26 / 67
刀祢美里の追憶 前編
しおりを挟む
南警察署の刑事、鈴村龍二はこの日上司である小暮警部に許可を得て勤務中の墓参りを許されていた。
その人物は警部もよく知る人であった
「そうか、今日は美里さんの命日だったな。十五年になるのか。もうそんなに経つんだな」
「ええ」
十五年前の出来事であったが、龍二は昨日の事のように覚えている。
「美里、今年も来たぞ」
刀祢美里の墓の前で龍二は手を合わせる。
彼女は聖菜の母であった。
そこに聖菜の祖父である太蔵がやって来て、太蔵の姿に気がついた龍二は挨拶をする。
「これはおと。。いえ、太蔵さん」
「龍二くん、今年も来てくれたんだね」
太蔵の後ろには聖菜の父親である基成(もとなり)もいて、基成と龍二は軽く会釈をする。
「基成、わしは龍二くんと少し話をする」
「わかりました。では私は先に帰っています」
基成はそれだけ言うともう一度龍二に会釈してその場を去った。
「君は今でも美里の事が?」
「はい。お恥ずかしい話ながら」
「いや、構わんよ。むしろわしを恨んでいると思っていたが」
「それは違います。刀祢家に伝わる不思議な力の事は美里からも聞いていましたし、やはり私には神社の神主は無理だったんです。彼女が基成くんを選んだのは間違いじゃなかったと思ってます」
「わしが美里と君の結婚に反対したのは、刑事として活動している君が我が家に伝わる力と心霊現象に本気で向き合ってくれるとは思わなかったからだ。いや、そうしろという方がむしろ君にとっては厳しいであろうと考えていた」
「おっしゃる通りです。私は刑事という立場上、心霊現象による事件などまともに取り扱う事は出来ません。現実的な裏付けと確証があっての事件解決を信条としていた私に美里と過ごした日々はあまりにも非現実的で、それを認めてしまう自分が正直恐ろしかったのです」
「今は聖菜の事を遠目で見守ってくれていると聞いているが」
「聖菜ちゃんが大人になって美里に似てくるのを見るたびに、またあんな凄惨な事件に巻き込まれるんじゃないかと不安になります」
「そうじゃのう。あの子は美里が亡くなったあの時よりもさらに若い。わしはもう身内がこれ以上犠牲になるのを見たくはないんだがな」
「お察し致します」
そんな会話をしている時に龍二の携帯が鳴り響く。
どうやら事件が発生したようで呼び出しの連絡であった。
「すみません、事件があったようで私はこれで失礼します」
「こちらこそ呼び止めてすまなかった」
龍二は一礼して美里の墓から去っていった。
そして太蔵も基成と墓参りを済ますと神社へと戻って行った。
太蔵たちが去ってからすぐ、聖菜も美里のお墓参りに現れた。
「お母さん。。」
聖菜はバックからジャスミン茶のペットボトルを取り出し、墓石の上からかけると芳香な香りと共に墓石の下に滴り落ちる。
「お母さんが大好きだったジャスミン茶。これでお祝いしようと思ってね」
聖菜は幼い頃、母親を悪霊との戦いで亡くしている。
一族最強の力を持つ祖父太蔵が不在の出来事であった
父は養子で来た人だったので刀根家に伝わる不思議な力は持っていなかった。
その力を祖父太蔵から受け継いだのは聖菜の母、美里であった。
その時聖菜はまだ五歳で、能力の片鱗は見せていたが式神も付いていなかった。
⭐︎⭐︎⭐︎
十五年前。
刀祢美里は二十九歳。
今の聖菜と同じように心の闇が霊体化した異形の者を浄化する仕事をしていた。
夫である基成(もとなり)は神社の神主を務めていて、美里は聖菜を育てながら霊媒を専門にやる霊媒師であった。
無論、二十一世紀になったこの時代に心霊だのモノ付きだのを信じる者などそうはいない。
