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第十一話 パーティー結成
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「で? また指名依頼なのか?」
やっとワイルドボアの指名依頼の連続から解放されたと思ったのに、再び指名依頼があると聞かされたライオネルの声には若干とげがある。それでも話だけでも聞こうとするライオネルはお人よしなのだろうか。
「そんな不機嫌そうにしないでよ。今回のは指名依頼じゃなくて、ギルドからのお願いなのよ」
「ギルドからのお願い? どういうことだ?」
ここ最近指名依頼は多くこなしてきたが、ギルドから何かお願いされるという事は無かったので、ライオネルはこれからの話に予測がつかず、眉をひそめた。
「えぇ、詳しい話は直接彼女から聞くといいわ。ウージー、ロップさんと一緒に来てちょうだい」
カガシィーは後ろを向くと少し大きな声で二人を呼んだ。すると、カウンターの後ろにある扉が開いてロップが出て来て、その後ろにはいつも受注カウンターにいる兎人族の女性が居た。ライオネルは今まで名前を知らなかったが、ウージーと言うようだ。
カガシィーが二人に席を譲ると、ロップが席に着き、ウージーもどこからか持ってきた椅子に腰かける。
「どうしたんだ二人して……」
「今日はライオネルさんにお願いがあって来ました!」
「ロップ、まずは私から話すから……。今回は指名依頼ではなくギルドからのお願いを伝えに参りました」
今まで何度かウージーと話してきたが、彼女がロップに対してライオネルが聞いたことが無いほど優し気に話しかける様子に首をかしげつつ、先を促すように二人を見遣った。その様子にウージーは頷き話し始めた。
「ギルドから信頼されている四級以上の収集者は、低級の収集者の指導をギルドから依頼されることがあります。本来はもっと上級の収集者にお願いするのですが、ライオネルさんの戦闘能力に加えてロップたっての希望もあり、ライオネルさんに六級収集者である彼女の指導をお願いしたいのです。私としても同じ村出身の彼女を任せるのはライオネルさんが適任だと……」
「ちょっと待ってくれ。俺はここに来てからまだ日が浅い。何で俺はそんなにギルドに信頼されているんだ?」
ライオネルは収集者になったばかりだし、新人の指導などしたこともない。それに親しくしている同郷の者をどこの馬の骨とも分からない男に指導させるなど何があるか分かったものではない。
「ライオネルさんは渡り鳥の止まり木亭に滞在していらっしゃるでしょう? あの宿とギルドは提携しており、宿での素行などのある程度の人となりが分かる情報をもらっているのです。依頼の評価点も高く、コティーに叱咤されて反省して改善したことも伝わっております。このような情報から彼女を是非お任せしたいと思っているのです」
「そういう事か。それについては理解したが、ロップはどういうつもりだ?」
ギルドがライオネルの日常生活についていろいろと把握していることに思うところはあったが、それを顔に出すことはせずにロップに問いかけた。彼女とは同じ宿に泊まり、時折食堂で一緒に食事をとったり、世間話をする程度の間柄のはずだ。それゆえ、彼女がライオネルに指導を望んでいるという事が彼にはよく理解できなかった。
「私はこの街に出てきて収集者になってから日が浅いです。だから知り合いはウージーさんしかいなかったんです。そんな時にライオネルさんに出会って、ライオネルさんがリーナちゃんのことを教えてくれて友達になれて、私、すごく安心したんです。この街でもなんとかやっていけそうって」
「そうか……」
「でも、私は収集者としては全然ダメで……。薬草も違うもの持ってきちゃうし、鉱石はそこらへんにある石ころ持ってきちゃうしで、評価点が全然溜まらなくて五級になれなかったんです。お父さんが持たせてくれたお金も無くなりそうだったから、そろそろ故郷に帰ろうかなってウージーさんに言ったんです。そしたら指導してくれる人を探してみるからもう少し頑張ってみないかって……。私はリーナちゃんからライオネルさんの話も聞いていたし、顔見知りのライオネルさんにお願いしたいと思ったんです」
