彼方の大地で綴る【四章まで完結済み】

しいたけ農場

文字の大きさ
21 / 178
第一章 エトランゼ

1‐21

しおりを挟む
「弓兵、一斉射!」


 その場を預かる百人隊長の号令が響き、一斉に弓兵部隊の矢が放たれる。森ではあるが、木の密集度はそれほど高くはない。弓矢でも牽制程度ならば役に立つと判断しての斉射だった。


「重装兵、進め!」


 分厚い鎧を身に纏った兵士達が、盾を構えて前進する。

 砦の包囲は完了している。後は数に任せてここにいるエトランゼを仕留めれば、彼の任務は完了する。

 彼等がここに来たのにはしっかりとした理由がある。民へ課せられた税の分の作物を横から掠め取り、あまつさえ勢力を築こうとするエトランゼの一団をイシュトナル要塞の長は許しはしなかった。

 ただでさえ、王権交代でエトランゼに対する風当たりが強くなることが予想されているのだ。難民を吸収し、手が付けられなくなる前に対処する必要がある。


「ギフトを持っているからといって怯えるな! 所詮は戦い方を知らぬ素人の集まりだ! 数で押しつぶせば混乱し、潰走する!」


 伊達に百人隊長を任せられてはいない。エトランゼとの交戦経験は何度もある。

彼等はどれも個人の能力は驚異的だが、野盗以上の戦術を取って来た者達はいない。

 一人が倒れれば混乱し、それが広がればたちまち恐慌状態に陥る。つまるところ、エトランゼとの戦いはどのようにして機先を制するかにかかっていると言っても過言ではない。

 だからこそ一斉掃射、そして重装歩兵による囲い込みだった。

 事実、前面に展開していたエトランゼ達は、弓矢が当たれば痛みに苦しみ、ギフトを使う暇もない。


「ギフトを持っているだけの人間だ! 斬れば倒れる、首を刎ねれば死ぬ!」


 百人隊長の言葉は正しい。エイスナハルの教義をどう解釈しようと、エトランゼは人間だ。

 だが、彼にとって最大の誤算がここにあった。

 それはある意味では幸運だったのかも知れない。もし「それ」に出会っていれば、彼はここまで生き残ることもなく、百人隊長という出世を迎えることもなかった。

 その幸運が、今日で終わっただけの話だ。


「オルタリア軍! 俺の仲間を傷つけさせはしないぞ!」


 重装歩兵の前に立ちはだかる男が一人。

 鎧を身に纏い、盾と剣を構えた偉丈夫は、そう叫ぶと持っていた剣を一閃する。

 驚くべきことが起こった。

 堅牢を誇るはずの重装兵が、一撃で鎧ごと身体を切り裂かれて倒れたのだ。

 それも、一人ではない。

 剣の先から伸びる光の刃に切り裂かれて、一度に十人が倒れる。

 彼が更に剣を振るえば、もう十人。

 一瞬にして二十人を失った前線は一瞬にして壊滅状態になった。


「弓兵! 奴に射撃を集中!」

「させるかああぁぁぁぁ!」


 今度は盾が光を放つ。

 盾が広がるように光の壁が広がって、広域を包み込む。

 その護りは固く、矢の一本どころか、重装兵の突撃すら容易く防ぎきるものだった。


「ちぃ! 魔法兵を出せ!」


 命令に従い後ろから歩み出てきた、イシュトナル要塞の虎の子と呼んでも過言ではない魔法兵が魔法による砲撃を放つも、火炎も稲妻も光の壁の前に無力化されてしまった。


「今度はこっちの番だ! みんな行くぞぉ!」


 号令に従い、彼を先頭に進軍が始まる。


「俺の《ソーラー》のギフトには勝てない! 太陽の光に呑まれて消えろ!」


 剣の一振りが、太陽の光を纏って一度に多数の兵を葬り去る。


「ヨシツグ! アタシの分も残しといてよ!」


 木々の間をまるで猿か何かのように飛んできた影に、その場の誰もが反応することができなかった。

 まずは弓兵が一人。その周囲が一度に三人。

 そして影が消え、今度は魔法兵が餌食となる。

 喉元や心臓に確実に短剣を突き刺して相手を葬るその姿は、とてもではないが人の目で捉えられるものではない。

 そして百人隊長は知る。


 自分が今まで、救われていたという事実に。

 何のことはない。強力な、規格外とも呼べる力のギフトに出会うことがなかっただけの話だ。

 彼等がこの世界に来たときに手に入れた力は、この世界あまねく広がる魔法を容易く凌駕する。

 果たしてどれほどの力を持つ、何年を研鑽に費やした魔導師こそが彼の持つ陽光に至れるだろうか。

 魔導師ではない彼にその答えは出すことはできない。何よりも。

 振り下ろされた光の刃が、既に逃れられない距離でその脳天を捉えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

処理中です...