それでも、悩んでいる人たちが少なからずいる事も確かだ。
美里は持って生まれた自分の能力を人助けのために使いたいと思っていた。
父である太蔵は反対したが、式神を呼ぶ力を見て美里の能力は認めざるを得ないものであった。
結局、太蔵は美里を自身の後継者と正式に認める事となる。
南警察暑の鈴村龍二と美里は幼馴染で小学校から高校まで同じであった。
龍二が父親と同じ警察官になるために警察学校に行く事となり、大学からは離れたが二人は幼馴染で良き友人といったところだ。
厳密に言えば龍二の片思いで美里は龍二の事をどう思っていたのか今では知る事は出来ないが。
結局、美里は本間基成という同じ神社をやっている神主の息子を養子に向かい入れる形で二十三歳の時に結婚した。
刑事である龍二との結婚を美里の父、太蔵が難色を示したのも大きな要因であった。
刑事という職業柄、怪奇現象と対峙する刀祢家の一員として迎えるのは無理があるとの判断からであった。
美里が結婚して聖菜が生まれてからも龍二と美里は月に何度か顔を合わせていた。
警察が捜査出来ない不思議な現象や事件を美里に見てもらうためである。
聖菜は五歳になり、ようやく物心つく歳になって来たばかりだ。
母、美里がどういう仕事をしているのかまで理解は出来なくとも、それが危険で誰かがやらな
ければならないという事はわかっていた。
会社帰りに女に呼び出された矢作邦明(やはぎくにあき)は苛ついたのか強い口調で文句を言う。
「おい、何の用だ?俺は忙しいんだ。話なら手短に済ませろよ」
邦明に半ば恫喝するような言葉にも女は表情を変えることがなかった。
「私のお金、返して」
「ああ、あれか。マンションを買う金が少し足りなくてな。ちょいと拝借したまでよ。どうせ一緒に暮らすんだから構わねえだろ」
「誰が一緒に暮らすなんて言った?」
「今さら何を言っているんだ。お前が俺から逃げられると思うなよ」
「お金を返してって言っているんだけど」
「お前の金は俺のもの。俺の金も俺のもの。また溜め込めばいいじゃねえか。けちけちするんじゃねえよ。他に用がねえから帰るからな」
そう言って帰ろうとした邦明に女はまるで人が変わったかのように低くドスの効いた声を出す。
「邦明、死んで」
そのひと言に邦明の怒りが一気に膨れ上がった。
「てめえ、何言ってんだ。ふざけてるとぶっ殺すぞ」
矢作邦明は女に掴み掛かるが、女性とは思えない力で逆に顎を鷲掴みにされて邦明は悲鳴をあげる。
「死ぬのはあなたよ」
女が腕に力を込めて捻るとメキっという不気味な音と共に邦明の顎の骨が外れた。
「ぐわあああ」
さらに邦明の顎を掴んだまま持っていた霊剣で胸と腹を突き刺し、顎から手を離すと邦明はその場にへたり込む。
「耳なし芳一の話を知っているかしら?あれは確か耳だけに怨霊除けの経文を書き忘れて耳を切られたのよね」
女はそういって邦明の耳を引っ張り上げて両耳を斬り落とす。
再び絶叫が辺りに響き渡る。
「私はあなたの耳が目障りだから切り取ったのよ。次はいつも私を睨みつけるその汚らしい目もえぐり取ろうかしら」
霊剣の先端が邦明の右目を貫ぬき、眼球が抉り取られる。
左目も同様に霊剣で突き刺して抉り取る。
「どうせ死んだら肉体はあの世に持っていけないんだから。目も耳も必要ないでしょ。あとその腐った脳みそもね」
そう言い終えると霊剣で邦明を頭から串刺しにした。
脳に突き刺された剣が顎から突き出し、矢作邦明は息絶えた。
血まみれになった自分の手を見て女は呟く。
「あなたが悪いのよ。私に言い寄って来て、都合よく利用してお金を勝手に使い込んだから。。」
冷ややかな眼差しで遺体を睨みつけ、女はその場から立ち去っていった。
