霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

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刀祢美里の追憶 後編

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美里は那由多の気を探る能力を利用して三ノ宮ひなたの足跡を追っていた。
那由多は霊的な気でなくても、一度会った人間の気を追うことが出来る。
龍二から電話で聞いたひなたの向かっていると思われる料亭までは今いる場所から歩いて二十分ほどだ。

だが、その追跡は対象者によって中断された。
三ノ宮ひなたが美里と那由多の行手に立ち塞がっていた。
彼女は会社に出た時から美里と那由多の気配を感じ取っていたのだ。

「さっきから私のあとをつけてきてどうしようっていうの?」

「やはり気がついていたのね」

美里はこれでも尾行には自信があった。
何しろ現役の刑事である龍二から手ほどきを受けているからだ。
だが、ひなたは美里だけでなく那由多の気配も感じ取っているようだった。

「その猫、ただの猫じゃないわね」

「この猫の姿が見えるあなたも只者じゃないわね」

美里の言葉にひなたは一歩、二歩と後ろに下がって警戒の構えを見せる。

「矢作邦明と何があったか詳しい事は知らないけど、今回の事件はあなたが。厳密に言えばあなたの霊体のやったのね」

「あなたは一体何者なの?」

「霊媒師、刀祢美里。あなたのように怒りや怨念が霊体となって本体から離れて巻き起こす事件を調査して、霊体を浄化させるのが仕事よ」

浄化という言葉にもひなたは敏感に反応した。

「今回の事件現場を見せてもらったけど、相当な根の深い恨みだったようね」

「霊媒師だか何だかわからないけど、あなたに話す事はありません」

「あなたになくても私にはあるわ。あまり気は進まないけど、話してくれないのなら呪術で口を割らせた方がいいかしら?」

「呪術。。」

呪術と聞いてひなたは怯えたような表情を見せる。

「。。あいつが悪いのよ。会社でいつも一人でいた私に言葉巧みに近寄って来て、普段から男の人と話す事に慣れていなかった私は甘い言葉に完全に騙されて、気がついた時にはいいように利用されていた。お金目当てで近寄って来たってね。そうとは知らずに食事のたびにお金を払わされ、旅行や買い物の代金も全部払わされた。

始めは特に何とも思わなかったけど、途中からお金を持ち歩いていない事を不審に思って聞いてみたら、「だってお前が払うから必要ないじゃん」って言われて。。その時に初めて騙されてた事に気がついたの」

「あなたがお金を貯めていたのをどうやって知ったの?」

「何度か家に上がらせた事があったんだけど、その時に私の目を盗んで財布の中からキャッシュカードを盗み出したんだと思う。私は家にいる時、財布をいつもカバンの中に入れっぱなしにして部屋においているから。。迂闊だったと後悔している」

「矢作はそのキャッシュカードを使ってあなたの預金を自分の口座に移動させたのね」

「邦明の住んでいたタワーマンション。あれは私が貯めたお金を勝手に自分の口座に移して買ったもの。私がカードがない事に気がついて邦明に詰め寄った時にはもう遅かった。預金はほとんど全額引き落とされていて残高はほんの数万円しか残ってなかったわ」

「なぜ警察と銀行に通報しなかったの?それだけの金額を勝手に使い込んだなら横領罪で起訴出来たでしょう」

「そんな事で私の怒りは収まらない。。何度も別れようとしたけどその度に脅されて、もう殺す以外にあいつと別れる方法はなかった」

「その意味では矢作邦明に同情の余地はないと思う。だけど、あなたもこれ以上暴走を繰り返すのはやめなさい。ここにいるのは料亭で会食中の上長を狙うためだったんでしょう」

