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大奥暗殺帳編
大奥暗殺帳 二
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泉凪が大奥で捜索している時、桜は吉宗に大奥で起きている一連の内容を伝えていた。
「月光院の命を狙う者がいるか。。」
「大奥別式である鬼頭泉凪は天英院様を怪しいと睨んでおりますが、当の月光院様が天英院様ではないとおっしゃられるので、私もまずは他を当たるように助言致しましたが」
「天英院と月光院が合わないのは出身が公家と庶民というところでの考え方の違いによるものだ。位から言えば天英院が第一で月光院は第二。それは当人たちもわかっていようし、互いに命を狙うような事は考えておるまい。二人ともそれくらいの思慮はあるからな」
「では、やはり別の何者かが?」
「大奥では余の目も行き届かぬ。相手にもよるが、その鬼頭泉凪とやら一人では手に負えなくなる可能性もあるな」
「泉凪を助けたく存じます」
その言葉を聞いて吉宗は桜に問いかける。
「桜、お前まさか自分も大奥に潜入しようなどと考えてはおるまいな」
吉宗の一言に桜は思わず身体をピクリとさせた。
それを見て吉宗は笑いながら言う。
「正直な奴だ。お前なら女中として潜入させても上手くやるであろうがな」
「もし上様のお許しを頂けるなら」
「ならば近日中に余は月光院と食事をする。その時に大奥へ一緒に出向き、桜を月光院に紹介しよう」
「ありがとうございます」
⭐︎⭐︎⭐︎
江島を失い、実子であった七代将軍家継も失った月光院は表向きはこれまでの変わらなかったが、伴侶と信頼していた者に我が子まで失った喪失感は大きく、彼女は孤独であった。
それに比べれば天英院も同じく伴侶を失っているとはいえ、京から連れてきた者たちが身の回りを世話をしている。
話し相手や相談相手がいるぶんまだいいと言えよう。
上臈御年寄、錦小路もその一人であった。
「錦小路、江島の一件で空席となった御年寄に新たに任命された宮守。彼奴は江島の下にいた者であったな」
「はい。元々は江島付きの女中でした。江島がいなければもっと早く御年寄に出世していたと思われるほど才能に長けておりますが、常に表情を変えず、口数も少ないために何を考えているのかわからない人物でもあります。我々の言葉にも常にのらりくらりとかわすような態度で、人物像が見えてきませぬ」
宮守は元は江島が選んだ女中であった。
容姿は淡麗だが、自己の考えや表情を出す事をほとんどなく、江島も月光院に付かせるには一抹の不安を感じて自身の下に置いていた。
江島に次ぐ才女と言われて江島の居なくなった後、天英院派と月光院派で二分されている大奥においてどちらにも属さない中立を保ち、この地位を確立したのだから相当な手練れであると言えよう。
「得体の知れぬという事か。錦小路、宮守を見張っておけ」
「見張るのでございますか?宮守は月光院とは直接的な関係はないと見受けられますが。。」
「なればこそよ。妾と月光院の勢力に割って入り込み、大奥の権力を手中に収めんとする者が現れても不思議ではあるまい」
「かしこまりました」
錦小路が去った後、天英院は胸騒ぎを感じていた。
「非凡な才能を持ちながらあえて前に出ず、江島がいなくなった後に頭角を現し始めたというのが気になる。もしや一連の江島生島事件も裏で手を回していたのではあるまいな。そして邪魔者を排除し、その後釜についたのだとしたら。。考えすぎかのう。この大奥に大きな災いをもたらさねばよいが」
⭐︎⭐︎⭐︎
「月光院は完全に腑抜けでございます」
高島が平伏している先にいるのは江島の後を受けて御年寄となった宮守。
大奥でも江島に次ぐ才女であったが、反面何を考えているのか得体の知れない人物とも噂されていた。
「腑抜けのう。本当にそうであればいいがな」
「月光院の今の姿は仮の姿であると?」
「七代将軍と江島がいなくなり、勢力と気を落としているのは確かであろう。だがのう、高島。あの女は一介の街娘から御台所にまで上がったのじゃ。あまり甘く見ぬ方が良いぞ」
「。。はい」
宮守も一介の街娘から御年寄にまで出世した人物である。
同じ境遇の月光院の心情を知るという事であろう。
高島はそう思った。
最も宮守の野心は月光院とは比べ物にならないほど高く燃えており、迂闊に近寄れば己の身を焦がす炎である。
宮守は少し考えていたが、やがて考えがまとまったのか高島に命令を発した。
「とは申せ月光院の勢力が根こそぎ刈られた今はいい機会でもあるな。高島、源九郎を使って月光院と天英院を始末しろ。どちらを先に始末するかはお前に任せる。事が上手く運んだら、大奥別式の鬼頭泉凪を二人を殺害した罪で捕らえ獄門にせよ。申し開きは一切聞かなくて良い」
「仰せのままに。。」
高島が部屋から出ていくと宮守は笑みを浮かべる。
「天英院と月光院、それに吉宗がいなくなればこの天下は妾の手の内じゃ。その後九代将軍を我々で任命すればよい。我らの言いなりに動く無能な将軍をな」
高島はチリンと鈴を鳴らすと音もなく一人の男が現れた。
男性禁止の大奥で出入りが許されるのは将軍だけであるが、例外もある。
伊賀忍者で、大奥に入った将軍を護衛するためである。
だが、この時高島の読んだ源九郎と呼ばれる男は伊賀忍者ではなかった。
「源九郎、まずは天英院と錦小路を始末せよ。月光院はその後だ」
源九郎と呼ばれた男は「はっ!」とひと言返事をすると再び音もなく部屋から立ち去った。
