かわいいのはホントだよ。

このはな

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大事な親友

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 今日はよく晴れて、いいお天気。
 窓の外は、青空が広がっている。
 休み時間の教室は、おしゃべりの声であふれていたけれど。
 わたしは勇気をだして、美野里ちゃんの席にいった。
「ももちゃん」
 美野里ちゃんは、わたしを見て、ニコッとかわいらしい笑顔になった。
 でも、
「美野里ちゃん、大事な話があるの……!」
 真顔でそう言ったら、
「大事な話……? どうしたの、ももちゃん」
 たちまち、その笑顔が曇った。
 わたし、また親友に心配をかけちゃってる……。
 本当のことを話そうという決意がぐらぐらして、くじけそうになってしまった。
 けれども、なんとか踏みとどまった。
「教室じゃなんだから、どこかで話せるといいんだけど……」
 そう言うと、美野里ちゃんは席を立った。
「うん、わかった。いいよ」
 わたしたちは、連れだって教室をでた。
 ひとがあまり通らない、パソコンルームの前に来たとき。
「このあたりでいい? ももちゃん」
 美野里ちゃんが立ち止まる。
「う、うん」
「大事な話ってなあに?」
「あっ! あのね!」
 わたしは、えいやっと思いきって口を動かした。
「わたしもね、わたしも国竹センパイが好きなの……! これからはかくさないで、堂々と好きでいたいの。だから、美野里ちゃんに本当のこと話すよ。ごめんね……! 好きになって、ごめんなさい……」
 美野里ちゃんは、しばらく絶句していた。
「なんでだまっていたの?」
「友だちだって思ってたのに」
 責められてもしかたないと覚悟していたら。
「えーっ、ももちゃんも国竹会長推しになったの?」
 と言って、美野里ちゃんは目をパチパチさせた。
「え?」
「ももちゃんが会長のお手伝いをしているとき、とても大変そうだったから、ちょっとひどいなあって思っちゃったけど、それでもカッコいいもんね。うーん、なるほど。そう来たか……」
 ひとりで納得するように、美野里ちゃんは「うんうん」とうなずく。
「まあ、推しが変わったり増えたりするの、よくあることだもん。気にしなくていいよ、ももちゃん」
 困ったなあ。
 わたしは恋の話をしているのに、推しの話をしているって思われたみたい。
 そういえば、わたしの推しは坂木副会長になってるんだった……。
 けど、おかしいな。国竹センパイに告白されたこと、美野里ちゃん、知っているハズなのに。なかったことになっているような口ぶりだ。
「あの、美野里ちゃん……そうじゃなくてね……! わたしね、本当に、国竹センパイのことが……」
「――だったら、よかったのにな」
 え?
「今のはね、ちょっとした、いじわる!」
 美野里ちゃんは、ニコッと笑った。
「いじわる?」
「あんなところ見ちゃったもん。ふたりは両思いだってイヤでもわかっちゃうよ」
「美野里ちゃん……」
 すると、美野里ちゃんは「ハッ」と何かに気づいたような顔になった。
「ももちゃん、もしかして国竹会長と、もう、おつきあいしているの……?」
 おつきあいなんて、とんでもない!
 わたしはあせって、手をバタバタさせた。
「まだ申しこまれただけ……! 返事は待ってもらってる段階で……」
「へ? 何それ? ええーっ! ホント!?」
「うん、本当……それに、それにね……」
 だんだんと声が小さくなっていく。
「美野里ちゃんに許してほしいから……だから……」
「ももちゃん!」
 いきなり、美野里ちゃんに両肩をつかまれた。
「そんなこと言っていいの? もし、わたしがダメって言ったらどうするの?」
「美野里ちゃんを悲しませてまで、おつきあいなんてできないよ。美野里ちゃんは、わたしの大事な親友だもん――」
「そんなの、おことわりだよ!」
 美野里ちゃんは、ピシャリと言った。
