113 / 178
第三章 名無しのエトランゼ
3‐14
しおりを挟む
ヘルフリート軍によって虐殺の限りを尽くされたネフシルの街。
そこに足を踏み入れる一人の男と、その背後に続く軍勢の姿があった。
「……ひでえ有り様だな、こりゃ」
「ハルデンベルク卿……。彼等は自国民なんですよ? ここまでする理由があるのでしょうか?」
彼の隣で軍旗を掲げる若い兵士が、兜の下から震える声でそう絞り出す。
その意見は彼だけのものではないようで、彼の旗下にある兵達は皆、同じように憤怒とも呆れともつかない表情で破壊され尽くした街を見ていた。
ラウレンツ・ハルデンベルク。
無精髭を生やし、鎧を纏った中年の男はエーリヒの部下であり今回の件を任された大隊長である。
彼は何度かこのネフシルに訪れたことがある。
特別に見るところはないが、オルタリア南部の特徴である広大な農地による農耕や畜産が盛んだった街で、確かその時は肉を大量に買い付けて部下と酒盛りをした記憶があった。
今や建物は尽く破壊され、瓦礫の山の中に未だ人の死体がそのまま放置されている。
女子供にも全く容赦はなく、それらも打ち捨てられるようにその辺りに転がされていた。
これはある意味では、戦いの生み出す狂気以上に狂っていた。
「……せめてまだ、自分の欲望のためとかなら納得もできるんだけどな」
子供を攫い、女を犯し、財産を奪う。
勝利の饗宴とも呼べる略奪ならば、ラウレンツの個人的な感情はともかくとして、戦いである以上仕方がないと割り切ることもできた。勿論、それでも自国民にやるようなことではないが。
「尽くが、殺戮の憂き目に。中には乱暴を受けた者もいるようですが、彼等の指揮官はそれを許さず、ただ殺せと命じたようです」
「だろうな。建物まで派手にぶっ壊しやがってまぁ……。復旧にどんだけ掛かると思ってんだか」
視線は唯一無事な建物を捉えて、ラウレンツはより気落ちした表情になる。
「ご丁寧にエイスナハルの教会は残してやがる。ってことは神父ぐらいは生き残ってるんじゃないのか?」
「調べさせます」
部下に指示し、それを受けた兵達が数人列から離れて教会の方へと走っていく。
歩きながら喋っていた一行は、やがて街の中心部へと辿り付く。街を治める町長の家も無残な姿で、家の壁が崩れてそこから撃ち込まれた矢でざっと見て十人の死体があった。
「……聖別騎士を使いやがったな。いよいよもって殺しに手段を選んでねえ。指揮官のカーステンってのはどんな野郎だ?」
「噂によればですが、以前エレオノーラ様を追撃した際に、エトランゼによって手痛い反撃を受けていると」
「恨み返しってことか? やり過ぎだろう」
「元々、差別主義者ではあったようです。エトランゼに対して」
「いや、それにしてもだぞ。これじゃあこっちの連中はより俺達に対して恨みを募らせる。もしこれ以上内部に進軍しても、現地民の協力はほぼ得られんだろうな」
「同じ国民という言い訳が完全に潰されてしまいましたからね」
「やれやれ。戦う前から味方に足を引っ張られるとはな」
溜息を吐き、地面にどっかりとラウレンツは腰を下ろす。
「お前等も楽にしとけ! 斥候が戻って来てから今後のことは決めるから、それまでに体力を……」
言いかけたところに、正面から馬に乗った兵士が走ってくる。その鎧には見間違いようもなく、先日斥候として派遣してた兵だ。
「ラウレンツ様! こちらにお付きでしたか!」
斥候は馬から飛び降りて、地面に胡坐をかくラウレンツの前に膝をつく。
「おいおい、もうちょっと空気読んでくれよ」
「どういうことでしょうか?」
「いや、こっちの話だ。で、前線はどうか? こんなことをやらかす馬鹿野郎だが、勢いはあるし聖別騎士もいる。そろそろ一個ぐらいは街を突破したところか?」
「いえ、それが……」
言いにくそうに、伝令は顔を落とし、一度唾を飲み込む。
それから重々しくその報告を開始した。
「敵の新兵器により、エルプス方面に進軍していたカーステン卿の部隊、その先鋒が大打撃を受けて潰走。特に騎馬隊と魔法兵は手酷くやられ、当分使い物になりそうにはありません」
「……なんだと? で、当の大将はどうなった?」
「カーステン卿は東側の砦へと兵を進めていたのですが……。敵の偽報を受けてエルプスへと合流。そのまま妨害を受けて足を止められ、攻撃を受けています!」
「なん……ってこった!」
ラウレンツは思わず拳で地面を叩いていた。
「新兵器は仕方ねえが、偽報に引っかかるとは阿呆か!」
「相手側が一枚上手だったとしか……。それを仕掛けた工作部隊はカーステン卿の後方に破壊工作を仕掛け補給の妨害もしていったようです」
「ちっ。思った以上に手練れが多い……。だからといってここでカーステンとやらを見捨てりゃ、ヴィルヘルムの名前に傷がつく」
手を伸ばし、横の兵から軍旗をむしるように奪い取る。
立ち上がったラウレンツは、その旗の柄で地面を強く叩いた。
「来たばかりで悪いが、出撃だ! 目的は敗走してくる味方部隊の撤退の援護、そしたら俺達はフィノイ河まで後退するぞ!」
「せっかくここまで来たのにですか?」
「城壁も何もなもぶっ壊された街でどう護るんだよ? 聖別騎士と合流すりゃ、相手の新兵器とやらも何とかなる。後詰が来るまで耐えりゃいい。準備を急げ!」
若い兵士は短く返事をして、その場から立ち去っていく。
代わりに横に現れたのは、風変わりな格好をした一人の男だった。
「拙の出番かな?」
この辺りでは滅多に見ない羽織りに、袴と呼ばれる東方の衣服。加えて伸びた頭髪を纏めて髷と呼ばれる形にしている。
「そうなるな。エトランゼの相手は、エトランゼに限る」
「どのような敵が出てくるか、楽しみよ」
男の口が歪む。
それはまだ見ぬ強敵を夢想しての、まるで子供が楽しみしていた日の前日に見せるような、無邪気な笑顔だった。
そこに足を踏み入れる一人の男と、その背後に続く軍勢の姿があった。
「……ひでえ有り様だな、こりゃ」
「ハルデンベルク卿……。彼等は自国民なんですよ? ここまでする理由があるのでしょうか?」
彼の隣で軍旗を掲げる若い兵士が、兜の下から震える声でそう絞り出す。
その意見は彼だけのものではないようで、彼の旗下にある兵達は皆、同じように憤怒とも呆れともつかない表情で破壊され尽くした街を見ていた。
ラウレンツ・ハルデンベルク。
無精髭を生やし、鎧を纏った中年の男はエーリヒの部下であり今回の件を任された大隊長である。
彼は何度かこのネフシルに訪れたことがある。
特別に見るところはないが、オルタリア南部の特徴である広大な農地による農耕や畜産が盛んだった街で、確かその時は肉を大量に買い付けて部下と酒盛りをした記憶があった。
今や建物は尽く破壊され、瓦礫の山の中に未だ人の死体がそのまま放置されている。
女子供にも全く容赦はなく、それらも打ち捨てられるようにその辺りに転がされていた。
これはある意味では、戦いの生み出す狂気以上に狂っていた。
「……せめてまだ、自分の欲望のためとかなら納得もできるんだけどな」
子供を攫い、女を犯し、財産を奪う。
勝利の饗宴とも呼べる略奪ならば、ラウレンツの個人的な感情はともかくとして、戦いである以上仕方がないと割り切ることもできた。勿論、それでも自国民にやるようなことではないが。
「尽くが、殺戮の憂き目に。中には乱暴を受けた者もいるようですが、彼等の指揮官はそれを許さず、ただ殺せと命じたようです」
「だろうな。建物まで派手にぶっ壊しやがってまぁ……。復旧にどんだけ掛かると思ってんだか」
視線は唯一無事な建物を捉えて、ラウレンツはより気落ちした表情になる。
「ご丁寧にエイスナハルの教会は残してやがる。ってことは神父ぐらいは生き残ってるんじゃないのか?」
「調べさせます」
