わたしの幸せな部屋

師走こなゆき

文字の大きさ
5 / 7

5-P1

しおりを挟む
「ねえ、仁美さん起きて。起きてよ。起きてってばっ」

 何度も体を揺さぶって声をかけ続けて、よくもまあこんなにも眠れるものだ、と呆れだした頃、仁美さんは「ううん?」と声を出した。

「どうしたの彩香?」

 寝ぼけ眼で仁美さんがこちらを見る。その顔が普段の柔らかな仁美さんとは違って間抜けで、わたしは吹き出してしまいそうになった。

「やっと起きてくれた? 睡眠導入剤って効くんだねえ」

「ええっと?」

 発言の意味が分かっていなさそうに、仁美さんは首を傾げる。起きようとしたけど体が動かなくて、ようやく自分の置かれている状況を理解し始めたらしい。

 仁美さんが眠っている間に手足を結束バンドで縛っておいた。抵抗されないように、両腕は後ろ手に。

 わたしのことが原因かそれ以外かは定かではないが、最近、仁美さんが心療内科に通っていて、睡眠導入剤を飲んでいるのは知っていた。

 睡眠導入剤を飲んだ日は朝までぐっすりと眠っていて、少しくらい声をかけたり、体を押したりしてみても起きないのは事前に確認済み。さっきだって、手足を縛っている間もちっとも起きなかった。

「これ、何の冗談? 最近、いたずらが過ぎるけど、もう流石に笑って済まされないよ」

 仁美さんは戸惑いつつも怒ったりせず、静かに言う。

 そっか、冗談、いたずらか。

「冗談じゃないよ。これまでのだって、一つたりとも巫山戯てなかった」

 冗談なんて微塵もなく、わたしは仁美さんを本気で傷つけた。それなのに、全部、冗談やいたずらで片付けられる程度の些細なことだったんだ。

「ねえ、どうして仁美さんはわたしを捨てようとするの?」

 仰向けの仁美さんに跨るように、わたしは迫る。

「何の話? 分かんないよ」

「とぼけないでっ」

 まともに話を聞いてくれていないことに腹が立って、わたしは声を荒らげてしまった。仁美さんはビクッと肩を揺らした。

「ねえ、わたしは仁美さんとずっと一緒に居たいの。他には何にもいらない。わたし、仁美さんが望むなら全部あげてもいいと思ってるよ?」

 具体的には望む全てが何なのかは分からないし、わたしは神様でもないから望むもの全てを与えられるはずもないけど、それだけの覚悟だということ。

 ただ「これからよろしくね」と言って手を差し伸べてくれた時のように笑って寄り添ってほしかった。ずっと傍に居ていいんだよって言ってほしかった。

 それなのに、

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

ダメな君のそばには私

蓮水千夜
恋愛
ダメ男より私と付き合えばいいじゃない! 友人はダメ男ばかり引き寄せるダメ男ホイホイだった!? 職場の同僚で友人の陽奈と一緒にカフェに来ていた雪乃は、恋愛経験ゼロなのに何故か恋愛相談を持ちかけられて──!?

ゆりいろリレーション

楠富 つかさ
青春
 中学の女子剣道部で部長を務める三崎七瀬は男子よりも強く勇ましい少女。ある日、同じクラスの美少女、早乙女卯月から呼び出しを受ける。  てっきり彼女にしつこく迫る男子を懲らしめて欲しいと思っていた七瀬だったが、卯月から恋人のフリをしてほしいと頼まれる。悩んだ末にその頼みを受け入れる七瀬だが、次第に卯月への思い入れが強まり……。  二人の少女のフリだけどフリじゃない恋人生活が始まります!

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

【完結】【百合論争】こんなの百合って認めない!

千鶴田ルト
ライト文芸
百合同人作家の茜音と、百合研究学生の悠乃はSNS上で百合の定義に関する論争を繰り広げる。やがてその議論はオフ会に持ち越される。そして、そこで起こったこととは…!? 百合に人生を賭けた二人が、ぶつかり合い、話し合い、惹かれ合う。百合とは何か。友情とは。恋愛とは。 すべての百合好きに捧げる、論争系百合コメディ!

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...