その人物は警部もよく知る人であった
「そうか、今日は美里さんの命日だったな。十五年になるのか。もうそんなに経つんだな」
「ええ」
十五年前の出来事であったが、龍二は昨日の事のように覚えている。
「美里、今年も来たぞ」
刀祢美里の墓の前で龍二は手を合わせる。
彼女は聖菜の母であった。
そこに聖菜の祖父である太蔵がやって来て、太蔵の姿に気がついた龍二は挨拶をする。
「これはおと。。いえ、太蔵さん」
「龍二くん、今年も来てくれたんだね」
太蔵の後ろには聖菜の父親である基成(もとなり)もいて、基成と龍二は軽く会釈をする。
「基成、わしは龍二くんと少し話をする」
「わかりました。では私は先に帰っています」
基成はそれだけ言うともう一度龍二に会釈してその場を去った。
「君は今でも美里の事が?」
「はい。お恥ずかしい話ながら」
「いや、構わんよ。むしろわしを恨んでいると思っていたが」
「それは違います。刀祢家に伝わる不思議な力の事は美里からも聞いていましたし、やはり私には神社の神主は無理だったんです。彼女が基成くんを選んだのは間違いじゃなかったと思ってます」
「わしが美里と君の結婚に反対したのは、刑事として活動している君が我が家に伝わる力と心霊現象に本気で向き合ってくれるとは思わなかったからだ。いや、そうしろという方がむしろ君にとっては厳しいであろうと考えていた」
「おっしゃる通りです。私は刑事という立場上、心霊現象による事件などまともに取り扱う事は出来ません。現実的な裏付けと確証があっての事件解決を信条としていた私に美里と過ごした日々はあまりにも非現実的で、それを認めてしまう自分が正直恐ろしかったのです」
「今は聖菜の事を遠目で見守ってくれていると聞いているが」
「聖菜ちゃんが大人になって美里に似てくるのを見るたびに、またあんな凄惨な事件に巻き込まれるんじゃないかと不安になります」
「そうじゃのう。あの子は美里が亡くなったあの時よりもさらに若い。わしはもう身内がこれ以上犠牲になるのを見たくはないんだがな」
「お察し致します」
そんな会話をしている時に龍二の携帯が鳴り響く。
どうやら事件が発生したようで呼び出しの連絡であった。
「すみません、事件があったようで私はこれで失礼します」
「こちらこそ呼び止めてすまなかった」
龍二は一礼して美里の墓から去っていった。
そして太蔵も基成と墓参りを済ますと神社へと戻って行った。
太蔵たちが去ってからすぐ、聖菜も美里のお墓参りに現れた。
「お母さん。。」
聖菜はバックからジャスミン茶のペットボトルを取り出し、墓石の上からかけると芳香な香りと共に墓石の下に滴り落ちる。
「お母さんが大好きだったジャスミン茶。これでお祝いしようと思ってね」
聖菜は幼い頃、母親を悪霊との戦いで亡くしている。
一族最強の力を持つ祖父太蔵が不在の出来事であった
父は養子で来た人だったので刀根家に伝わる不思議な力は持っていなかった。
その力を祖父太蔵から受け継いだのは聖菜の母、美里であった。
その時聖菜はまだ五歳で、能力の片鱗は見せていたが式神も付いていなかった。
⭐︎⭐︎⭐︎
十五年前。
刀祢美里は二十九歳。
今の聖菜と同じように心の闇が霊体化した異形の者を浄化する仕事をしていた。
夫である基成(もとなり)は神社の神主を務めていて、美里は聖菜を育てながら霊媒を専門にやる霊媒師であった。
無論、二十一世紀になったこの時代に心霊だのモノ付きだのを信じる者などそうはいない。
それでも、悩んでいる人たちが少なからずいる事も確かだ。
美里は持って生まれた自分の能力を人助けのために使いたいと思っていた。
