あの約束のモンスターテイマー ~異世界転生モンスターテイム活躍譚~

曇天

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第三十五話

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「残念だけど、お父さん亡くなったな...... 辛いだろうが......」  

 皇帝死去が伝わり、暗い表情のクエリアにオレは話した。 

「......ああ、だが心配は無用だ。 あの方とは身分が違うから、ほとんどお会いしたことはない。 だからそれほどの心の痛みはないのだ」

「ですが、その、とても心配です......」

「うん、クエリア悲しそう」

 ミリエルとルキナは心配そうに聞いた。

「ああ憂いているのは、これで帰らねばならなくなったことだ...... 皇帝が亡くなったことで空位ができれば、大臣レゲンギルサが皇帝の座に座ろう。 そして戦争が始まる......」

「確かに冒険者としてだした者たちの話では、帝国が資材や食料の貯蓄を増やしているそうで、それに呼応して各国も兵力増強を行っているようですな」

 わーちゃんが補足する。

「それにともなって、各国の交易も低下しております。 急激に経済が悪化して治安、流通にも影響が出ていますね」

 マリークが資料をみながらそういった。

「これは早晩戦争がおこるのは、間違いなかろう」

 マティナスがそういうと、クエリアは拳を握る。

「そんなことはさせない! しかし......」

「心配はない。 オレたちもついていく」

「......いいのか、ここは平和になっているのに、わざわざ危険なことに近づく必要はないだろう」

「オレはここだけじゃなくて、世界も平和であって欲しい、そうしないとモンスターたちが共存できる世界なんて作れないからな」

「すまん...... たすかる」

 クエリアが頭を下げる。

「頭なんて下げるなよ。 わーちゃん、選抜してメンバーを選んでくれ」

「御意!!」

 皇帝の葬儀の日にあわせて帝国へと向かった。


「かなりの人だな」

 オレたちは帝国首都ハザーランドにいた。

「本当にあんたとクエリア、わーちゃん、スラリーニョだけでいいの?」

 マゼルダはオレのポケットからそういった。

「命を狙われたら、即座に逃げられるのはこの人数なんだよ」

「ええ、私が思い出した転移魔法はマゼルダどの、スラリーニョどの 以外だと三人が限界です。 長期詠唱できれば十人は可能なのですが......」

 わーちゃんがいうと、クエリアがうなづく。

「私が死ねば、それこそレゲンギルサの思う壺だ。 即離脱できるだけでもありがたい」 

「スラリーニョ頼むぞ。 クエリアを守ってくれ」

「ぴー!」

 服のなかに隠れているスラリーニョが答えた。

「問題ありませんマスター、スラリーニョどのはガーシオンとの戦いでミスリルスライムになっておりますゆえ」

「ミスリル、なんかゲームで出そうな単語だな」

「ゲーム? なんのゲームなんだトラどの?」

「い、いや、でそのミスリルってのは」

「ミスリルは幻の鉱物、伝説の武具なんかに使われる世界一固い金属よ」

 マゼルダがいう。

「そんなもんになってたのかスラリーニョ」

「ぴーぴー?」

「まあ、ここまで進化するスライムなどいませんからな」

「じゃあ頼むぞ。 スラリーニョ」

「ぴー!!」

「あとなにげにわーちゃんその姿......」 

 わーちゃんは人間の青年の姿となっていた。

「はい、私の若き姿を魔法イミテーションフォームで再現しました。 どうでしょうか?」

「どうもこうも、めちゃめちゃ目立ってるんだけど」

「まあ、かなりの美形だからね。 女の子たちがみんなこっちをみてるわ。 あんたは一切みられてないけど」

 マゼルダはにやついた声でいう。

「ほっとけ!」

 オレたちは集まったものたちの間を抜け、城へと向かう。 城の前も多くの人が集まっていた。

「次は皇女エクリエルさまが皇帝になられるのか」

「噂だと行方知れずというが」

「昔はよく城下町にこられていた。とても優しいお方だったが」

「しかし、おそらくはレゲンギルサさまだろうな」

「私はあの方はいやだわ。 常に厳しい顔で怖いもの」

「そうだな。 実務をとりしきってから、この国は増税ばかり、兵士の徴発も起こるし戦争するって話もある」

 そんなふうに住民たちは話していた。

(みんなそんなふうに思っているのか......)

「......どうするクエリア? 城前なら隠れないで出ていくか?」

「いや、中に入ってからだ。 大勢の臣下の前でなら、命を狙えまい。 私を支持するものたちも今だいるだろうからな」

 オレたちは魔法で姿を消し城へと侵入する。 ものものしい警備をすり抜け巨大な城の中央を進むと、広い部屋に大勢の貴族や家臣たちが集まっていた。 皆ざわざわしている。

「大勢いるな」

「ええ、各国の要人たちも集まっているようですな」

 わーちゃんがそういった。

「静粛に、葬儀の前に大臣レゲンギルサさまより、お話がございます」

 そう紹介がおり、中央に歩みでる男がいた。

「あれがレゲンギルサか意外に若いな」

「めちゃくちゃ男前じゃない」

 マゼルダはそう声をあげる。

 確かにその長身の黒髪の男は冷静そうで整った顔をしていた。

「ああ、やつが大臣レゲンギルサだ。 そしてあそこにいるのが魔法騎士団長レギレウス」

 レゲンギルサの奥にローブをきた白髪で青白い顔の男がいる。

(あいつか、ルキナの村を襲い、バスケスたちを封印から解いたってやつは)