「課長は日頃から私を馬鹿にして見下した目で見ていた。挨拶しても無視されるし、仕事が少し遅れただけで烈火の如く文句を言われて毎日会社に行くのが苦痛だった」

「それから他の仕事を探せばいい。ここでなければいけない理由はないでしょ?合わない場所に居ても芽は出ないわよ」

「あんたに何がわかるの!」

ひなたは突然怒りの霊気を発して美里を威圧してきた。

「凄まじい怒りの霊気。。相当な恨みを溜め込んでいたのね。それなのに那由の霊視に引っかからないほど巧みに自分の霊力を抑えていた。大したものね」

「ボクもまだまだだな」

美里は聖剣神楽を式札から取り出す。
普段は式札に収納されているが、美里が術式を唱えると剣となって現れる。

「大人しくしなさいと言ったところでしてくれそうにないわね」

美里とひなたは剣で打ち合うが、凄まじい怒りのエネルギーを放出しながら打ち合って来るひなたに美里がやや押されて来た。

「美里、相手の怨念は相当なものだよ。君の力じゃ無理だ。式神を呼んだ方がいい」

「そう思っていたところよ」

美里はまともに霊剣で打ち合っては分が悪いと判断し、再び式札を取り出した。

「涅槃(ねはん)より甦れ青龍。わか命に従いこの女性に取り憑く怨念を打ち払え」

美里の式神である十二天将の一人、青龍が現れる。
美里の操る最強の式神である。

「青龍、彼女の動きを封じて」

「承知いたしました」

青龍は青い髪に方天戟(ほうてんげき)を持って戦う戦闘タイプの式神。
見た目は二十代くらいの美麗な男性だが、齢二千年を超える。
その強さは天界最強の二郎神君に匹敵すると言われている。

「な、何なの?この化け物は」

「君に化け物呼ばわりされるとは筋違いもいいところだな」

青龍は方天戟を腰から左右にぐるぐると回す舞花棍(ぶかこん)をおこなうと前に構えた。
包丁程度の長さしかないひなたの霊剣に対して一八〇センチはある青龍の方天戟。
だが、霊剣は自在に伸縮出来る。
ひなたは霊剣を日本刀ほどの長さにまで変化させると青龍に向かって来た。

「その心意気や潔し」

ひなたの霊剣と青龍の方天戟が激突するが、実力に差があり過ぎた。
素人の美里と違い、達人の青龍相手に力任せの剣技が通用するはずもなく、青龍はひなたの霊剣を方天戟で弾き飛ばした。
美里はそれを待っていたかのように剣を真上に掲げると、空中に四縦五横が描かれて格子の糸状の線が現れひなたの霊体を捕えた。

「格子糸に絡み取られたら動けないよ」

「こんな糸が切れない。。」

ひなたの霊体がもがけばもがくほど格子糸は身体に絡みつき身動きが取れなくなる。

「往生せよ」

美里の聖剣神楽が一閃され三ノ宮ひなたの霊体は胴体を真っ二つにされると霧状になって消えていった。

「青龍、ありがとう」

「これくらいお安い御用です」

無事に浄化が済むと青龍は式札へと戻っていった。
霊体が斬られると糸が切れたようにその場に倒れたひなた。

「龍二、こっちは片付いたわ。三ノ宮ひなたを連れて帰りたいから迎えに来てくれる」

美里は龍二に迎えに来てくれるよう連絡を取る。




目が覚めると三ノ宮ひなたは布団の中で寝かされていた。

「ここはどこ?」

「目が覚めたようね。ここは刀祢神社内にある事務所の休憩室よ」

美里に声をかけられてひなたは今までの事が夢だったのかと思っていた。

「私、長くて悪い夢を見ていたようです。。」

「そうね、あれは夢だった。そう思えばいいわ」

ひなたは自分が起こした事件については何も覚えていなかった。
美里はむしろトラウマを抱えて生きていくよりもこの方がいいと思った。
警察も事故としてすでに処理していると龍二から連絡があり、ひなたが今後警察に呼ばれるような事もないであろう。

「でもね、取られたお金は夢じゃなく現実だから、ちゃんと警察と弁護士に相談して取り返せるようにしなきゃダメよ」

「はい。そうしようと思ってます。それから、会社も辞めようと思います。美里さんが言われたように、何も得られない場所に居ても自分が苦しむだけというのがよくわかりました。もう一度自分を見つめ直して一から出直します。色々とお世話になりました」

その後ひなたは警察に出向いて被害届を提出し、今後は弁護士と相談しながら矢作の親族を相手にお金を取り返す事になりそうだ。
こうして事件は幕を閉じた。


「美里、今回は世話になったな」

龍二が美里に礼を言うと美里はにこりと笑う。

「私たちお互いにお世話になっている同士でしょ。学生時代からの腐れ縁ってやつよ。聖菜もそう思わない?」

「腐れ縁ってなに?」

五歳の聖菜にそう問いかけられ龍二が答える。

「腐っても切れない縁。つまり離れられない関係って事だよ」

「ちょっと、それは変な解釈じゃない? 私は子供の頃からお互いよく知っている間柄って意味で言ったのよ」

「それはそうだけどさ、俺が言ったのも意味は合ってるんじゃないか?」

「意味が合ってるとかじゃなくて、聖菜が変な勘違いするような事を言わないでよ」

強いというより困惑の口調で美里に言われて龍二は「はいはい」と返事をするしかなかった。
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