「ももちゃんったら、わたしのことなんだって思ってるの? それ以上言ったら、ホンキで怒るよ! 絶交しちゃうからね! わかった?」
 美野里ちゃんの声は真剣だった。
 わたしのために、ホンキで怒ってる。
 そうだ。
 美野里ちゃんは、こういう子だ。
 まっすぐで、正直で、とってもやさしい。
 わたしがまちがっていた。
「う、うん……ごめん、なさい……」
 心の底から、あやまった。
「もう言わない?」
「もう言わない」
「国竹会長のこと、好き?」
 声にだして言うのが恥ずかしかった。
 なので、返事のかわりに、頭をたてにふって答えると。
「じゃあ、許してあげる。推しのしあわせを願うのが、真のファンだもん。なあんてね!」
 美野里ちゃんがまたニコッと、いつものように笑ってくれたので。
 美野里ちゃんの笑顔を見られた安心やら、ここにいたるまでの不安やら、何もかもがいちどに押しよせてきて、ポロッと涙がこぼれてしまった。
「うわーん、大好き!」
 わたしより頭ひとつぶん身長が低い美野里ちゃんを、力いっぱいギュッと抱きしめる。
「こらこら、相手がちがうでしょ?」
 感情が高ぶったあまり抱きついてきたわたしの頭を、美野里ちゃんが背伸びをしてよしよしとなでてくれた。
 そのとき、ふいにパチパチ、うしろから拍手の音がした。
 ふり向いたら、あれ? 坂木副会長だ。
 そして、国竹センパイもいる……!
 美野里ちゃんといっしょにおどろいていると。
「いやあ、よかった。よかったよ! まるくおさまってくれてさ。なあ、総司!」
 坂木副会長は、ニヤニヤしながら国竹センパイのヒジをつついた。
「ばばばっ、からかうのはよせ!」
 国竹センパイが真っ赤な顔でわめく。
「からかってないよ、ホントのことだろ。照れなくていいじゃん」
「だっ、だまれ!」
 目の前でとつぜんはじまった口ゲンカ。
 ……と言っても、坂木副会長はあっけらかんとしていて、怒っているのは国竹センパイだけ。一方通行なケンカだけれど。
 わたしと美野里ちゃんは目をあわせた。
(こんな会長、はじめて見た。ビックリ! ももちゃん、知ってた?)
(うん、知ってた。ホントはね、照れ屋さんでかわいいの)
 美野里ちゃんの目がまん丸になる。
「かわいいカノジョができてよかったな。あとは、おれにまかせろ。おまえのファンは、おれが全部ひきうけてやるって」
「それ、人権無視だぞ」
 掛け合いがなかなか終わりそうになかったので、
「あのう、何しにきたんですか……?」
 あきれて声をかける。
「あ、ゴメン……!」
 国竹センパイが坂木副会長をグイッと押しのけて、わたしのところにやってきた。
「心配でつい、ようすを見にきたんだ。よけいなことしちゃったな」
 と、大きく肩をはずませる。
 えっ。
 急に心臓がドキドキしはじめた。
 心臓の音、聞こえてないかな……。
「よけいなことだなんて……ぜんぜん、思わないです……!」
「なら、よかった」
 国竹センパイはホッとしたようだった。それから、美野里ちゃんに視線を向けてニッコリ。
「いろいろありがとう。これからは、親友のカレシとしてよろしく」
「ひえっ!」
 美野里ちゃんは、おかしな声をあげた。
「は、はい! こちらこそ、よろしくおねがいします……!」
 そこでタイミングよく、予鈴が鳴りひびく。
「「あ」」
 わたしと美野里ちゃんの声がハモった。
「教室に戻らなきゃ、だな」
 オンオフのスイッチが切りかわったみたいに、国竹センパイが坂木副会長をふり返る。
「はじめ、行くぞ!」
「ええっ、おれまだ、美野里ちゃんにアイサツしてないのに!」
「なんのアイサツだよ。いいから、はやくしろ! おれたちが授業に遅れたら、かっこうがつかないだろ」
 国竹センパイは、ぐずぐずしている坂木副会長をせっついた。
 それがあんまりおかしかったので、思わず笑っちゃった。
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