部下に指示し、それを受けた兵達が数人列から離れて教会の方へと走っていく。
歩きながら喋っていた一行は、やがて街の中心部へと辿り付く。街を治める町長の家も無残な姿で、家の壁が崩れてそこから撃ち込まれた矢でざっと見て十人の死体があった。
「……聖別騎士を使いやがったな。いよいよもって殺しに手段を選んでねえ。指揮官のカーステンってのはどんな野郎だ?」
「噂によればですが、以前エレオノーラ様を追撃した際に、エトランゼによって手痛い反撃を受けていると」
「恨み返しってことか? やり過ぎだろう」
「元々、差別主義者ではあったようです。エトランゼに対して」
「いや、それにしてもだぞ。これじゃあこっちの連中はより俺達に対して恨みを募らせる。もしこれ以上内部に進軍しても、現地民の協力はほぼ得られんだろうな」
「同じ国民という言い訳が完全に潰されてしまいましたからね」
「やれやれ。戦う前から味方に足を引っ張られるとはな」
溜息を吐き、地面にどっかりとラウレンツは腰を下ろす。
「お前等も楽にしとけ! 斥候が戻って来てから今後のことは決めるから、それまでに体力を……」
言いかけたところに、正面から馬に乗った兵士が走ってくる。その鎧には見間違いようもなく、先日斥候として派遣してた兵だ。
「ラウレンツ様! こちらにお付きでしたか!」
斥候は馬から飛び降りて、地面に胡坐をかくラウレンツの前に膝をつく。
「おいおい、もうちょっと空気読んでくれよ」
「どういうことでしょうか?」
「いや、こっちの話だ。で、前線はどうか? こんなことをやらかす馬鹿野郎だが、勢いはあるし聖別騎士もいる。そろそろ一個ぐらいは街を突破したところか?」
「いえ、それが……」
言いにくそうに、伝令は顔を落とし、一度唾を飲み込む。
それから重々しくその報告を開始した。
「敵の新兵器により、エルプス方面に進軍していたカーステン卿の部隊、その先鋒が大打撃を受けて潰走。特に騎馬隊と魔法兵は手酷くやられ、当分使い物になりそうにはありません」
「……なんだと? で、当の大将はどうなった?」
「カーステン卿は東側の砦へと兵を進めていたのですが……。敵の偽報を受けてエルプスへと合流。そのまま妨害を受けて足を止められ、攻撃を受けています!」
「なん……ってこった!」
ラウレンツは思わず拳で地面を叩いていた。
「新兵器は仕方ねえが、偽報に引っかかるとは阿呆か!」
「相手側が一枚上手だったとしか……。それを仕掛けた工作部隊はカーステン卿の後方に破壊工作を仕掛け補給の妨害もしていったようです」
「ちっ。思った以上に手練れが多い……。だからといってここでカーステンとやらを見捨てりゃ、ヴィルヘルムの名前に傷がつく」
手を伸ばし、横の兵から軍旗をむしるように奪い取る。
立ち上がったラウレンツは、その旗の柄で地面を強く叩いた。
「来たばかりで悪いが、出撃だ! 目的は敗走してくる味方部隊の撤退の援護、そしたら俺達はフィノイ河まで後退するぞ!」
「せっかくここまで来たのにですか?」
「城壁も何もなもぶっ壊された街でどう護るんだよ? 聖別騎士と合流すりゃ、相手の新兵器とやらも何とかなる。後詰が来るまで耐えりゃいい。準備を急げ!」
若い兵士は短く返事をして、その場から立ち去っていく。
代わりに横に現れたのは、風変わりな格好をした一人の男だった。
「拙の出番かな?」
この辺りでは滅多に見ない羽織りに、袴と呼ばれる東方の衣服。加えて伸びた頭髪を纏めて髷と呼ばれる形にしている。
「そうなるな。エトランゼの相手は、エトランゼに限る」
「どのような敵が出てくるか、楽しみよ」
男の口が歪む。
それはまだ見ぬ強敵を夢想しての、まるで子供が楽しみしていた日の前日に見せるような、無邪気な笑顔だった。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる