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序章
偽高麗人参事件 中
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桜がおかみに連れられて向かったのは河原であった。
「こんな所に高麗人参があるのですか?」
桜の問いにも「黙ってついておいで」としか返答しない。
河原には屋形船が岸に付けられていて、おかみが合図すると中から主人らしき男が出てくる。
「あんた、この娘が高麗人参を欲しがっている。一袋売ってやってくれ」
おかみの言葉に主人はすぐに動かずに桜をじっと観察していた。
かなり用心深い人物のようだ。
「。。お前、ただの町娘じゃないな」
「私は蕎麦屋の娘です。何か私に落ち度がありましたでしょうか?」
「歩き方だよ。武芸をやっている者の独特の足運び。ただの町娘にそんな歩き方は出来ねえ」
主人が屋形船の中に入ると用心棒らしき浪人が三人出て来た。
「隠密の可能性もある。始末してしまえ」
主人の命令に浪人たちが一斉に刀を抜き、桜に襲い掛かる。
「仕方ない」
桜は帯の中から短剣を取り出す。
町娘の着物を着ているが、こういった時のために足元は動きやすくしてある。
驚異的な脚力で相手との間合いに一気に詰めより、一人目の浪人の右腕が短剣で斬られポトリと落ちる。
浪人は一瞬何が起きたかわからなかったが、自分の腕が刀ごと落ちたのを確認すると悲鳴を上げた。
「うわあああ」
桜はすかさず落ちた腕から刀を奪い取る。
「刀の使い方を教えてあげるよ」
桜が刀を中段に構えると左右から斬りかかった浪人二人が一瞬にして左右の一文字斬りで倒された。
「桜流抜刀術焔乃舞」
あっという間に三人が斬り倒されたのを見て主人は女将と共に屋形船に急ぎ乗り込む。
「番頭、船を出せ! 早くしろ」
主人の怒鳴り声に番頭が慌てて船を出す。
「逃がすものか!」
桜は助走をつけて跳躍する。
タン! という強力な足音と共に華麗に空を舞うように飛ひ、屋形船に飛び乗った。
襖を開け、屋形船の中に入り込むと主人とおかみに刀を突きつける。
「高麗人参をこちらへ渡してもらおうか」
「は。。はい」
主人はさっきまでの威勢はどこかに吹き飛んでしまったようで、恐る恐る偽の高麗人参を桜に手渡す。
「これをどこで手に入れた?」
「知らねえ。。」
「ならば質問を変えよう。誰の指示で売っている?」
桜はこの二人は単なる末端の売り子で裏に大元がいると睨んでいた。
「くそ!」
主人が懐から小刀を出して桜に襲い掛かるが、軽々かわされ腕を取られるとあらぬ方向にへし折られる。
「ぐあ!」
剣を使わなくても桜は強い。
徳川吉宗は柔術の達人でもあり、桜も柔術を会得しているからだ。
「大人しくしていれば痛い目に遭わずに済んだものを。さあ、お前たちに偽の高麗人参を売るよう命じているのは誰だ?」
そこまで桜が言ったところで四方向の襖が破られ、外から新たな刺客が襲い掛かった。
桜は前へ飛ぶと前方の敵を突きで弾き飛ばす。
「桜流抜刀術華一閃」
額を突かれた刺客は一撃で絶命した。
しかし刺客が狙っていたのは桜ではなく商人の二人であった。
口封じに斬ったのである。
「しまった!」
桜は中の二人に気を取られて外にいた番頭の存在を失念し、証人が消されてしまった。
外で屋形船を漕いでいた番頭が危険を察知して近くに待機していた仲間を呼び寄せたのである。
残る三人の刺客が桜に迫る。
襖から屋形船の外に出るといつの間にか船が川岸に付けられていた。
その時、桜を呼ぶ声。左近であった。
「桜!」
「姉さん!」
左近が火薬玉を破裂させると桜は素早くその場から立ち去った。
「姉さん、しくじった。ごめん」
桜は剣の実力は御庭番最強だが、忍びとしてはまだ未熟で、大事な証人をみすみす消されてしまった事を左近に詫びた。
