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 ミアには見えたのだ。 
 水晶にうつるジャスティンの姿が。 

 ロザリンの占いは当たる。
 つまり、ミアはジャスティンへの借金を返せないということだ。 
 借金のかたに花嫁になる未来。
 そんなのは、絶対に嫌だ。
 ミアは、愛情のない結婚なんてまっぴらだった。 
 両親のような苦労も、好きな相手だからこそ一緒に乗り越えられると確信していたからだ。 

 一回でも滞納したら、ジャスティンは有無を言わさずミアを花嫁にするだろう。 
 
 もっと多くの額を返済しよう。
 そして、今までよりもマメに、ジャスティンにお金を返済するのだ。
 なにをしても無駄かもしれないけれど、なにもしないでいるわけにはいかない。
 
 それしか、自分がこの運命から逃れるチャンスはないと、ミアは強く思ったのだった。 

 しかしミアは気が付いていなかった。 
 返済をこまめにすることが、ジャスティンと会う回数を増やすということを。
 そして、その結果、思いがけずロマンチックな展開になっていくということを。 


 フーチは、床に落ちた水晶玉を、満足そうな顔をして見下ろしていた。 
 まるで邪魔なものを見るかのようなその目つきは、ミアの部屋に入ってきた時の小さな猫とはどこか違っていた。  
 そして、この部屋の中で唯一、事の次第を全て知っているかのように尊大でもあった。 
  
 ジャスティンの羽と同じ黒さを持つフーチは王様のような足取りで、ミアの膝に乗った。 
 そして、フーチを抱きしめるミアの頬に顔を寄せると、天使の様な優しさでその涙を舐めた。  



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