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3章 フェイトエピソード
3章 エピローグ 〜冒険の始まり〜
~ユリウス視点~
──俺は孝志と橘穂花が待機している部屋を訪れた。
この二人はこれがこの世界に訪れて初の旅となる。しかもこの旅の目的が、異国の王への謝罪という普通では考えらない理由だ。
元々二人が居た世界は平和そのものだと聞くし、ならば今感じてる緊張や不安は尋常ではない筈だ。
ブローノ王子もその事は気にしていたみたいだし、出発前に俺の方からも少し話をして落ち着かせるとするか。
俺は孝志と橘穂花が待機している部屋の中に入ってゆく……すると、部屋の中では意味不明な出来事が繰り広げられていた。
「──うう……ごべんなざい……どうか許して下さい……うぇ~ん……」
入った瞬間、泣き真似をしてる橘穂花の姿が見えた。泣き方が余りに残念だったので直ぐに演技だと解る。
というか何やってんだ橘穂花は?
すると、腕を組みながらその演技を見ていた孝志は、演技指導者の如く首を左右に振りながら橘穂花に近付いて行く。
「……ダメだよ穂花ちゃん。……ヘタッピさ……」
「う~ん……難しいですね~……」
いや、本当にヘタだったけど……いったいこの二人は何をやっているのだろうか?
孝志は澄まし顔で穂花ちゃんと話を続ける。
「いいかい穂花ちゃん?謝罪というのはこうするんだよ……」
すると孝志は大きく息を吸い込むと、まるで立腹しているかの様な表情で言い放った。
「ゆ゛る゛し゛て゛く゛だ゛さ゛い゛!!ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!!」
ああ、うるさいな~これ。
孝志の迫真の謝罪に俺は思わず耳を塞いだ。
「わぁ!孝志さんすごい!それなら謝罪の気持ちが伝わりますね!」
いやそうはならんだろ……もしかしてバカなのかな?
この子あれだな……少し思考がアリアンよりだな。今から気を付けないと将来ヤバくなりそうだぞ。
「はぁ…はぁ……だろ?」
孝志は息切れを起こしながらも、橘穂花の褒めの言葉に得意げな顔をする。
というかこの二人、まさかとは思うが今の感じで謝罪するつもりじゃないだろうな?
絶対にあり得ないと思いながらも、俺は恐る恐る聞いてみる事にした。
「お前ら何やってんだ?」
「「あ、ユリウスさん」」
二人は声をハモらせる。この二人はこういうとき本当息ぴったりだよな。
「ユリウスさん、実はいま獣人国の王への謝罪練習をしてたんですよ。僕の方は完璧です……穂花ちゃんも当日までには仕上げてみせますので安心して下さい」
孝志はドヤ顔を披露する。絶対あり得ないと思ったがそんな事は無かったみたいだ。
橘穂花も「頑張ります!」みたいな表情でいきり立っている。
橘穂花はどういう子かまだ判らないからアレだけど、孝志……お前はこっち側だろ?お前までそっちに行ったら旅の間、俺の胃がもたないぞ。
……というかコイツら全然緊張してねーな、ハハ。
──リラックスさせる為に来たはずのユリウスだが、逆に気持ちが和らぐのだった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
~孝志視点~
あの後ユリウスさんに怒られてしまった。どうやら俺達の緊張を解す為に出向いたのに、俺と穂花ちゃんがふざけてたもんだから「逆に少しは緊張感を持て」との事だ。
まぁ確かにふざけてたけどさ……
いや、俺だって最初は真面目に謝罪の練習してたんだけど、言い出しっぺである穂花ちゃんの演技があまりに可笑しかったから、つい気が抜けてああなったんだよ。
でもお陰で心が楽になった。ありがとう穂花ちゃん。
それにあの子は真剣そのものだったからそれも面白かったし。
──ユリウスさんと合流した後、俺と穂花ちゃんは旅の移動手段となる馬車の前まで来た。
そこではブローノ王子が既に待ってくれており、オーティスさんも一緒だ。
そしてマリア王女とダイアナさん、見覚えは無いが騎士の方々やメイドさん達が見送りに来てくれて居る。
──「では松本孝志、橘穂花、それにユリウス……お気をつけて行ってらっしゃい」
既にブローノ王子やオーティスさんとは別れを済ませたのだろう。挨拶の言葉は俺たち3人に対してのみだ。
そして周りの目があるので、いつもみたいなちゃらけた会話など無い。特にブローノ王子の前だと互いに猫被るというのもあるが。
「ではマリア王女もお元気で……また5日後に」
「……お元気で、マリア王女様」
穂花ちゃんは少しムクれ気味で別れの挨拶をするが、仲が悪いのかこの二人?
「ではマリア、任せたぞ?」
「はい……お兄様」
ブローノ王子とマリア王女が、改めて互いに挨拶を交わした後、五人はそれぞれ馬車に乗り込んだ。
どうやらユリウスさんとオーティスさんには高い騎乗技術があるようなので、二人が交代しながら馬車の操縦をするみたいだ。
乗り込んだ馬車から窓の外を見ると、マリア王女と目が合う。彼女はにっこりと笑顔を俺に向けて来た。
実はもう少しマリア王女と話をしても良いと思っていたんだけど……まぁ後生の別れじゃあるまいし、帰って来たら話す時間くらい沢山あるさ。
そしてユリウスは獣人国へ向かう馬車を走らせた。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
~メイド視点~
旅立つ孝志達……いや、孝志のみの姿を少し離れた場所から覗き見してる一人の女が居た。
その姿を目撃してしまったメイドは、恐る恐るといった感じでその人物に話掛けた。
「あの?ネリー王女様?何をなさってるのでしょうか?」
声を掛けたメイドも、本当は癇癪持ちのネリーに声を掛けるのは嫌だったが、王家専属のメイドとして見かけたからには無視する訳にいかないのだ。
「はぁ?!何を言ってるの?!別に松本孝志を見ていただけよ!」
「……どうしてでしょうか?」
「どうしてですって?!」
この瞬間、問い掛けたメイドはマズイと思った。
ネリー王女が他人に興味を持っていたので、珍しいと思いつい踏み込んで聞いてしまった。
面倒になると思い覚悟を決めるメイドだったが、次にネリーが発した言葉は予想だにしていないモノだった。
「お前は勘違いしているみたいだから言うけれど、愛情込めて見ていただけよ!」
「……え?……愛情……ですか?」
また踏み込んで聞いてしまったが、今度はマズイとは思わなかった。
確かに勇気を持って聞きはしたものの、純粋に一人の女として興味を持ってしまった。
「違うの!ただ本当に好きだから見ていただけなの!……って、もう良いですわ!」
ネリー王女は真っ赤な顔で吐き出す様に言うと、この場から足早に立ち去ってしまった。
私は唖然として立ち尽くし、ネリー王女の去り行く後ろ姿を見つめていた。
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