ライオンロード ~獅子勇王の軌跡~

竹田 勇一郎

文字の大きさ
9 / 11

第九話 指名依頼

しおりを挟む

 今回から今まで五千文字前後で一話としていたところを、更新速度を上げるために、三千文字前後で一話とすることにしました。ご了承ください。
 6/19 全ての話のサブタイトルを変更しました。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「あ、ライオネルさん、おはようございます」
「ん、ロップか、おはよう。ここ、いいか?」
「えぇ、もちろん!」

 鍛錬を終えたライオネルが食堂へ向かうと、そこには昨日会ったロップが居た。ロップに挨拶すると、彼女に断って向かいの席に着く。

「ライオネルさん、ロップちゃん、おはようございます! ってあれ? 二人とも知り合い?」
「おはようリーナ。昨日ちょっとな」
「おはようリーナちゃん! ライオネルさんとは昨日ここの入口で会ったんだ」
「そうだったんだ~。あ、これ朝食ね。ごゆっくり~」

 リーナは二人分の朝食を置くと、すぐに厨房へと行ってしまった。朝の時間帯は客が多く忙しいので、リーナとゆっくり話す暇は無い。

「もうリーナと仲良くなったのか?」
「はい、昨日会って。リーナちゃんも宿に女の子が居なくて寂しかったみたいで、すぐに仲良くなれました!」

 朝食を食べながら話すロップはとても楽しそうだった。

「そういえばライオネルさんも収集者ですよね?」
「んぐっ、そうだが」
「何級なんですか?」
「俺は五級だ」
「わぁ、やっぱり先輩なんですね!」
「いや、収集者になってからまだ数日しか経っていないから、先輩ではないかなぁ」
「え!? じゃあ入ってすぐに昇級したんですか!?」

 ロップはライオネルがものすごい早さで昇級したと思い、たれ耳がピンと立つくらい驚いた。

「なんかギルドの方針で、獅子人族ししびとぞくに六級の依頼を受けさせるのはもったいないと思ったらしいから、五級から始めさせてくれたんだ」
獅子人族ししびとぞくだとそうなんですか?」
「あぁ、らしいな。俺ら獅子人族ししびとぞくは子供のころから魔獣を狩るんだ。だから六級は飛ばしたんじゃないか?」
「なるほど~。六級の依頼は草木や石の収集が主な依頼ですからね。そこで魔獣の居る環境に慣れる意味合いも兼ねていますから、獅子人族ししびとぞくの方にそれは不要だということですか」

 ギルドの意図を読み取ったらしいロップは、したり顔で何度も頷いていた。

「私、五級の依頼をまだ見てないんですけど、どういったものが多いんですか?」
「ん~、基本的には狩猟が多いんじゃないか? 俺も五級の依頼はまだ二回しか受けていないが」
「何を狩りました?」
「昨日はワイルドボアを狩った」
「ワイルドボアですか!? 一人で!?」
「あぁ、故郷ではよく狩っていたから慣れてたんだ」

 ワイルドボアを一人で狩ったというライオネルに、ロップはまたもやたれ耳を立てて驚いている。ライオネルにとってワイルドボアの狩猟はいつものことなので、ロップがそんなに驚く理由が分からなかった。

「ワイルドボアを一人で狩るなんて五級の収集者じゃあり得ませんよ! 一人で倒すなら罠を張って何日も待ち続けるのが普通なんですよ! ライオネルさんって強いんですね!」
「うーん、俺にはよくわからん。村では俺より強い人なんていっぱい居たからなぁ」

 あの村で生き残っている男は皆、強い魔獣がごろごろ居る森で狩りをし続けている者たちだ。森や魔獣をよく知っているだけでなく、魔獣との戦いで培われた経験や戦闘能力が圧倒的なのである。

「ロップ、今日は依頼を受けに行くのか?」
「はい、お金を稼がないと宿に居られませんからね!」
「なら一緒に行こう」
「そうですね、そうしますか」

 朝食を食べ終えたライオネルとロップは少しテーブルでゆったりしていたが、ライオネルがロップに声をかけてギルドに行くことにした。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「わぁ……今日も人がいっぱいですねぇ……」
「そうだな……」