「お方様は鬼頭泉凪に罪を着せると仰られた。となれば月光院は後回しにし、まずは天英院と錦小路から始末しようぞ」
「月光院の命を狙う者がいるか。。」
「大奥別式である鬼頭泉凪は天英院様を怪しいと睨んでおりますが、当の月光院様が天英院様ではないとおっしゃられるので、私もまずは他を当たるように助言致しましたが」
「天英院と月光院が合わないのは出身が公家と庶民というところでの考え方の違いによるものだ。位から言えば天英院が第一で月光院は第二。それは当人たちもわかっていようし、互いに命を狙うような事は考えておるまい。二人ともそれくらいの思慮はあるからな」
「では、やはり別の何者かが?」
「大奥では余の目も行き届かぬ。相手にもよるが、その鬼頭泉凪とやら一人では手に負えなくなる可能性もあるな」
「泉凪を助けたく存じます」
その言葉を聞いて吉宗は桜に問いかける。
「桜、お前まさか自分も大奥に潜入しようなどと考えてはおるまいな」
吉宗の一言に桜は思わず身体をピクリとさせた。
それを見て吉宗は笑いながら言う。
「正直な奴だ。お前なら女中として潜入させても上手くやるであろうがな」
「もし上様のお許しを頂けるなら」
「ならば近日中に余は月光院と食事をする。その時に大奥へ一緒に出向き、桜を月光院に紹介しよう」
「ありがとうございます」
⭐︎⭐︎⭐︎
江島を失い、実子であった七代将軍家継も失った月光院は表向きはこれまでの変わらなかったが、伴侶と信頼していた者に我が子まで失った喪失感は大きく、彼女は孤独であった。
それに比べれば天英院も同じく伴侶を失っているとはいえ、京から連れてきた者たちが身の回りを世話をしている。
話し相手や相談相手がいるぶんまだいいと言えよう。
上臈御年寄、錦小路もその一人であった。
「錦小路、江島の一件で空席となった御年寄に新たに任命された宮守。彼奴は江島の下にいた者であったな」
「はい。元々は江島付きの女中でした。江島がいなければもっと早く御年寄に出世していたと思われるほど才能に長けておりますが、常に表情を変えず、口数も少ないために何を考えているのかわからない人物でもあります。我々の言葉にも常にのらりくらりとかわすような態度で、人物像が見えてきませぬ」
宮守は元は江島が選んだ女中であった。
容姿は淡麗だが、自己の考えや表情を出す事をほとんどなく、江島も月光院に付かせるには一抹の不安を感じて自身の下に置いていた。
江島に次ぐ才女と言われて江島の居なくなった後、天英院派と月光院派で二分されている大奥においてどちらにも属さない中立を保ち、この地位を確立したのだから相当な手練れであると言えよう。
「得体の知れぬという事か。錦小路、宮守を見張っておけ」
「見張るのでございますか?宮守は月光院とは直接的な関係はないと見受けられますが。。」
「なればこそよ。妾と月光院の勢力に割って入り込み、大奥の権力を手中に収めんとする者が現れても不思議ではあるまい」
「かしこまりました」
錦小路が去った後、天英院は胸騒ぎを感じていた。
「非凡な才能を持ちながらあえて前に出ず、江島がいなくなった後に頭角を現し始めたというのが気になる。もしや一連の江島生島事件も裏で手を回していたのではあるまいな。そして邪魔者を排除し、その後釜についたのだとしたら。。考えすぎかのう。この大奥に大きな災いをもたらさねばよいが」
⭐︎⭐︎⭐︎
「月光院は完全に腑抜けでございます」
高島が平伏している先にいるのは江島の後を受けて御年寄となった宮守。
大奥でも江島に次ぐ才女であったが、反面何を考えているのか得体の知れない人物とも噂されていた。
「腑抜けのう。本当にそうであればいいがな」
「月光院の今の姿は仮の姿であると?」
「七代将軍と江島がいなくなり、勢力と気を落としているのは確かであろう。だがのう、高島。あの女は一介の街娘から御台所にまで上がったのじゃ。あまり甘く見ぬ方が良いぞ」
「。。はい」
宮守も一介の街娘から御年寄にまで出世した人物である。
同じ境遇の月光院の心情を知るという事であろう。
高島はそう思った。
最も宮守の野心は月光院とは比べ物にならないほど高く燃えており、迂闊に近寄れば己の身を焦がす炎である。
宮守は少し考えていたが、やがて考えがまとまったのか高島に命令を発した。
「とは申せ月光院の勢力が根こそぎ刈られた今はいい機会でもあるな。高島、源九郎を使って月光院と天英院を始末しろ。どちらを先に始末するかはお前に任せる。事が上手く運んだら、大奥別式の鬼頭泉凪を二人を殺害した罪で捕らえ獄門にせよ。申し開きは一切聞かなくて良い」
「仰せのままに。。」
高島が部屋から出ていくと宮守は笑みを浮かべる。
「天英院と月光院、それに吉宗がいなくなればこの天下は妾の手の内じゃ。その後九代将軍を我々で任命すればよい。我らの言いなりに動く無能な将軍をな」
高島はチリンと鈴を鳴らすと音もなく一人の男が現れた。
男性禁止の大奥で出入りが許されるのは将軍だけであるが、例外もある。
伊賀忍者で、大奥に入った将軍を護衛するためである。
だが、この時高島の読んだ源九郎と呼ばれる男は伊賀忍者ではなかった。
「源九郎、まずは天英院と錦小路を始末せよ。月光院はその後だ」
源九郎と呼ばれた男は「はっ!」とひと言返事をすると再び音もなく部屋から立ち去った。
「お方様は鬼頭泉凪に罪を着せると仰られた。となれば月光院は後回しにし、まずは天英院と錦小路から始末しようぞ」
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