「いや、あの刺客三人がどこへ行くか後を追えば雇い主がわかるかも知れない。一度の失敗は成功で取り返すしかないよ」
左近にそう言われて桜は気持ちを切り替えた。
「姉さんの方は何かわかった?」
「薬屋を当たっていったけど、薬屋で怪しい店も人物もいなかった。そこで最近売り上げを上げて羽振りのいい店がないか聞き込んだら日本橋の伊勢屋という名前が出てきたよ」
「伊勢屋? 伊勢屋って積荷問屋の?」
左近はうなずく。
「問屋を利用して偽の高麗人参を売りさばく奴がいて、伊勢屋はその仲介をして手数料を儲けている。或いは伊勢屋自身が偽の高麗人参を売りさばいている可能性もあるわね。まだ証拠がないから、何とも言えないけど。桜の方はどうだった?」
「私はさっき口封じで殺害されてしまった商人らしき夫婦から偽の高麗人参を手に入れたよ」
桜は偽の高麗人参を左近に見せる。
「これが手に入っただけでも収穫だったよ。私はあいつらを追ってみる。桜はこれを小石川養生所の彩雲先生のところへ持っていって調べてもらって」
「わかった」
小石川養生所は町医者であった小川笙船の目安箱への投書により、吉宗が貧しい領民のために無料で病気や怪我の治療が受けられるようにと作られた施設である。
「彩雲先生、これをご検分下さい。近頃江戸に出回っている偽の高麗人参です」
桜に差し出された偽の高麗人参を養生所医師、榊原彩雲は小刀で少しげずり、舌で舐めて確認する。
彩雲は大岡越前の友人でもあるので、桜の事も周知している。
「これはただの木の根だな。いかにも高麗人参のように見える部分を切り取って集めたのだろう。飲んだら身体を壊すだけだ。医師としてこんな物を売る奴は許せんな」
彩雲はため息混じりに言う。
「彩雲先生、これ以上騙されて身体を壊す女の子が出ないためにも、私たちが必ず出所を突き止めて犯人を捕らえます」
「俺も何か手掛かりが掴めたらすぐに忠相に知らせよう。よろしく頼んだぞ」
一方、左近は桜が接近した商人夫婦の口を封じた浪人三人の後を追う。
浪人が向かった先は伊勢屋であった。
「やはり伊勢屋が裏で絡んでるようね」
「こんな所に高麗人参があるのですか?」
桜の問いにも「黙ってついておいで」としか返答しない。
河原には屋形船が岸に付けられていて、おかみが合図すると中から主人らしき男が出てくる。
「あんた、この娘が高麗人参を欲しがっている。一袋売ってやってくれ」
おかみの言葉に主人はすぐに動かずに桜をじっと観察していた。
かなり用心深い人物のようだ。
「。。お前、ただの町娘じゃないな」
「私は蕎麦屋の娘です。何か私に落ち度がありましたでしょうか?」
「歩き方だよ。武芸をやっている者の独特の足運び。ただの町娘にそんな歩き方は出来ねえ」
主人が屋形船の中に入ると用心棒らしき浪人が三人出て来た。
「隠密の可能性もある。始末してしまえ」
主人の命令に浪人たちが一斉に刀を抜き、桜に襲い掛かる。
「仕方ない」
桜は帯の中から短剣を取り出す。
町娘の着物を着ているが、こういった時のために足元は動きやすくしてある。
驚異的な脚力で相手との間合いに一気に詰めより、一人目の浪人の右腕が短剣で斬られポトリと落ちる。
浪人は一瞬何が起きたかわからなかったが、自分の腕が刀ごと落ちたのを確認すると悲鳴を上げた。
「うわあああ」
桜はすかさず落ちた腕から刀を奪い取る。
「刀の使い方を教えてあげるよ」
桜が刀を中段に構えると左右から斬りかかった浪人二人が一瞬にして左右の一文字斬りで倒された。
「桜流抜刀術焔乃舞」
あっという間に三人が斬り倒されたのを見て主人は女将と共に屋形船に急ぎ乗り込む。
「番頭、船を出せ! 早くしろ」
主人の怒鳴り声に番頭が慌てて船を出す。
「逃がすものか!」
桜は助走をつけて跳躍する。
タン! という強力な足音と共に華麗に空を舞うように飛ひ、屋形船に飛び乗った。
襖を開け、屋形船の中に入り込むと主人とおかみに刀を突きつける。
「高麗人参をこちらへ渡してもらおうか」