父である太蔵は反対したが、式神を呼ぶ力を見て美里の能力は認めざるを得ないものであった。
結局、太蔵は美里を自身の後継者と正式に認める事となる。
南警察暑の鈴村龍二と美里は幼馴染で小学校から高校まで同じであった。
龍二が父親と同じ警察官になるために警察学校に行く事となり、大学からは離れたが二人は幼馴染で良き友人といったところだ。
厳密に言えば龍二の片思いで美里は龍二の事をどう思っていたのか今では知る事は出来ないが。
結局、美里は本間基成という同じ神社をやっている神主の息子を養子に向かい入れる形で二十三歳の時に結婚した。
刑事である龍二との結婚を美里の父、太蔵が難色を示したのも大きな要因であった。
刑事という職業柄、怪奇現象と対峙する刀祢家の一員として迎えるのは無理があるとの判断からであった。
美里が結婚して聖菜が生まれてからも龍二と美里は月に何度か顔を合わせていた。
警察が捜査出来ない不思議な現象や事件を美里に見てもらうためである。
聖菜は五歳になり、ようやく物心つく歳になって来たばかりだ。
母、美里がどういう仕事をしているのかまで理解は出来なくとも、それが危険で誰かがやらな
ければならないという事はわかっていた。
会社帰りに女に呼び出された矢作邦明(やはぎくにあき)は苛ついたのか強い口調で文句を言う。
「おい、何の用だ?俺は忙しいんだ。話なら手短に済ませろよ」
邦明に半ば恫喝するような言葉にも女は表情を変えることがなかった。
「私のお金、返して」
「ああ、あれか。マンションを買う金が少し足りなくてな。ちょいと拝借したまでよ。どうせ一緒に暮らすんだから構わねえだろ」
「誰が一緒に暮らすなんて言った?」
「今さら何を言っているんだ。お前が俺から逃げられると思うなよ」
「お金を返してって言っているんだけど」
「お前の金は俺のもの。俺の金も俺のもの。また溜め込めばいいじゃねえか。けちけちするんじゃねえよ。他に用がねえから帰るからな」
そう言って帰ろうとした邦明に女はまるで人が変わったかのように低くドスの効いた声を出す。
「邦明、死んで」
そのひと言に邦明の怒りが一気に膨れ上がった。
「てめえ、何言ってんだ。ふざけてるとぶっ殺すぞ」
矢作邦明は女に掴み掛かるが、女性とは思えない力で逆に顎を鷲掴みにされて邦明は悲鳴をあげる。
「死ぬのはあなたよ」
女が腕に力を込めて捻るとメキっという不気味な音と共に邦明の顎の骨が外れた。
「ぐわあああ」
さらに邦明の顎を掴んだまま持っていた霊剣で胸と腹を突き刺し、顎から手を離すと邦明はその場にへたり込む。
「耳なし芳一の話を知っているかしら?あれは確か耳だけに怨霊除けの経文を書き忘れて耳を切られたのよね」
女はそういって邦明の耳を引っ張り上げて両耳を斬り落とす。
再び絶叫が辺りに響き渡る。
「私はあなたの耳が目障りだから切り取ったのよ。次はいつも私を睨みつけるその汚らしい目もえぐり取ろうかしら」
霊剣の先端が邦明の右目を貫ぬき、眼球が抉り取られる。
左目も同様に霊剣で突き刺して抉り取る。
「どうせ死んだら肉体はあの世に持っていけないんだから。目も耳も必要ないでしょ。あとその腐った脳みそもね」
そう言い終えると霊剣で邦明を頭から串刺しにした。
脳に突き刺された剣が顎から突き出し、矢作邦明は息絶えた。
血まみれになった自分の手を見て女は呟く。
「あなたが悪いのよ。私に言い寄って来て、都合よく利用してお金を勝手に使い込んだから。。」
冷ややかな眼差しで遺体を睨みつけ、女はその場から立ち去っていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる