戻っといてくれ」

「あーい」

 そういうと、ミラーエイプたちとピクシーたちは船を出向していった。

「やはり帰ってないか、一度港にはいって、エルフの王国跡の情報を得よう」

 そして町にはいり酒場へと向かう。

「いらっしゃい!」

 木製のカウンターにいた、恰幅のよい女性がそういった。

「あの、一ヶ月ぐらい前、ここに女の子二人と全身鎧の男とヤバい魔法使いきませんでした」

「ああ、きたよ、 確かエルフの王国跡がどこかって聞いてきたね。 目立ったからよく覚えてるわ」

「そうですか、それでその場所は」

「あんたらも行くつもりかい? あそこはダメだ。 やめときなってあの人たちにもいったんだけどね」

「どうしてだ?」

 クエリアの言葉で少し沈黙したのち、その口を開いた。

「......エルフの王国跡にはモンスターが出るのさ」

「ああ、オーガがいるって聞いたけど、そんなに危険なの?」

「いいや、オーガは人に危害を加えたりはしないよ。 逃げていくだけさ」

「じゃあ、なにがいるんだ?」

 クエリアが聞くと、真剣な顔で店主は呟く。

「ヴァンパイアさ」


 オレたちはエルフの王国跡があるという、モリエンティ大森林へと向かっていた。

「ヴァンパイアか......」

「ならばミリエルたちが、何らかの危険な状況になっている可能性も否定できなくなったな......」

 クエリアが眉をひそめる。

「まさかヴァンパイアなんて...... 私的ヤバいモンスター最強よ」 

 マゼルダはオレの服のポケットで震えている。

「お前ビビってんのかよ」

「うっさいわね! 不死、再生、闇魔法、吸血、姿をかえるなんでもありの怪物よ! 当たり前じゃない!」

「ああ、ドラゴンと並び立つ最強の種族だ」   

 クエリアはそう難しい顔をしている。

「でも、ドラゴンならオレたちは戦ってるだろ」

「ファフニールのことか、ただドラゴンはほとんど身体の力で戦うが、魔力ならヴァンパイアに分がある。 いままでのようにはいかないだろうな」

 森をしばらく歩くと、城の跡だろうか崩れた石の城壁が見えてきた。 中にはいると、その正確な区分けや残った建物の面影から、昔はかなり洗練された都市だったことがみてとれた。

「ここか...... なあこの国ってなんで捨てられたんだ。 結構大きいし、捨てる理由がないけど」

「魔王だ。 魔王に滅ぼされたと聞いている」

「またか、どんだけ攻撃してんだよ」

「この世界だいたいは魔王に支配されてたんだから、当然でしょ」

 オレの頭にのり、ぺしぺし叩きながらマゼルダはいう。

「マティナスどのの話だと、魔王も神の力を得たといっていたから、フィニシスオーバーを使っていたのではないか」 

「ということは感情が暴走して、こんなことしてたっていうのか」

 そんな話をしていると、遠くに大きな城が見える。 そして霧がでてきた

「あの酒場のおばちゃん。 霧がでて、ここに山菜採りにきたみんな姿を消したって言ってなかった」

 マゼルダがすぐポケットに隠れた。

「そういや、ここにくるまでモンスターを、全くみなかったな」 

「ああ、これはさすがにおかしい」

 オレとクエリアは剣をかまえる。

「ヴァンパイアに剣なんて効くの!? 相手は不死身なんだよ!」

 マゼルダは不安げだ。

「ヴァンパイアも吸血で魔力を得ているはず、通常の武器は効かなくても、このドワーフ製の魔法の武器なら攻撃はとおるはずだ」

 クエリアがそういう。

 城に近づくと霧が目の前が見えないほど立ち込めてきた。

「なんだ!? この霧おかしい......」

 意識がもうろうとしてきて、見るとクエリアとマゼルダが倒れていた。

「クエリア、マゼルダ、くそ......」

 薄れる意識の中で、倒れたそばに誰かが近づくのを感じて、意識が遠退いた。
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