「は。。はい」
主人はさっきまでの威勢はどこかに吹き飛んでしまったようで、恐る恐る偽の高麗人参を桜に手渡す。
「これをどこで手に入れた?」
「知らねえ。。」
「ならば質問を変えよう。誰の指示で売っている?」
桜はこの二人は単なる末端の売り子で裏に大元がいると睨んでいた。
「くそ!」
主人が懐から小刀を出して桜に襲い掛かるが、軽々かわされ腕を取られるとあらぬ方向にへし折られる。
「ぐあ!」
剣を使わなくても桜は強い。
徳川吉宗は柔術の達人でもあり、桜も柔術を会得しているからだ。
「大人しくしていれば痛い目に遭わずに済んだものを。さあ、お前たちに偽の高麗人参を売るよう命じているのは誰だ?」
そこまで桜が言ったところで四方向の襖が破られ、外から新たな刺客が襲い掛かった。
桜は前へ飛ぶと前方の敵を突きで弾き飛ばす。
「桜流抜刀術華一閃」
額を突かれた刺客は一撃で絶命した。
しかし刺客が狙っていたのは桜ではなく商人の二人であった。
口封じに斬ったのである。
「しまった!」
桜は中の二人に気を取られて外にいた番頭の存在を失念し、証人が消されてしまった。
外で屋形船を漕いでいた番頭が危険を察知して近くに待機していた仲間を呼び寄せたのである。
残る三人の刺客が桜に迫る。
襖から屋形船の外に出るといつの間にか船が川岸に付けられていた。
その時、桜を呼ぶ声。左近であった。
「桜!」
「姉さん!」
左近が火薬玉を破裂させると桜は素早くその場から立ち去った。
「姉さん、しくじった。ごめん」
桜は剣の実力は御庭番最強だが、忍びとしてはまだ未熟で、大事な証人をみすみす消されてしまった事を左近に詫びた。
「いや、あの刺客三人がどこへ行くか後を追えば雇い主がわかるかも知れない。一度の失敗は成功で取り返すしかないよ」
左近にそう言われて桜は気持ちを切り替えた。
「姉さんの方は何かわかった?」
「薬屋を当たっていったけど、薬屋で怪しい店も人物もいなかった。そこで最近売り上げを上げて羽振りのいい店がないか聞き込んだら日本橋の伊勢屋という名前が出てきたよ」
「伊勢屋? 伊勢屋って積荷問屋の?」
左近はうなずく。
「問屋を利用して偽の高麗人参を売りさばく奴がいて、伊勢屋はその仲介をして手数料を儲けている。或いは伊勢屋自身が偽の高麗人参を売りさばいている可能性もあるわね。まだ証拠がないから、何とも言えないけど。桜の方はどうだった?」
「私はさっき口封じで殺害されてしまった商人らしき夫婦から偽の高麗人参を手に入れたよ」
桜は偽の高麗人参を左近に見せる。
「これが手に入っただけでも収穫だったよ。私はあいつらを追ってみる。桜はこれを小石川養生所の彩雲先生のところへ持っていって調べてもらって」
「わかった」
小石川養生所は町医者であった小川笙船の目安箱への投書により、吉宗が貧しい領民のために無料で病気や怪我の治療が受けられるようにと作られた施設である。
「彩雲先生、これをご検分下さい。近頃江戸に出回っている偽の高麗人参です」
桜に差し出された偽の高麗人参を養生所医師、榊原彩雲は小刀で少しげずり、舌で舐めて確認する。
彩雲は大岡越前の友人でもあるので、桜の事も周知している。
「これはただの木の根だな。いかにも高麗人参のように見える部分を切り取って集めたのだろう。飲んだら身体を壊すだけだ。医師としてこんな物を売る奴は許せんな」
彩雲はため息混じりに言う。
「彩雲先生、これ以上騙されて身体を壊す女の子が出ないためにも、私たちが必ず出所を突き止めて犯人を捕らえます」
「俺も何か手掛かりが掴めたらすぐに忠相に知らせよう。よろしく頼んだぞ」
一方、左近は桜が接近した商人夫婦の口を封じた浪人三人の後を追う。
浪人が向かった先は伊勢屋であった。
「やはり伊勢屋が裏で絡んでるようね」
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