 ギルドに着いた二人は相変わらずの混雑っぷりにげんなりとしていた。広場を占拠する蛇のように曲がりくねった収集者の列、掲示板の前にできた黒山の人だかりも、ここ数日で見慣れてしまった。

「お互い頑張っていい依頼を見つけましょうね!」
「ん、そうだな」

 ライオネルを見上げて胸の前で拳を作るたれ耳兎娘にライオネルはほんわかとした気分になった。

「ラ・イ・オ・ネ・ル・さ~ん」
「ひぃっ!」
「……ん?」

 そんな二人の後ろから忍び寄り、ライオネルを下から見上げて地の底から聞こえてくるような声を出していたのは―――、

「……なにしてるんだ? カガシィー」

―――報告カウンターのカガシィーだった。

「なんだか朝の忙しさで殺伐としたギルドにふさわしくない青春な香りが漂ってきてたから、いまだに春の来ない私が僻みに来たのよ」
「青春な香りって何だ? そんな匂いするか?」

 カガシィーに言われてライオネルは自分の匂いを嗅ぐが、青春の匂いがどんなものか知らないライオネルには分からなかった。

「真面目に受け取らないで、ちょっとした冗談よ。ホントはライオネルさんに指名依頼があるから声をかけたのよ」
「指名依頼ですか!? すごいですねライオネルさん!」
「指名依頼ってなんだ?」

 「指名依頼」という言葉を聞いたことがある気がするが、どんなものだったのかライオネルは思い出すことが出来なかった。

「登録の時にコティーから説明があったはずよ? でもいいわ、もう一度説明するわね。指名依頼って言うのは文字通り誰かから指名されて受ける依頼のことよ。その依頼者はギルドだったり個人だったりといろいろね。指名依頼は基本的に普通の依頼よりも報酬がいいわ。成功報酬金が高かったり、ギルドの評価点が高かったりするわね。」
「ほう、その指名依頼が俺に来たと?」
「そう、ギルドからの指名依頼よ。受けるつもりなら受注カウンターじゃなくて、報告カウンターに来てね。私が処理するから」

 そう言ってカウンターへと戻っていくカガシィーを見送っているとロップが感心したように話しかけて来た。

「ギルドからの指名依頼って信用が無いと普通来ないらしいですよ! 信頼されてるんですね~」
「まだ依頼を三つしかこなしてない俺にギルドが信用するのかはよく分からないが、とりあえず話を聞いてくるか」
「あ、じゃあここでお別れですね」
「そうなるな。良い依頼があるといいな」
「はい、ありがとうございます!」

 ライオネルはぶんぶんと手を振るロップと別れて、カガシィーの座る報告カウンターへと向かった。
 すでにカガシィーはカウンターの上に依頼書と思われる紙を置いて、ライオネルを待っていたようだ。

「話を聞かせてくれ」
「えぇ、今回の指名依頼はワイルドボア一頭の狩猟ね。なるべく良い状態で持ち帰って。そうすれば評価点を多く加算するわ」
「またワイルドボアか?」

 ライオネルは昨日狩ったばかりの獲物をまた狩るという事に怪訝な顔をした。

「なんだか最近森の浅い所でのワイルドボアの目撃が増えてるのよ。本当はもう少し深い所に居るはずなのに……。だから浅い所のワイルドボアを狩って、採取系が主な収集者の安全を確保しようってことになったの。あなたはワイルドボアを一人で、無傷で、簡単に倒せるようだからギルドが指名したのよ」
「ふーん、まぁ別に難しい依頼じゃないし受けるよ」
「ありがとうライオネルさん。依頼の期限は二日後の朝までね。依頼の受付処理はこちらでやっておくわ」
「わかった、じゃあいってくる」

 「受けて当然よね」というような顔をしているカガシィーになんだか釈然としないものを感じながら、ライオネルはギルドを出て森へと向かった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...