 その男がこちらをみたような気がした。

(いや、見えないはず...... 気のせいだろう)

 レゲンギルサは中央まで歩くとこちらむく。 その堂々とした姿と所作は王といわれても違和感を感じないほどだった。

「これは、皇帝を標榜《ひょうぼう》しても周囲が納得しかねないな」

「ああ、レゲンギルサは幼き頃より神童と呼ばれ、その知識、教養ともにこの国随一、正直私よりはるかに皇帝向きだろう...... しかし、戦禍を回避するためには、それを阻止しないと」

「それほど優秀な人物なら、戦争なんて行わないんじゃない?」

「確かに武力による領土の拡張には単純に利益だけでなく、損益も発生しますが、戦争は民の団結を生みますし、非難や不満を他国になすりつけられますからな」

 わーちゃんがいうと、クエリアが同意する。

「ああ、それに武器やら食料やらの商いが起こるし、そこに自ら関われば、一国は貧しくなれど、自らの富をふやすこともできるからな」
 
 クエリアはそういうと、レゲンギルサは皆にむいて話しかけた。

「みなさまには亡き皇帝を代理してここにお集まりいただいたことを心より御礼申し上げる。 葬儀の前にここに宣言したいことがあります」

「まさか、葬儀の前にここで皇帝の後継者と宣言するつもりか!」

 クエリアが驚いていった。

「宣言される前にでるか!」

 オレたちはレゲンギルサの前にでて、姿を現す。

「あれは! クエリエルさま!」

「皇女殿下か!」

「あの方は失踪していたのではないのか......」

 周囲がざわついている。

「......なぜ、貴方がここに......」

 眉を潜め、レギンゲルサがクエリアを見つめている。

「皇帝の葬儀に皇女が馳せ参じてなにか問題なのですか」

 クエリアがそういい放つと、ローブのものたちがレギンゲルサの前にたつ。

「何者だ......」

 そういってレギレウスが感情のない表情でクエリアの前にたった。

「何者、無礼な! 私は皇女クエリエル! そこをどきなさい」

「なにを血迷ったことを...... 皇女はすでに死んでいる」

「な、なにを......」

 レギレウスの言葉にその場の皆がかたまる。

「皇女が死んでいると!?」

「どういうことだ......」

 みながざわつき始めた。

「なにをバカなことを! では私は何者だというのですか!」

 クエリアがいうと、レギレウスは何事か唱える。

「ディスペル......」

 その瞬間、クエリアの体は輝き、少しして光が落ち着くと、その姿は人のそれではなく、精巧な人形となっていた。

「な、なんだ...... この姿...... 私は、一体......」

 クエリアは自らの体をみて困惑している。

「この者たちを捕らえよ」

 レギレウスが静かにいい放つと、兵士たちがオレたちを囲んだ。

「わーちゃん!!」

「御意!!」

 オレたちは光輝く。

 
 そして目を開けると、そこは町の裏路地だった。

「すみません。 なにやら、魔法による妨害で船までは飛べませんでした」

 わーちゃんがあやまる。

「私が隠蔽の魔法を使ってるから平気よ」

 マゼルダがそういってポケットからでてきた。

「ああ、ありがとう。 それにここまで来ればすぐ見つからないだろう。 それより......」
 
 クエリアは力なくうずくまっている。

「......取りあえずクエリア行くぞ」

 オレはクエリアの手をとるとすぐに走りだした。

 
 しばらく町の裏手を走り、隠れていた。 マゼルダが屋根から飛んできた

「表通りをみてきたけど、そこら中に兵士がいる。 私たちを探しているわね。 その中には魔法使いもいるから厄介だわ」

「魔法騎士団ですな。 探知魔法などを集中して使っているのでしょう。 転移して魔力が少ない...... このままでは船までは行けませんな」

「さて、どうするかクエリア大丈夫か」

「あ、ああ、なんとかな」

 いくぶんか落ち着きを取り戻したようだ。

「わーちゃん、クエリアはなんなんだ?」

「ふむ、おそらくは魔法で作った人形に魂となる精霊を取り込ませたのではないかと推察します」

「私が精霊......」

「精霊ってなんだ? ピクシーとは違うのか?」

「私たちは妖精よ。 まあにたようなもんだけど、私たちより上位の存在ね。 物理的な存在じゃなくて、精神生命体って言うのかな。 体がないのはしってるけど......」

 マゼルダもよくわかっていないようだ。

「そうですな。 魔力が意思をもった存在とでもいいましょうか。 ならばクエリアどのが強力な魔法を駆使する理由も納得ですな」

「ふーん」

 オレはわーちゃんの説明をきいていった。
  
「ふーんって、みんなもっと驚かないのか! 私は人ではなかったのだぞ!」

 クエリアがそう必死にいった。

「うーん、でもまあ、オレの周りはほとんどモンスターや亜人なんだから、別に精霊がいてもなあ」
 
「ですな。 私など死んでますし」

「そうね。 大したことじゃないわ」

「はぁ、私一人だけ重要なことのように受け取って、バカみたいだな」

 クエリアが大きなため息をついていった。

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