ライオネルはロップの言葉を聞いて、首元の水晶の小刀をいじりながらしばし黙考した。誰かに物を教えることなどしたことは無いし、うまくできるという確信も無い。だが、彼女の言葉と真摯な眼差しを受けたライオネルには、理屈を通り越した結論が出ていた。
結論にたどり着いたライオネルは、両手を両の腿に叩きつけて立ち上がった。
「わかった! 俺にどこまでやれるかは分からんが、やれるだけやってみよう!」
「ほ、ほんとですか!? ありがとうございます! 私、頑張ります!!」
「私からもお礼を。ありがとうございます。彼女の指導をよろしくお願いします」
ライオネルが承諾の意を示すと、ロップは瞳に涙を浮かべてたれ耳と体を震わせながら、ライオネルの手を取った。隣に座るウージーもいつもは表情の無い顔に安堵を浮かばせている。
「話はついたみたいね? それじゃあ、これからのことを話し合いましょうか」
今まで少し離れた椅子に座っていたカガシィーがこちらに近づきそう言った。
「指導するライオネルさんと指導されるロップさんにはパーティーを組んでもらいます」
「パーティー? なぜだ?」
「指導する側と指導される側は同じパーティーに所属すること。これは慣例でそう決まっています。何か問題があるの?」
「いや俺は問題ないが……」
言いよどみつつライオネルがちらりとロップの方へ視線をやると、ロップはこちらを期待のこもった目で見返している。キラキラという擬音が聞こえそうなほどの期待の色が見て取れた。
「ロップの方も問題ない様だ。だから、構わない」
「そう、良かったわ。パーティーとなった二人には、パーティー名を決めてもらいます。提出期限なんかは無いけれど、早めに決めた方がいいわよ? 熱意が薄れる前にね。熱が冷めてから考えるパーティー名なんて、たいてい面白みのないものになっちゃうわ。まあ、熱が冷めてからパーティー名が恥ずかしくなって身もだえする人も後を絶えないけどね」
そう茶目っ気たっぷりに言うカガシィーにライオネルは苦い思いを感じたが、なるべく顔には出さないよう努めた。「痛い」なんて思ったことが知れたら、何をされるか分かったものではない。
「それは後で決めよう。それより、指導とは何をすればいいんだ? 俺は何を教えればいいのかさっぱり分からんから、その説明をしてくれないか?」
「そうね……。特にこれを教えろっていうことは無いわ。二人で話し合って決めるといいわ。何がしたくて、何を教えることが出来るのか」
「う~ん、そういうものか……」
ライオネルはそう一言発して、思考の海の中に没した。瞳を閉じて、時折耳をぴくぴくと動かす彼には周りのことは一切入ってこないだろう。
「あの、カガシィーさん。ライオネルさんに支払う報酬ってどうなるんでしょうか? 私はあまりお金を出せないのですが……」
ロップはハッと急に顔を上げると、真剣な眼差しでカガシィーに問いかけた。彼女の頭の中には、今まで報酬のことが思い浮かんでこなかったらしい。
「ライオネルさんには少なくないけど多くもないってくらいの報酬が払われるわ。それはギルドが負担するものだから、あなたは気にしなくてもいいの」
「そうですかぁ、よかったぁ。でも、どうしてギルドがそこまで?」
「収集者の死亡率は五級が最も多いの。それは魔獣を知らず、自然を知らず、戦い方を知らないからなのよ。それを先達が教えることで死亡率が下がり、依頼を効率よくこなすことが出来て、結果的にはギルドの利益につながるの。だからギルドは新人を育成してくれる指導者には報酬を渡しているのよ」
ロップはその説明を聞いて、安堵と共に納得したようだが、無関係で無いライオネルは考え込んだまま聞いてはいなかった。
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